2 転入生もゲーマー
連載再開します!
Wi-Fi環境整ったああああ! わーい!!
と、言うことでまたまたよろしくお願いします!
「……ラーメン一つ」
「……」
「あのう! ラーメン一つ」
「ーーああ、はいはい」
昼休みになり、学食へ来た。
ラーメンを頼んでいるのにも関わらず、一回無視され流石に苛つく。
いや、モブである俺が悪いのかもしれない。
だが、どっちにしても酷い話なのは変わらない。
自分が俺を無視したにも関わらず、慌てる素振りも見せない学食のおばあちゃんからラーメンを受け取り、代金を渡してそそくさと空いてる席へ向かう。
適当に空いてるところへ座り、一味を掛けてラーメンを啜る。
基本毎日、お昼は一人で済ませている。
「ーーあのう」
「ん?」
「横、良いですか?」
箸を置いて後ろを振り向くと、レディースランチを持って如月が立っている。
教室だと嫌でも隣同士な訳だが、如月を嫌いと言うわけでは無いので、
「うん」
「ありがとう御座います!」
頷いてやると、如月は素早く横に座った。
平日に、誰かとお昼を一緒に食べる当たり前なことを、俺は何年ぶりかにして経験する。
一人で食べるお昼が、俺の中では当たり前になっていたがーー
誰かと食べる飯はやはり美味いと感じる。
「お昼は毎日学食ですか?」
「あ、うん。両親共働きで、弁当作ってもらえないから。妹が作るとか言って張り切っていたけど、負担かけるからやめてもらってーーそしたら学食に」
「そうなんですか。私は今日たまたま寝坊してしまったので弁当じゃないんですけどーーあのう、明日から弁当一緒に食べますか?」
「……え?」
今何て言いましたか? リピートアフターミー?
「お弁当ーー私が作ってきます」
それはとても健康になれそうだ。
そう思う反面、転校初日の子に弁当を作らせるほどに同情されているようで心が痛む。
わざわざクラスメイトに作ってもらうなら、林檎にお願いしたほうがこちらとしても気遣いがなくて楽だ。
特に林檎は、家族の中でも俺の言うことは小さい頃から、そして今でも、唯一聞く変わり者である。
兄の存在なんて、中学生の思春期真っ只中の女子からしてみれば煙たいはずだ。
だが、例外は身近に存在している。
如月に弁当を作ってもらうか林檎に頼むかーー
もちろん即決で林檎にお願いする。
同情するなら、弁当よりも金が欲しい。
「迷惑ですか?」
「いや……妹に頼もうかなとか」
「そう、ですか」
何故か悲しそうな表情を浮かべる如月。
俺の何がいけなかったのか? 気を遣ったことだろうか?
結果、何がいけなかったよりも、女子に悲しい顔をさせている現状が一番男していけない。
「ああ! やっぱり……お願いしようかな」
「はい!」
急に笑顔を浮かべた如月にホッとするが、だが、空気並の存在価値で気付けば背景に、そしてボッチの金曜日までより、今の方が断然高校生活を生き辛く感じてしまう。
俺は隣のこの女子がーーやはり苦手だ。
♡
昼を食べ終え、お盆を返却して缶コーヒーを片手にまだ食べている如月の横に戻る。
別の席を選ぼうとしたが、満席でどこも空いていなかった。
無言で座り、そしてコーヒーを飲みながらスマホでゲームを立ち上げる。
ユーザーIDとパスワードがあれば、PCでもスマホでも関係なくログインできるのがネットゲームの利点だろうか。
ネットゲームを開始し、片耳だけイヤホンをしながらキャラを操作する。
ステラさんも転校初日ーーやはりログインしていない。
……暇だからソロプレイでもしようか?
