砂上に広がる蜃気楼 ~最終決戦[Side:C]~
グリーレと呼ばれたその帝国の新型機に俺は圧されつつあった
左肩を一撃で粉砕されたものの、そのあとの攻撃はなんとか躱し、そして受け流す事に成功していた
攻撃力、機動力に劣るグロリアスでは敵わないのか・・・
しかし、俺の予想に反し、この戦いは決着が着かぬまま推移することとなる
そして俺達とは別
・・・離れた場所で繰り広げられていたもう一つの戦いも同様であった
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「あ、貴方は・・・」
『・・・名のあるお方と見受ける。・・・いざ尋常に勝負ッ』
先手を打ったのは帝国の新型機だった
一気に距離を詰め、そして近接戦を仕掛ける
「くぅ・・・このっ!」
コキュートスも負けじとガトリング砲でけん制する
『・・・ふんっ』
頭部のガトリングから放たれる弾を命中する寸の所で回避する新型機
(なんて機動力・・・!)
「ファナン!他武器と連携していかないとっ!こちらが火器のフォローいくよっ!!」
「う、うん・・・!」
アキのフォローを受けつつ、私は牽制を兼ねてガトリングを、そして
「いっくよーっ!!」
アキがレーザービットを、そしてビームランチャーを放つ
・・・しかし
『このグラースヒュップに、その程度の攻撃・・・甘いよっ!』
グラースヒュップ、そう呼ばれる帝国の新鋭機は前方に大きく跳躍しコキュートスの3種の連携攻撃を躱す
「うそっ?!これも躱しちゃうの?!」
そしてグラースは・・・そのままの勢いでこちらに肉薄してくるっ?!
「ファナンっ!!」
「くっ?!」
咄嗟に機体を後退させようとするも、砂に足を取られ思う様に動かない・・・
グラースがその両手にビームの双刃を構え、そしてこちらに向かい振りかぶる
このままじゃやられる!
その時、先日行った戦闘訓練でのやり取りを思い出す
(そういえば・・・!)
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・・
・・・
「ファナン、ちょっといいか?」
「どうしたの?ザラート?」
サクル隊との訓練の後、コキュートスから降りようとしたところでザラートに声をかけられる
「コキュートスの戦い方を見ていて思った事があって、な」
ザラートからは時々、戦い方や副官としての立ち回りなど、私のスキルを上げるためにこうやって声をかけてくれることが最近多くなっています
今回は戦い方についてのようですので、アキも同席してもらうことにします
「コキュートスの戦い方、という事だけど。具体的にはどうすればいいかな?」
ザラートに問いかけると、彼は少し困ったような表情になります。どうしたんだろう・・・
「コキュートスは近接戦が苦手な機体。もし相手が格闘戦を得意とする相手だったとしたら、と思ってな」
「うん。確かに射撃特化の機体だから、格闘戦を挑まれたら現状ガトリングでけん制するしかないよねー」
ザラートやアキの言う通り、格闘戦となった時に苦戦するのは模擬戦で何度も感じた事、でも対応するには・・・
「そこで、だ。重装甲故の捨て身・・・になってしまうが、こういうのはどうだろうか」
目の前に差し出されたタブレットに表示されるもの・・・それは
「ちょっと?!本気ッ?!いくらコキュートスが頑丈だからって、これはっ」
アキの表情は今までにないほど怒りに満ちていました
・・・ザラートから示された方法は、ある意味危険を伴うモノ
でも、これは・・・
「こんなこと!ちょっと、ファナンもなんとか言ってよ!!」
「・・・アキ。私は、この方法、悪くないと思う」
「ぇ・・・?ウソでしょ?!」
私はアキに頷き、
「この機体じゃ接近された時点でもう半分以上負けだよ。・・・それなら、この方法は相手の意表も突ける。やる価値はあると思うよ」
「そ、そうだけど・・・っ」
「すまない。なるべくなら使いたくない手だ。・・・最悪の状況に陥った時にだけ、と考えてほしい」
「うん。大丈夫だよ、ザラート」
笑顔でザラートに応える
・・・出来る事ならやりたくない方法。それに、仲間が、そしてザラートが守ってくれるから
使うのは本当にどうしようもないとき、だから
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「ちょ、ちょっと!?ホントに・・・そ、そんなことしたら・・・ウチらだってタダじゃ済まないわよッ?!」
私の思考を読み取ったアキが悲鳴のように叫ぶ
「でも、これしか方法はないよ!」
「そうだけど!!もぅ、ホントどうなっても知らないからっ!!」
アキが半ば諦めた口調で応答すると同時に
『終わりだっ!!』
グラースの双刃がコクピット部を、そして動力部を狙い斬りかかる
が、
「いけえぇぇぇぇ!」
私はミサイルランチャーを斉射する
ロックオンするのは、グラースとコキュートスの間・・・そう、ゼロ距離で
『な、なにっ?!』
グラースのパイロットから驚愕の声が上がると同時に
『ドグオォォォォッッ!!!』
12発のミサイルが至近距離で炸裂する
2機の間で炸裂したミサイルはコキュートスを、グラースを大きく吹き飛ばす
「きゃああああっ!!」
爆風の衝撃で機体を大きく揺さぶられ、私は意識ごと吹き飛ばされそうになる
「くうぅぅっ?!」
痛みを感じないはずのアキですら、苦悶の表情を浮かべています
アキはコキュートスの体勢を立て直そうとしますが、上手くいかないようです
モニターが明滅し、各所の損傷アラートがけたたましく鳴る
否応なしに機体の損傷が尋常ではないことを知らせています
バシュゥッ!!
