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ポンニチ怪談

ポンニチ怪談 その23 頭のよくなる薬 知性の逆襲 その1

作者: 天城冴

スガポト首相の元、事実上の独裁国家となった某国では政権のお眼鏡にかなう研究ばかりがされていた。そしてついに”頭の良くなる薬”が完成したが…

トゥルルル

某国首相の執務室に一本の電話が入った。

「何、ついに完成か!早速持ってきてくれたまえ!」

「スガポト首相、どうなさいましたか」

首相の興奮ぶりにカトスギタ補佐官が思わず尋ねると

「ああ、カトスギタ君、ついにできたんだよ!知能が飛躍的にあがるという薬が!」

「そ、それは素晴らしい!学術会議だの科学学会に圧力をかけたかいがありました。内外からの批判も強く、ついに世界の科学界、アカデミズムからも事実上追放されたましたからね、独裁国家と。学会の人事に手をつっこみ予算を絞って、国益にかないそうなことばかりやらせようと四苦八苦しました。学者連中は“先の大戦の教訓を忘れたか”とか逆らってばかり。公職追放だのなんだので、なんとか締め上げてきましたが、他国の目もあり、これ以上の統制は難しかったのですが」

「それらの苦労も報われるのだ!もうアカデミズムの連中にバカにされることもない!我らは彼奴等を凌駕する知性を手に入れるのだからな!」

はしゃぐ首相に少々困惑するカトスギタ補佐官だったが、

「そうですね、我ら政権を嘘つきだの、無恥、無知、無教養だのとバカにした奴等を見返せます」

と内心嬉し気な様子で返答した。


「ご要望の人数分を用意しましたので、お一人ずつ、お飲みください」

数日後、首相の呼びかけで集まった閣僚、議員、メディア関係者など数十名が首相公邸の地下室に集まった。

「これは一錠ずつかね。数は足りているということだが、ほ、本当かね」

薬を片手に説明する男性。白衣で眼鏡という典型的研究者スタイルの男にスガポト首相はおそるおそる尋ねた。

「定期的に継続してお飲みになる必要がありますので、製造を急がねば不足するかもしれませんが。間隔が二週間おきですので、間に合うかと」

「そ、そんなに少ないのか。で、では飲めるのは」

「当分は、この部屋の方々のみとなりますかね。国民全員にいきわたるのは、無理かもしれませんね。政権の皆様の特権ということで」

少しばかり皮肉めいた男の口調にスガポト首相は

「そ、そんな貴重な薬をいいのか」

「まあ研究費のためですから。国家予算のほぼ半分に匹敵する研究費をくださるとおっしゃっていたので。こちらこそ本当によろしいんですね。もし、効用を実感したにもかかわらず入金がなければ」

「ああ、一週間後、効果があれば、すぐにでも振り込む。そうでないと次の薬が飲めないのだろう」

「よくおわかりで。で、ご納得いただけたようでしたら」

「ああ、私から飲んでもいいぞ」

と男の手から渡された薬を手にするスガポト首相。

「くれぐれもお茶などでは飲まれないように。水か白湯で」

「それぐらいわかっているわ」

と薬を口に入れコップを飲み干すスガポト首相の様子をみて、男はひそかにニヤリとした。


「早速の御入金ありがとうございました。いや半額を振り込まれるとは案外気前がよかったんですねえ、スガポト首相は」

男のお礼の電話をかけたのは、スガポト首相ではなかった。カトスギタ補佐官が代理で受けたのでもなく

「そ、そんなこと、よく冷静に言ってられるね!スガポト君もカトスギタ君も大変なことになったんだよ!ハシゲン君なんてご家族を!」

「残ったのはアベノさん貴方ですか。いやはや第二回目までお持ちになるとは、さすが前首相ですなあ」

「ひ、皮肉はいいよ!なんでこんなことに!」

「私はスガポト首相のご要望のとおり、知能を飛躍的に高める薬を作っただけですよ」

「み、みんな、おかしいよ。じ、自分がいかに愚かだったか、バカなことをしたか。以前の自分を考えると生きてはいられないなんて、そんなこと」

「まあ、そうでしょうねえ。公文書の改ざんに偽造、ネットを使った世論誘導で批判者を追い詰める、政策反対者はのきなみ排除、マスメディアや評論家を懐柔して野党やリベラルを稚拙なデマでたたく。あげくに科学的見地にもとづく提言を無視して我々アカデミズムまで攻撃です。まともな為政者、いや人間のやることではないですから」

「だって、野党とか、アカデミズムの連中は、僕たちのやることが、法律無視だとか、人権軽視だとか、その、文句ばっかり」

「お友達だからと税金や公人使って犯罪をかばったり、資質もないのに大学作らせたり、非難されて当然ですけどね。政治家としても人としても最低な世界中から非難され、つまはじきにされても仕方がないことをやったって、頭がまわるようになって、ようやくわかったらしいですね」

