#宙域戦の終わりと始まり ~帰還[return]~
捕虜となったギャリソン以下、イングラシア帝国の乗員は本国へ帰還する護衛艦に移された
そしてシエルに並ぶはアウルム、そしてインヴィジブル
先の遭難以来、三艦が揃う事となったのである
【シエル ミーティングブース】
「隊長、無事で何よりでした」
アウルム艦長、コーデリアが開口一番に話す
「すまない、色々と迷惑をかけた」
コーデリア艦長が独立部隊の指揮を執っていた
艦の反応を微弱ながら捉えたため、今回増援として駆けつけてくれたのだった
「無事で何よりです、ザラート隊長」
「ドルーア殿にも心配をおかけしました」
現在は第二軍の部隊長として指揮を執るドルーアもまた、ザラート達が抜けた穴を埋める重要な戦力となっていた
「ザラート隊長が行方不明となった時はどうなるかと思ったが、本当に良かった」
「そちらも良く耐えてくれた、本当に感謝する」
「そうそう、彼女を紹介しなくてはな。インヴィジブル艦長のエルミュール殿だ」
「エルミュールです。若輩者ですがよろしくお願いします」
そういって彼女は敬礼し、俺に握手を求めてくる
「ザラートだ。よろしく」
コーデリアに比べまだ経験が浅い、という事は年齢もまだ彼女より若いのだろう
真新しい軍服に身を包んだ彼女は、肩に少しかかるくらいに伸ばした赤色の髪
背格好はアエルに近いだろうか、女性陣の中でも平均的な身長だろう
「独立部隊の方々は噂に違わず、華がありますね」
そういってエルミュールは上品という言葉がぴったりな笑顔を浮かべる
「独立部隊は他の隊と違い女性兵が大半を占める。皆には不便をかけていると思っている」
「ご謙遜を。短い間でしたが同伴させてもらい部隊の事は大体判りました。皆隊長を信頼しており、不平不満の声は全く聞きませんでした」
「そういってもらえると助かる」
「ふふ、ほんと謙虚な方で」
そういってクスクスと声を殺して笑うエルミュール
「では、話を改めて・・・ザラート隊長が遭難した間の事も気になりますが、まずは今後の方針ですね」
表情を改め、エルミュールが、コーデリアが、そしてドルーア、俺が顔を合わせる
今回の宙域での戦闘は我々の勝利で終わったものの、まだ帝国軍の主力艦隊は健在だった
また、今回の攻勢で敵艦隊は目標としていたエルメディアの奪還を中止、我々独立部隊と連合軍の第一艦隊に目標を切り替えた
俺たち・・・シエルが消息を絶っている間の戦況をドルーアから聞く
その戦況は帝国の、いや、ある意味我々「連合軍」の想定通りの動きだったとも言える物だった
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【帝国軍旗艦・ロートリンゲンⅡ】
帝国軍の反撃は想定「以上」の快進撃だった
「ふははは!私の・・・いや、我々の艦隊は敵なしだな!!」
艦橋で自身の戦果と勝ち誇ったように宣言するゲルリング
デュミナスにて艦隊を集結・再編成した帝国艦隊は盟友であるイングラシア、カサンドラ両国の艦隊を編入して一路サンドラへと進んだ
ザラート達、シエルが惑星から離脱せんと、まさにカタパルトを駆る、まさにその瞬間に帝国艦隊は到着したのだった
『閣下!惑星から離脱する艦艇を確認ッ!・・・戦艦です!連合の戦艦です!!』
「僥倖!これぞまさに天からの啓示!かの戦艦を撃破し惑星を取り返せとの天の導き!!」
ゲルリングは饒舌に語り、そして
「前衛部隊に命ずる!戦艦を撃破し、サンドラを我が手中に収めるのだっ!!」
前衛部隊から地上制圧部隊が放たれ、そして宙域から艦艇の援護射撃が加えられる
圧倒的な兵力差、さしたる抵抗もなくサンドラは落ちるだろう
ゲルリングはこれ以上無い充実し高揚した気持ちで満たされていた
・・・サンドラに配備された戦力は最低限の自動防衛システムのみ
サンドラから一般市民も、義勇軍も、そのすべてが秘密裏に撤退していることに
そして独立部隊・・・シエルは殿を務める惑星「最後」の艦艇であることに帝国軍は気付いていなかった
さしたる抵抗もなく、また、帝国特有の「誇張」した戦果報告・・・
地上に居る連合軍を「殲滅」し、シエルを「撃破」したと誤認したゲルリングは追撃を送る事なく、当惑星での作戦を終了していた
結果、サンドラを手中に収めることができた帝国軍であったが
主要な建造物、居住区、そして重要な拠点を自壊させた、蛻の殻と化したサンドラに大きな戦略的価値がない事に改めて気付くのにそう時間はかからなかったのである
そしてサンドラ攻略の後、帝国艦隊はフォレストルへと進路を定める
フォレストル宙域には同星攻略軍として宛がわれた連合軍の第一艦隊が配置されており、地上では第1から第8までの独立部隊が激戦を繰り広げていた
連合軍第一艦隊と、帝国の大艦隊が接触、ここに「第一次フォレストル宙域戦」が始まったのである




