1 美少女な転入生
ーー土日は酷く暇だった。
ただそれだけで、終わっていった。
金曜日の夜にステラさんとチャットして以降、家族以外の誰とも会話をしていない。
もちろんそれは、今日のような憂鬱だけが押し寄せてくる月曜日も変わらないのだがーー
学校が楽しみと思っていたのは、小学校高学年になるまでくらいだろうか。
学年が上がる度に話す相手が減り、高校一年生になったら見事ぼっちだ。
控えめにいって、人生に嫌われた。
違う高校ならもしかするかもしれない……。
その考えは、見事二ヶ月程前の冬で壊れた。
実は、今通う高校に来たのは十二月で一度転校を経験している。
俺の願いは結果届かず、何処へ行っても背景との同化は変わらなかった。
今が二月で、もう既に春先と思って良い季節になってきている。
俺は土日の暇な時間、ステラさんの転校する時期が悪いことについてずっと考えていた。
高校生で春先となれば、俺と同じ一年生だった場合に既に輪が出来上がっている。
そうなると、出来上がった輪に入ることは難しく、その上、進級して二年生になってしまうので更にクラス替えで他クラスから友達が集まることもあり、ぼっちになる可能性が高い。
一番転校したくない時期がこの春先である。
しかし、俺の場合は友達を作る以前の問題だった。
一般的な高校生と考え方が大きく違っても不思議ではない。
友達って、普通ならば簡単に作れるものなのかもしれない。
なら、どれだけもがいても作れない俺は、ある意味で選ばれし者と決まってしまう。
(モブ史上最強の男って、もう自分から名乗る方が潔くて格好良いかもしれない)
あれこれ考えを並べた上で、『モブ史上最強』と潔く自ら認めることにした。
むしろそうすることで、辛い現実から目を逸らせる。
「ーーあのう」
「……」
「ーーすいません!」
「……? 俺……ですか?」
声を掛けられているとは思わず、最初は無視したが流石に二回目で気づいた。
後ろを振り向き、自分で自分を指差すと、声を掛けてきた女子は頷く。
同じ制服ーーネクタイの色が赤だから、同学年。
赤茶色の髪は細くまるで絹のよう。
キツくない釣り目と、小さな涙簿黒。
キャラクターのように整った顔と七等身の体。
細く、少し触れただけで折れそうな手足をしている。
「あのう、風見高校に連れて行って欲しいんですけど……」
「連れて行って……って。転校生?」
「は、はい。今日から風見高校へーー男子制服を着ているので連れて行ってもらえるかな? なんて」
「……ああ、えーと」
俺は動揺を隠しきれず、何故か一歩後ろに下がってしまう。
「だめですか?」
「だめっていうか……何で、俺?」
本当に、何で俺なのか疑問でしかない。
まず何故ーー俺を認識できているのか、そこから解いていきたい。
「何となくですけど」
「……ま、まあ。そうだと思うけど」
分かっているが、何となくで済まされたくない。
とりあえず落ち着いて、俺はなるべくこの女子から目を逸らして話すことにする。
ーー目が合うだけで動揺してしまう。
「あー……えーと。良いけど」
「本当ですか? でしたらお願いします」
「ああ、はい……はい」
学校まで連れて行くのは良いとして、横に並んで歩くか前を歩くかーー悩みどころだった。
悩んだ末、誰もが理解不能だろう後ろに立って歩くことにした。
「ーーあのう、どうして後ろなんですか?」
「ちょっとこっちにも事情がーー」
「は、はあ……。あのう、右ですか、左ですか、真っ直ぐですか?」
「真っ直ぐで、その次を右に」
まるでナビのように学校までの道のりを後ろから教えていく。
見た感じは俺が道を連れられている光景も、他の人には前を歩く彼女が一人でさくさく学校へ向かっているように見えているはずだ。
前を歩き、少しでもペースを上げてしまって彼女が小走りしたり止まったりなどしていれば、転校初日から痛い奴に見られても可哀想だ。
相手のことを考えた上での後ろからのナビを、俺は選んだと言い訳しておく。
「ここですね。ありがとう御座います」
「……じゃ、じゃあ」
学校に着き、俺は彼女に手を振って校舎へ駆け込む。
学校を良い逃げ場にした瞬間移動だった。
「ーーあのう!」
「え……まだ何か?」
「クラス、教えてください」
「……え?」
♡
転入生は、朝職員室で担任と合流してから何組か知る。
だが、転校の経験が無いのか俺にクラスを教えてくれと言った彼女は、拒否しても後ろを着けてきた。
仕方なく、俺のクラスを教えて職員室へ行ってもらおうと考え、連れてきてはみた。
もちろん机なんて増えていない。
俺の隣の席は、転入生として入ってきた冬から誰も座っていない。
最右列、最後席ーーそこに誰かが座ることは絶対にない。
そもそも、うちのクラスにこの女子が入ってくることがないのだからーー
「じゃあ職員室に行ってーー」
「何や茅野。転入生連れて、知り合いやったんか?」
「おはよう御座います……桐谷先生」
「担任の桐谷先生ですか? 今日からお世話になります」
担任の桐谷明日香先生が、教室の前で立つ俺達の元へやってきた。
挨拶をすると、彼女も続いて挨拶した。
(……あれ? 今担任のーーって言ったよな?)