「そ、そりゃ、悪いことかもしれないけど、その、何も死ななくても」

半泣きのアベノ前総理の声に男はあざ笑うように

「それが、頭がよくなるということなんですよ。確かに思考が研ぎ澄まされ、鋭敏になり、記憶力も高まる。しかし同時に、自己の存在の卑小さ、行いの愚かさ、能力の限界を理解できるようになるということでもあるのですよ。所詮、大宇宙の中で我ら人間は塵に等しく…」

「そういう能書きはいいんだよ!自分がバカだった、国民にとって最低のことをし続けた非人間、どうしようもない愚か者だってわかって耐えられなくなるんだろう!わかってるよ!ウウウッ」

耐えきれずに泣き出した前総理に男は

「貴男も少しはお利口になったようですね。この間のスガポト首相のご様子だと、うちの研究室の助手程度には頭が回るようになったようですけど」

「頭が回ったっていいことないんだよ!前の自分がどんなにバカだったか、非道な振る舞いをしたかなんて、わかってどうすりゃいいんだよ!償いきれない愚行を思い出して何になるんだよ!自分のバカさ加減に眠れなくなる、自らの愚行のせいで死に至らしめた人がいると思うと食事も喉を通らなくなる。そんなことを思い出したって、考えたって、どうしようもないじゃないか!」

「それで罪を償おうとは思わないんですねえ。でも、後悔はしたんですか?スガポト首相はどう変わられたんです?」

「飲んでからスガポト君はだんだん考え込むようになって。改定前の自分の著作とか、改ざんする前の書類とか見返したり、敵対してたはずの記者がモデルの映画みたり、リベラルの連中が書いた記事を読んだりしてた。そのうち、言うことが、だんだんおかしくなってきたんだよ。ハシゲン君なんかもっとひどいよ」

「お亡くなりになったそうですね、ご一家ともども」

「あんなによく喋る明るい人だったのに黙り込んで、自分の本とか記事とか読み直して、いきなり“俺のやったことはなんて愚かだったんだ!弁護士だというのに言葉もロクに選べず、無教養な上に科学を引き合いに出して人々を騙すようなことをしたんだ!おまけに自分と同類の奴等をあおって地元を滅茶苦茶にしたんだ!故郷を破壊したのも同然だ!僕は大罪人だ!”とか言い出して」

「ご自宅から飛び降りようとしたのをご家族ともみ合ったと。で、奥様とお子様の一人が不幸にも落ちてしまって、絶望のあまり残りのご家族に切りつけたんだそうですねえ。ご自分の遺伝子や考えを継ぐものを、とてもこの世に残してられない、だそうですが」

「それは知事のヨジムラ君、いや市長のマツイダ君かな。違うな、マツイダ君は“俺がこんな人を傷つけてばかりの大馬鹿モノになったのは親のせいもある!”とか言って高齢の親と無理心中だったか」

「おやおや、少しは物覚えが良くなったようですねえ、アベノ前総理。それで、スガポト首相は結局どうなったんですか?」

「き、君は悪魔か。どうせ知ってるんだろう。彼も、自分の罪の重さとやらに耐えられなくなったんだよ。自殺同然いや心中か、結局奥さんや息子さんも支援者も道連れにしたことになるのか、あの死に方は」

「ああ、ドランプ大統領の招待を受けてハグされて帰ったんですよね。大統領ご本人はウイルスに免疫があるとか、検査は陰性だから完全に治癒したとかいってましたけど、やはり新型ウイルスにまだ罹ってたんですね」

「本人だけじゃなく周りだって罹ってたんだから、他の人から移ったのかも知れないけどね。とにかくスガポト君は帰国後の検査を拒否して、咳込んでるのに集会やグループ記者会見でマスクも外したんだ。そのあげく重症化していながら治療を拒否なんて。呼吸器は数が不足しているのだから、本来国民の僕である自分よりも国民を優先するべきだとか、言い出したあげく苦しんで病死だよ。家族の治療も実際にはやらせなかったらしい、同罪だってね。国民に治療を譲ったことで美談になっているけれど、実際は周りを巻き込んだ無理心中みたいなものだよ」

「総理の無理心中とか今のマスコミは書けませんでしたけどね。総理に病気を移されて自社の記者も重症化や死者が出ましたなんてね。しかし、さすがに異様さに気が付いたらしいですねえ。これほど自殺や自殺同然の死に方が政権関係者で続くし、自分の近くでも犠牲者が出ているのだから」