コクピットのハッチが強制開放される
・・・想定以上のダメージだったようです
完全にモニターが暗転。どうやら動力部にも致命的なダメージが入ってしまったようです
重装甲のコキュートスですらこのダメージです
グラースもタダでは済んでいないはず
私は護身用の短銃を構え機体の外に出ます
周りにはコキュートス、そしてグラースの装甲、武装が飛び散っています
「大丈夫、ファナン?!」
後ろからアキが寄り沿い、私に声をかけてきます
「うん、私は大丈夫・・・アキも平気?」
「ウチは大丈夫。でもコキュートスは直すのに時間がかかるかも」
改めてコキュートスを確認します
・・・両腕は完全に吹っ飛ばされ、何も残っていません
頭部も半壊、背面のレーザービットも、なにより全身も黒く焼け焦げています
これは修理に相当時間がかかる、かな・・・
そして背後に気配を感じ、振り返ると
だらりと力なく垂れる右腕を左手で庇う様に支える女性兵
「・・・お見事、さすが独立部隊の・・・あぁ、貴女だったの・・・そりゃ勝てないわ」
「・・・あっ!」
私の前に居たのは
「ぇ・・・うそ・・・すごい、ファナンが二人いる!」
アキが驚きの声を上げる
そう、私の前には
「ミレディ、さん」
「久しぶりだねぇ、ファナン・・・」
そう、私の前に居るのは、ミレディさん
・・・ザラートの想い人だった人
グラースのパイロットは彼女だったのです
私は短銃をミレディさんに構え、そして
「・・・できれば、これ以上貴女とは戦いたくありません」
「・・・まぁ、私もファナンとは戦いたくない。けどっ」
そう言ってミレディさんは左手に短剣を構える
「私も帝国に仕える一兵士・・・譲れない思いがあるのさっ」
そう言い、一気に私との距離を詰め、その短剣を横に薙ぐ
「まって、私は貴女とは・・・ッ!」
短銃で咄嗟にその攻撃を受け止める
「ファナンっ!彼女は戦う気だよ!貴女も構えないとっ!!」
「そ、そうだけどっ・・・?!」
しかし・・・ミレディさんは負傷しているためか、その一撃は非常に遅く、鈍い
でも、その速さで繰り出す連撃は受け止めるだけで精一杯
反撃の機会がありません・・・
「ぐっ・・・!?」
「くぅ・・・ミレディさん・・・?!」
連撃を繰り出すミレディさんの表情は明らかに苦悶に満ちたもの
よく見ると、だらりと垂れ下がった右腕からかなりの出血が見て取れます
「ちょ、ちょっと二人とも待って!」
アキが私達の間に入って、互いの動きを制する
そしてアキは
「ミレディさんは元々連合の方ですよね?!それもザラートと一緒だったって!」
「なっ・・・?!ど、どうしてそれを・・・?!それになんで彼の名前をっ?!」
ミレディさんは明らかに動揺しています
「ザラートは、私達独立部隊の隊長を務めています・・・ミレディさん、貴女の事を心配されていました・・・」
私は構えていた銃を降ろし、彼女に語り掛けます
「・・・」
「ザラートは、貴女に救われた事を今でも感謝していると。そして、貴女を守れなかったと今でも後悔してる
私も、彼に命を救われて・・・そして貴女にも助けられた!彼・・・ううん、ザラートも貴女が生きていることを喜んでた!
お願い!私は貴女と戦いたくないっ!
帝国の仕組みは私には良く解らないけど、昔の仲間と戦うのは絶対に嫌ッ!お願いッ!!」
カラン・・・
彼女が持っていた短剣が地面に落ちる
気付けば私の頬に涙が流れて・・・
そして、ミレディさんの頬にも涙が・・・
「ぅ・・・ぁ・・・あぁぁぁぁっっ!!」
主戦場から離れた場所でミレディさんの鳴き声が響き渡る
そんな彼女に、私とアキはそっと近づき、優しく抱きしめた・・・
しばらく3人で抱き合った後、ミレディさんは憑き物が落ちたような、すっきりした表情で
「ありがとう・・・貴女のおかげで気持ちに整理が着いた・・・投降するよ」
「ミレディさん・・・」
ミレディさんは笑みを浮かべ
「ザラートにも、ちゃんと謝らないといけないな・・・こんな可愛い彼女にひどい目を遭わせてしまったから・・・」
「ふふ、大丈夫ですよ。ザラートだって判ってくれます」
私が差し出した手をミレディさんはしっかりと握り返してくれました
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・・
・・・
過去の出来事に囚われていた彼女はここに解放されたのである
闇深き、帝国の裏社会に生きて来た彼女
そんな彼女にとって、やはりこちら側は「帰るべき場所」だった
そして、彼女はまた新たな道を歩みだすのであった




