学園祭大騒ぎ その1
学園祭当日、朝から天候にも恵まれ普段は静かな大学構内は一般客も含め大勢の人達で賑わっていた。数々の模擬店にイベント、美術大学らしい作品の展示。広場の中央に立つ五メートルはある巨大なカエルのオブジェは学園祭の象徴として彫刻科の生徒達が作ったものでひときわ異彩をはなち目立っていた。
「仙一郎!仙一郎!カエル!カエル!キモイカエルデスネ!」
リザは興奮しながらカエルの足元まで仙一郎の腕を引っ張る。
「分かったから引っ張らないでくれよぉ…」
「だってカエルですヨ!カエル!」
カエルの何がツボにはまったのかリザは仙一郎の腕に身体をからませ巨大カエルを見上げてケタケタと笑い続けるが、背後にピタリと張り付くようにフレイラが二人に睨みを利かせているので彼は気が気ではない。
「ちょっとくっつきすぎじゃないんですか?」
「は?何を言ってるんデスカ?デートなんですから当然でショ!人の恋路を邪魔するストーカー女の方がよっぽどキモイデスネ!」
二人の様子に業を煮やしたフレイラの文句にリザがたてつき睨みあう。家を出るときすでにひと悶着あって、フレイラとリザの一触即発の言い争いをなだめすかしやっと大学に到着した仙一郎はすでにクタクタに疲れ果てていたのでたまったものではない。
「二人ともケンカはしないって約束だろう?守れないなら帰ってもらうよ。」
仙一郎が語気を強めたしなめると二人は渋々口をつぐみ、彼は大きくため息をつくと二人を引き連れて後輩の川相のウサギカフェに顔を出すため本校舎へ向かう。二階の一番奥突き当りの教室、派手に装飾された入口をくぐるとすぐに三人に気づいたバニーガール姿の川相が血相を変えて駆け寄ってきた。
「ああ!丁度いいとこ来た!フレイラさん助けて下さいよぉ!」
「どうしたんですか?」
「ウエイトレスの子達が食中毒起こして人手が足りないんですよぉ…手伝ってもらえませんか?」
「ウエイトレスってその…恰好するんですよね?それはちょっと…」
フレイラは川相のバニーガール姿を見回し顔を真っ赤にして言葉をにごす。それもそのはず、模擬店のウサギカフェは本物の兎を愛でるカフェではなくバニーガール姿の店員が接客するカフェで、よく大学の許可が下りたなと思うような店だったので難色を示すのも当然だった。
「リザ姉さんもお願いしますよぉ…」
川相はリザの方に向き直ると哀願のまなざしを向けた。川相はアパートの仙一郎の部屋によく出入りしていたリザとは初めて会った時から気が合ったようで彼女の事をリザ姉さんと呼んで慕っていた。その時、仙一郎との関係を川相が訊ねるとリザは
「ワタシは仙一郎の愛人デース!」
などと世迷言を言って仙一郎を慌てさせたものだが川相は頓着せず、今もリザが彼と腕を組んで現れた事もそれほど気にしている様子はなかったが仙一郎は内心ヒヤヒヤものである。
「んん…そうデスネ…」
リザは横目でフレイラの顔をチラっと見るとニヤッと笑う。
「いいですヨ!困ってル人を助けるのハ当然デスネ!フレイラさんと二人で手伝いますネ!」
「はなぅ!」
リザの言葉にフレイラが目を丸くして変な声を上げる。
「ありがとうございます!助かります!それじゃあ早速、着替えに…」
「あ?い?う?え?お?」
川相は素早くフレイラを捕まえると彼女が反論する暇も与えず支度部屋に引っ張っていった。
「リザは良いの?今日はデートの約束だったのに…」
「学園祭はまだまだありますからネ!問題ありません!」
リザは仙一郎の問いにそう答えると二人の後を追って支度部屋へと足取りも軽く消えたのだった。