「死んでない人だって、いるよ!いや、狂った方が悲惨なのか。ヨネダ君もヨツウラ君もガンダ君だってキレイだったのに、今じゃ病院に閉じ込められて」

「ほう、どうおかしくなられたんですか」

「“私の言動はオカシイ、いや狂いすぎてたのよ、どうかわたしに罰を”って言ったのは、ヨネダ君だったかな。ガンダ君は自分の報道のビデオを見直して、“こんな出鱈目を公共電波にのせるなんて、なんて私は愚かなの!受信料を払っていただいて、自分の給与になっていたのに、なぜこんなことを。いくらアベノ総理を贔屓にしていたからって、いや好意をもっていたからこそ、行いを止めるべきだったのに、なんてことをし続けたの。そのあげく、この国はー”って叫ぶんだそうだ。毎回同じようなことを言ってるみたいで時々刃物とか振り回すって。ヨツウラ君はご家族にも危害がおよびそうになったらしい。お子さんとか、転校や転職、いや国外脱出か。ミズタ君なんか名前も顔も海外にも知られてるらしいから、ご家族は名前を変えて辺境でひっそりと暮らしていかざるを得なくなったんだ。本人は病院の独房、いやカギのかかる一人部屋に閉じ込められたらしい。面会もできないんだ、自傷が激しく他傷の恐れもあるとかで」

「ああ、彼女らにこそ、この薬が必要ですかねえ。でも、この薬の存在は極秘、機密事項。既に国家予算の1/4が、この薬に使われているというのに、国民には何も知らされていない。精神科の医者たちも彼女らの奇行が絶えないのに知能が飛躍的にあがっていることを不思議に思っていることでしょうね」

「それは、わからない。お見舞いに行ったら“今までの言動を冷静に考える頭があったら恥ずかしくて情けなくて、とても正気じゃいられないよな”とか“普通に考えたら、おかしくなって当然のことしてたんだよね。反省しきれないくらい酷い言動だったからねえ”って看護師や医師の会話がこっそり聞こえてきたんだ。いたたまれなくて帰ったよ。確かにやってきたことを考えたら当然かもしれないけど、ひどい言い草だよ、それをなんとか治すのが医者なのに。もっとも保健所の数を減らし、診療費を実質削った僕らが悪いっていわれればそうかもしれないけど」

「おお、その程度のことがようやく理解できるようにおなりですか、前総理。よかったですねえ。皆様が賢くなって私も薬を作ったかいがありましたよ」

嬉々とした男の声にアベノ前総理は

「もしかして、わかってたんじゃないのか、こうなることは。そうだ!薬の治験をしたんだろ、治験の被検者はいったいどうなったんだ!」

「もちろん、やりましたよ。精神の薬は人間で実験するしか効果がわかりませんからね。さっきいった私の助手ですよ。頭がよくなる薬といったら喜んで志願しましたよ。まあ、志願したのは彼より遥かに頭がよかった同期で別の研究室の助手の存在を気にしていたからでしょうね」

「そ、その彼はどうなったの?」

「まあスガポト総理らと同じですかね。自分の行いとバカさ加減に嫌気が差して死のうとしましたが、一応止めましたよ。罪を償いたいなら、裁きを受けるか神仏にすがるかだと諭してね。刑務所より坊主になるほうがよかったのか、頭を丸めました。もっとも親が余計な手をまわして不起訴になるかもしれないんで、仏門にはいって隠遁生活でよかったかもしれませんね」

「一体、その彼は何を…」

「優れた研究者だった同期が功績をあげていくのに自分はレポート一つマトモに書き上げられない。それに耐えきれず、彼女の論文の実験結果の捏造疑惑を騒ぎたて、彼女が受けていた奨学金を取り消させ、さらにデマを流して恋人との仲を引き裂いた。もっとも私も悪いんですけどね、そんなアホな助手の言うことを真に受けて彼女を失ったんですから」

「き、君が、恋人だったのか。その彼女は…」

「ああ、原子だかに還ってしまいましたよ。私も相当な愚か者です。それでこんなことを思いついたのかもしれませんね。自分の愚かさ、犯罪ともいえる数々の行いに貴方方が、気が付いたらどうなるかって」

「き、君は、メフェストフェレスか、それともファウストか!」

「そんな御大層なものではありませんよ、死んでも治らない阿保につける薬を作り出しただけですから。悪魔ではなく天使に魂を売ったということになるんですかね。残酷な裁きの天使にね」

自嘲気味にいう男は続けて

「さて、次の薬はお飲みになりますか?もっと賢くなれますよ。もっとも、その代償を貴方は払いきれますかね、先進国と言われた我が国の国家予算の1/2でも払いきれないかもしれない代償を」

男は低い声で笑い出した。受話器から聞こえる渇いた笑い声をアベノ前総理は呆然と聞いていた。


他人の賢さに嫉妬して、妬み、嫉み、ひがみでいろいろやる人がいますが、どこぞの国ではトップ連中もそんな感じのようですねえ。しかし頭が良すぎても自分の愚かさや人類の限界がわかってしまい、それなりにマイナス面もあるようです。

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