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ドッグファイト

 ◆


「スカイラーク、ドラゴン。ピクチャー、バンディッツ 2グループス、ハイスピード。ブルズアイ1-3-0、フォー0-5-0。ターゲット エンジェルス20」


 AWACS(エーワックス)(早期警戒機)からの通信がコクピットに響く。待ちかねていた敵機情報だ。

 同時にRWR(レーダー警報装置)に27の文字。敵はロシアのSuスホイ-27だ。思ったより近い。ミサイル誘導性能の差から言って最初の攻撃は敵さんからになる。


「スカイラーク01、ウィルコ」 と俺はAWACS“ドラゴン”に応答する。


「ハイエナ! ドジったら承知しないわよっ。大口叩いた責任は取りなさいよねっ!」


 ドラゴンの機長はクリスナイフと言う女だ。昔からの腐れ縁だが、いつもやたらと俺に突っかかってくる。


「ハイエナ呼ぶな。俺のTACネームはヴァイパーだ。だいたい大口叩いた記憶なんて全く無いね」


「あら、そうだったかしら“デフォ使いのハイエナ”さん。私はこのキャンペーンに200ポイントも払ったの。一機でも攻撃機を失ったら、あんたをぶん殴る。っていうか命は無いと思いなさい」


 クリスナイフはイスラエルに住む金持ちの娘だと聞いた事がある。多少のポイント増減なぞどうでもいい身分だろうに。それともロールプレイで貧乏を楽しんでるのか? 俺のような真の貧乏人にとっては癪に障る話だ。とびっきりの皮肉で返してやろう。


 その時、警報が鳴った。


 RWRに表示されるMの文字。敵の中距離ミサイルが発射された。こちらのECM(電子対抗手段)は効かなかったらしい。

 回避にはまだ早すぎる。誘導がミサイル本体の内蔵レーダーに切り替わるタイミングを待つんだ。

 俺だってこの試合に100ポイントも払っている。絶対負けられない。

「スカイラーク、マージド」AWACSドラゴンが素っ気なく俺たちの会敵を告げた。


 うわずった声の無線が響く。

「ヴァイパーどうしよう? ミサイル来るよ」


 僚機のアミュレットだ。完全にパニクってる。まあ無理も無い。こいつにとって初めてのキャンペーン参加なのだ。いつもどおりやればいいだけなのに、ちょっと緊張しいのとこがある。


「落ち着け。狙われてるのは俺だ。お前が焦ってどうすんだ」


「落ちないでよ。ヴァイパー!」


「落ちるかよ。それより俺から離れるな。単機で敵と交戦になるぞ」


「わ、分かった」


「速度を落とせ、俺を待て。ミサイルは今、回避する」


 敵ミサイルを視認タリー

 白煙を吐きながら向かってくる三発のロシア製R-77。ほぼ並行に二発。時間差で遅れて一発。俺はアフターバーナーを点火し回避機動を開始する。

 バーナーの猛烈な推力が、俺の身体を押さえつけた。仮想世界の偽物のGが、今は本物と化して俺を押しつぶす。脳が偽物と見抜けなければ、それは俺にとっての本物だ。パイロットスーツがGに対抗して身体を締めつけた。


 ビーム機動とチャフで最初の二発を振り切る。だが避けきれなかった三発目が俺の愛機“F-16(ファルコン)ブロック50”の至近距離で爆発した。機体にダメージは無い。直前に射出したAN/ALE-50デコイに喰らいついたのだ。

 俺は体勢を立て直し自機レーダーをRWSレンジ・ワイル・サーチモードに切り替え、必要な諸元データを確保する。敵は二機の一編隊だ。間もなく肉眼でも確認出来るだろう。

 さあ今度はこちらの番だ。


「オール スカイラーク、ウェポンズ フリー。エンゲージ マイターゲット。いくぞアミュレット」


「アミュレット、ウィルコ」


 MFD上の敵影が点滅した。自機のAIM-120(中距離用 空対空ミサイル)が発射可能(READY)だ。中間誘導が出来ないブロック50でも、今の距離ならいけるはず。


 アミュレットがミサイルを発射。「アミュレット、フォックス スリー」

 俺も負けずにコールする。「ヴァイパー、フォックス スリー」


 白煙を吐きながら遠ざかっていく二発のミサイル。稼ぎ時はこれからだ。


 ◆


 俺がプレイしてるゲームはワールド・ウォー・オンラインと言う。現代戦に特化した世界的に人気のある戦争ゲームで、シミュレーション色の強いVRMMOだ。戦場の一兵士となってリアルな戦闘を体験出来る大規模オンライン・ゲームとして広く知られている。


 陸海空全ての戦場をシミュレート可能で、同時参加可能プレイヤーは数万人規模。ファンタジー主流の日本での人気はいまいちだが、軍オタはどこにでもいる。国内でも15万程度のアカウントはあるようだ。

 と言っても日本向け専用サーバーを設置するほどの数では無く、ゲーム世界は海外と共用。味方も敵も外国人がほとんどだ。しかしグー○ル社の翻訳機能より格段に優れたゲーム内の通訳機能が実装されており、プレイに支障は無い。彼らが喋る言葉は違和感無く日本語に自動変換される。


 だが、全ての言葉が聞き取れるってのも善し悪しだ。

 これは戦争ゲームだし、血の気が多い多国籍のプレイヤーが現代戦を戦う……ゲーム内の雰囲気はお察しの通りだ。ちょっと何かあれば怒号飛び交う戦場と化す。しかもこのゲーム、戦闘描写が極めてリアルなのだ。プレイヤーがエキサイトする(し過ぎる)条件は整っている。


 もっとも、ゲームが荒れるのはそれだけが理由じゃない。

 このゲームではゲーム内通貨(ポイント)が本物のドルに換えられるのだ。レートもかなりいい。

 運営公認の両替商にポイントを渡せば、登録した銀行口座に本物のUSドルが振り込まれる。多少の変動はあるが、換算レートはだいたい1ポイント=1USドル相当だ。


 このゲームのヤバさはそこにある。ワールド・ウォー・オンラインはリアルな戦争ゲームというだけじゃない。一部のプレイヤーにとってはギャンブル場でもあるのだ。

 勝てば、ぶんどった勝利ポイントを味方で分ける。負ければ賭けたポイントをそのまま献上することになる。実を言えばそれが俺の飯のタネだ。カモを相手にポイントを稼ぐ。それが俺の仕事ってことになる。この戦場は俺にとっての職場なのだ。


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