支度部屋から響くざわざわと騒がしい音を聞きながらしばらく待っていると奥からリザがモデル歩きで現れ仙一郎の前までくるとくるりと回ってからポーズをとる。
「ドーデスカ?似合ってマス?」
肩から胸元にかけて大きく露出した白い肌に黒のバニースーツの引き締まった腰のくびれ。大きく切れ込んだハイレグからすらりと伸びた黒ストッキングの足が完璧なバランスで伸びる。元々スタイルの良い彼女にはバニースーツが実に様になっていた。
「うん。すごくイイと思う。」
「ンフフフ!」
リザはそれを聞くと変な笑い声を上げながら飛び跳ねていたがそんな中、支度部屋の奥から声がする。
「ほら!フレイラさんも!」
「やっ!やっぱり無理ですよこんな恰好!」
「ほら!思い切って!」
「ちょっ!押さないで下さいってぇ!」
川相に無理矢理背中を押され仙一郎の前に引きずり出されたフレイラは腕を組んで身体をねじらせ恥ずかしそうな仕草を見せる。普段のフレイラは機能性重視の開襟シャツとズボン姿の地味な恰好をしてはいたが地は美人なのでリザに負けず劣らずバニーガール姿が似合っていた。ただ、胸が豊満であったため服のサイズが合わず無理矢理ぎゅうぎゅうに押し込んでもその肉塊は半分以上はみ出してしまい深い谷間をのぞかせる恰好になっていたので、どうしてもそこに目がいってしまう。
そんなフレイラの姿をリザはニヤニヤ笑って眺めていたので仙一郎は小声で問いただす。
「手伝うって言ったの、ただフレイラに嫌がらせしたかっただけだろ…」
「仙一郎とワタシのデートを邪魔したバツデス!今日ハ一日じっくり恥ずかしい恰好デ働かせてやりますネ!それに仙一郎も止めなかったのはバニー姿ガちょっと見たかったからじゃないんデスカ?」
「うっ…別に…」
リザの的を射た指摘に動揺を隠せない仙一郎。
「まあ座ってコーヒーでも飲みながラ遠慮なく痴態を眺めててクダサイネ!あのナマクラ、仙一郎に見られるのガ死ぬほど恥ずかしい見たいデスカラ!」
席に無理矢理座らされた仙一郎であったがとりあえず一杯だけ頂くことにしたのは言うまでもない。
ほどなくフレイラがコーヒーを持って仙一郎のところへとやってくる。
「お待たせいたしました!」
生真面目なフレイラらしく仙一郎の前にすっとカップを置きウエイトレスの仕事をしっかりこなすが、やはりどことなく言葉に刺々しさをにじませ怒っているのは明白だった。
「いやそんな恰好で手伝いさせて悪かったと思うけどせっかくのお祭りなんだから楽しもうよ!」
「別に私は楽しむために、ここにいるわけではありません。本分は仙一郎様の警護ですから楽しむつもりもございませんので。」
にべもない返事に仙一郎はため息をもらす。
彼女は何でもそつなくこなせるし真面目な性格ではあったが、いつもどこか張りつめているところがあったのでもう少し肩の力を抜いても良いと彼は思っていた。だからバニーガール姿が見たかったというのもあったがウエイトレスとして学園祭に参加すること自体は良いことだと思っていたのである。
「まあ人手が足りなくて困ってるのは確かだから手伝いは引き受けてよ。」
「ええ、分かってます。捨て置く訳にもいきませんから。」
不満を言いながらも結局、頼みを引き受けてしまうその人の良さに仙一郎は思わず笑みをこぼす。
「ちょっと何ニヤケてるんですか!イヤらしいっ!」
自分の身体を見てニヤついていたと勘違いして両手で身体を隠すようにして後ずさるフレイラに、
「違う!違う!違うって!」
両手を大きく振って必死に否定する仙一郎だった。