俺はダンジョンへ一人で潜ることにする。
「ーー何をしているんですか?」
「え、なんて?」
如月に話し掛けられたが、聞こえなかった。
イヤホンを外し、もう一度言ってもらうことに。
「何を、しているんですか?」
「これ? あー……如月には多分、分からない分野」
「ゲームだってことは分かります。そうじゃなくて、何でダンジョンへ一人に? ソロプレイならイベントクエストの周回が効率が良いと思うんですけどーー」
如月がペラペラと、独り言のように効率を語りだす。
呆気にとられ、聞く耳を立ててしまう。
イベントクエストの周回が効率良いことは、俺も分かっている。
呆気にとられたのは、ゲームをするように見えない如月がやたら詳しいことにだった。
「え、何……ゲームするの?」
「しますよ? 私だって、自称ですけどゲーマーです」
「これ、やってるの? 【クリスタル&ケルベロス】」
「え、いつも一緒にーーいえ、まあ……リリース日から」
少し耳を疑う発言だったように思えるが、気にしないで良いだろう。
リリース日からやっていると言う如月に、是非プレイヤー情報を見せてもらいたい。
お願いしてみると、首を横に振られ断られてしまった。
折角クラスメイトに同じゲームをプレイする仲間を見つけたと、嬉しかったがーーフレンドになることはできそうにない。
ステラさんと三人でゲームを楽しむことは無理そうだな……残念だ。
「じゃあ俺ーーもう教室戻るから」
「あ、私も食べ終わったので一緒にーー」
「沙苗ちゃーん! 雅先輩が来て欲しいって!!」
「は、はい! すいません、あのうーーあとでまた、ゲームの話しできますか?」
「あ……うん。じゃあまた、後で」
俺は如月に手を振り、教室へ一人で戻る。
雅先輩ーー有名な三年生の名前だから何となく知っている。
山田雅人ーー貴公子と呼ばれるイケメンだが、裏の顔はヤンキーらしい。
それでも表の顔しか見ていない女子からは、高い人気を誇り振り向いてもらうために頑張っているらしい。
そんな有名人から呼び出されるとは、如月も大変だ。
俺からしてみればーーただの女子なのだが。
如月と別れ、教室へ戻ってみると忘れっぽいのか席にスマホが置かれている。
誰も盗まないから良いが、もう少し注意深くなった方が如月は良いだろう。
俺は如月のスマホを持ち、娘の忘れ物を届ける母親の気持ちで探すために教室を出る。
戻ってきてすぐにまた出ていくことになるとは思わなかったが、しかしスマホは肌見放さず持つべきである。
届けてあげたほうが良いはずだ。
多分告白だと思うーー別れて五分もしていれば、終わっているだろう。
校舎裏辺りが告白スポットと相場で決まっているからそこから見ていこう。
「ーーお、いたいた。まだ話してるのか?」
校舎裏に行くと、やはり桜の木の下に如月は居た。
しかし、まだ先輩と話し込んでいるらしい。
俺はそっと近づいてみる。
「ーーだから、付き合えません」
「いやいや、俺と付き合えよ」
「無理です。私には好きな人が居ますから」
「誰だよ、言ってみろよ。俺より良い奴いるわけねーって!」
「だからーー私は好きな人がいるんです!」
「だーから。そいつ誰? 俺が忘れさせてやっから、名前言ってみろってーーなあ!?」
何やらしつこく迫られているらしい。
覗きをしているみたいで罪悪感はあるが、興味深かった。
しかし、気付いたら俺は有名人の手首を掴んでいた。
そして、睨み上げていた。
如月が雅先輩に腕を無理矢理掴まれたのだ。
ゲーム仲間が痛がっている姿を見て、放っておけないのはヒーロー気取りなのかそれとも、これもお節介なのかーー
「先輩ーー女子に手は上げたらいけないですよ?」
「誰だお前……」
「俺ですか? 俺は背景からふらりと現れた気まぐれのーー幽霊ですよっ!!」
そして俺はーーーー先輩を背負投げした。
小学生の頃に柔道を習い、黒帯まで一年と掛からず成長した俺は、ある意味モブ史上最強と言えるだろう。
モブなのに、空気なのに、武道に一度は身を置いた存在。
ライトノベルに登場するモブ主人公にあるまじき設定だ。
先輩は強く背中を打ち、悶ている。
悶絶状態の先輩を跨いで、俺は如月の前に立つとスマホを出して渡す。
「忘れ物。スマホは肌見放さず持ってないと」
「あ、ありがとう……御座います」
「じゃあ俺は教室に本当に戻るからーー」
先輩を投げた俺に驚いているのか、スマホを届けたことに驚いているのか。
それは如月本人しか分からないが、目的を達成した俺は今度こそ本当に教室へ戻って静かにライトノベルを読める。
校舎に入り、廊下を少し歩いていると、
「ーー待ってください!」
如月に呼び止められる。
俺を追いかけてきたらしい。
膝に手をついて息を荒げる如月は、少ししてから髪を耳に掛けながら顔を上げる。
「た、助けてくたんですよね?」
「助けた?」
助けたつもりは一切なかった。
しかし、結果的には助けたことになる。
ここは話を合わせて助けたことにしておくのが、ベストだと判断し、
「ま、まあ……」
何となくで返事しておく。
「その、嬉しかったです……。か、茅野君? さん? えーと」
「いや、もう名前で良いから。それと呼び捨てで良いよ」
「えーと……はい。……かず、き……ありがとう御座います」
「う、うん。まあ、何となくだから」
頬を赤らめる如月に、俺は困惑してしまう。
反応が取り辛いーー
クラスメイトなのに、敬語だと調子を狂わせられてしまう。
「……何か、お礼をさせてください!」
「……」
一番困った事態となってしまった。
お礼をさせてくださいと言われても、何もこちらから要求することが無い。
どうしようか……敬語をやめてもらうくらいしか思いつかない。
「な、何でもします!」
「……じゃあ、敬語無しで」
やはりそれしか、俺から要求することはなかった。
如月はきょとん顔を浮かべるが、数秒してから「え、それだけ……ですか?」と不思議そうな顔をされ、次に俺がきょとん顔を浮かべることとなってしまった。
「う、うん」
「もっと他にこうーー色々と」
「無いんだよな……そう言われても俺には。とりあえず、タメで話して欲しいが今一番のお願いだから」
「そ、そんなーー……わ、分かった」
素直になって、お願いを受け入れてくれた。
そして俺と如月は、その後無言のまま教室へ戻り放課後まで会話をすることはなかった。
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