保安官補佐(掌編)
イーサンはこの日、三杯目のウィスキーを頼んだ。この仕事の良いところは、昼間から酒場に居ても歓迎されるところだ、とグラスに注がれたものを飲み下しながら考える。先月から始めた保安官補佐の仕事は、かなり気楽だった。揉め事がない時には、自由に町をぶらつくだけで”パトロールお疲れ様です、サー”と声をかけられる。
好きに酒が飲めて、他人にも尊敬される。イーサンはこの仕事が気に入りかけていた。
その時、突然ギャンブル席から銃声が響いた。
慌てて自分の席を離れる。足が絡まりそうになったが、なんとかカウンターの裏に身を隠せた。何が起きたのか確認しようと頭を出すと、酔っ払いの男が銃を振り回している姿と、その近くにいた客連中が慌てて逃げようとする姿が見えた。男はカードが、いかさまが、馬鹿にしやがってと言うようなことを怒鳴り散らしている。飲み過ぎだ、正気じゃない。イーサンは自分の職業を思い出すと男に向かって声を張った。
「この州での殺しは吊るされるぞ、だれかに当たる前に銃を捨てろ!」
「うるせえ、お前もグルなんだろう!殺してやる!」
男が発砲した、頭を引っ込めるのが遅ければ死んでいただろう。男は更に撃ちまくる。放たれた弾丸のうちの一つが、飾ってあったボトルの上半分を吹っ飛ばした、ウィスキーが強く香る。もったいない、イーサンは瓶からこぼれる琥珀色を自分のスキットルに汲み取ろうとしたが、再び放たれた銃弾によって瓶のもう半分も砕かれてしまった。男は弾切れになった銃を捨てると、もう一丁を抜いた。
悲鳴と罵声が聞こえる、逃げ遅れた客たちは店の隅で震え、我先にと逃げ延びた客は店の外から”暴漢を撃ち殺してしまえ”、”保安官は給料分働け”と、好き勝手にヤジを飛ばしていた。
言われなくてもそうするさ、イーサンはベルトから銃を抜くと、弾を確認して撃鉄を下ろす。
六発、いくら下手でも撃ちまくれば一発ぐらいは当たるだろう。どうか当たりますように、目を瞑り神に祈る。首から下げたロザリオの十字にキスをする。
もう十分だ、イーサンは目を開けると、バーカウンターを勢いよく飛び出した。