表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パルミラ  作者: Yoi
1/15

独り、少女を連れて

ある、今からそう遠くはない、未来の話。



†1

僕らはいつも、一人の少女を連れて歩いている。

白い服を着た、東洋人とも、西洋人ともつかない、愛らしい顔立ちの、4,5才くらいの、女の子。女の子は、パルミラ、と呼ばれていて、誰の連れているパルミラも、みんな同じ顔をしている。


でも、一緒に暮らしているうちに、みんなそれなりに、愛着がわくらしく、うちの子はちょっと背が小さいとか、鼻立ちがいいとか、そんな些細な違いを気にとめては、悩んだり、自慢したりしている。パルミラは、そんなとき、何も言わずに、ただ子供らしい、美しい笑みを浮かべて、にこにことほほ笑んでいる。


パルミラを僕らが連れて歩くようになったのは、いつからだったろう。

携帯電話が普及し、パソコンが普及した時も、そうだったような気がするが、すべて、まるで、あらかじめ用意された水路に、水が流れていく時のように、速やかに、静かに普及していった。気がついた時には、パルミラの販売が開始しされてから、ものの2年ほどの間に、普及率は3割を超えていた。そこから、みんな持っていて当然となるまでに、さらに5年ほどだっただろうか。ともかくも、販売開始から10年しないうちに、パルミラは人々の必需品の一つとなったわけだ。


パルミラ、というのは、そもそも、この製品の商品名に由来している。この少女を作った会社は、そもそも、何とかテクノロジーという、アメリカのベンチャー企業だったそうだが、この商品の爆発的な人気を受けて、ついに会社名をも、パルミラ社に変更した。


パルミラの不思議なところは、他の模造品企業が似たようなものを作っていたのだが、全く普及しなかったところにある。パルミラ社自身も、はじめのうちは、パルミラに、もっとおしゃべりする機能とか、簡単なお仕事をお手伝いできる機能を付けた商品を販売したが、すべて、初代のパルミラほど普及はしなかった。同様に、模造品企業の作ったパルミラ様の品物も、元のパルミラほどの人気を得ることはついぞなく、そうした会社はやがてすっかり諦めて、パルミラ関連の仕事からは、早々に手を引いてしまっていた。


パルミラ社も、もはや、パルミラの性能をさらに上げようなどと言う野心は捨てて、ただ、現行モデルの品質向上などのマイナーチェンジや、修理の対応などに専念しているそうだ。


パルミラは、登場直後から、あまりに完成されすぎていた。だからこそ、人々は、それ以上の変化をむしろ嫌うのだった。パルミラは、パルミラとして、何も言わず、ただ傍らにいて、時々話しかければ、こちらを見て、にっこりと笑ってくれればいい。ただそれだけの需要を満たすためだけの、品物だった。


人によっては、パルミラに愛着がわくあまり、名前を自分でつけている人もいるらしい。しかし、多くの人は、パルミラを、ただパルミラ、と呼んでいる。


パルミラの衣服の背中のボタンを少しだけ開けさせてもらうと、肩甲骨の間あたりに、"Palmira"という名前と、それぞれのシリアルナンバーの刻印が見える。しかし、パルミラが人間の少女らしくないのは唯一その点だけで、後は、完全に、人間の少女そのものなのだった。


手をつなげば、その皮膚の触感や、肌のかすかな暖かさに、驚かない人はいないだろう。


多くの人は、はじめ、販売代理店でデモンストレーション用のパルミラと手をつないでみて、目を丸くする。そして、思わず、その瞳にやさしく笑いかけるように体をかがめて、その愛おしい手を、両手で包みこまずにはいられなくなる。その時から、その人とパルミラとの関係が始まるのだ。パルミラは、そうした、購買者に決定的な変化をもたらすような事態においても、ただ美しく、愛らしい笑みを浮かべて、彼や彼女の微笑みに答えているだけだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