「先生、この人うちのクラスなんですか?」
「この人って、何や知り合いちゃうんか? まあ、どっちでもええけど、お前の隣やでな茅野」
「そうだったんですか! あ、道を教えていただきありがとう御座いますーー如月沙苗と言います。今日からよろしくお願いします!」
彼女ーー如月沙苗は深々とお辞儀をすると、顔を上げて微笑んだ。
もちろん俺はーー苦笑した。いや、失笑した。
♡
「……名前なんて言うんですか?」
「茅野……和樹」
「えーと、じゃあ和樹さんは今何を読んでいるのですか?」
「……ライトノベル」
如月沙苗は、クラスメイト全員の前で挨拶をした後から、休憩時間の度に女子グループに連れて行かれては「ガード硬いってえ!」と言われながら戻ってきたりを繰り返していた。
たまたまトイレに行った時に聞いた話では、どうやら告白がお祭り状態となっているらしい。
美少女だ美少女だと、男達は騒ぎ立てているようだが、二次元のヒロインを一般的に美少女と言うだけであり現実の女子は綺麗か可愛いかの二種類しかいない。
美少女とは美しい少女を短くした単語で、三次元に美しい少女なんて存在しない。
第一、居たとして美しいの判定基準は? と、そこで論争が起きると思う。
まあ、俺からしたら美少女でない普通の女子である如月沙苗は、告白を全て考える素振りもみせずに断っているとか。
会話を少しして分かったのは、彼女の性格からしてそもそも考える気が一切無いということ。
学校まで連れて行ってほしいと、俺に頼んだあの時も自分でスマホを使って道を確認することもしなかった。
つまり、考えないーーこうと決めたらこう! そんなストレートで裏表のない、一番面倒な人間だ。
その事に誰よりも早く気づいた俺は、話し掛けられても全く喜べない。
担任以外に認識されていない俺は、本来喜ぶべき事態なのだろうがーーむしろ放っておいて欲しいと願ってしまう。
「なんてライトノベルですか?」
「……俺妹」
「おれいも? お芋のお話なんですか?」
「いや、インターネットで調べたらちゃんとしたタイトル、分かると思うけど……てか、何で俺にばっか話し掛けるの?」
「え?」
きょとん顔をして、首を傾げられてしまう。
何故俺を認識できていて明らかぼっちな野郎に、どうして話し掛けるのかと疑問を抱く俺が、首を傾げたい。
如月沙苗は、首を戻すとやはり考えなしにさらっと答える。
「隣だからです」
「…………だろうね」
「はい。あ、あと私のことは如月か沙苗かのどちらかで適当に読んでくださいね?」
「……う、うん。分かった、如月」
馴れ馴れしくあえてしないために、苗字で呼ぶことにする。
「じゃあ如月ーー朝、何で俺が見えたんだ?」
「んんん? 質問の意味が……前を歩いていたからです」
「……ごめん。聞いた俺が馬鹿だった」
こいつは考えないーー裏表が無いせいか、思いつきで言葉を発するタイプの人間。
俺は諦めて、静かにラノベへ目を落とす。
……これから毎日、如月に対する不満も増えそうだ。
ため息を吐いて本を閉じると、同時に始業のチャイムが鳴り響き四限目が始まった。
お読みいただきありがとう御座います!
通信制限まで投稿がんばります!
ローファンタジーもぼつらやっていきますよ!
面白い、主人公に同情した、前作から来たよ!って方は、是非評価のほうよろしくお願いします!