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猫は布団で丸くなる。

十一月末。時節も秋を過ぎてそろそろ冬と言っていい頃だ。特にこの町の冬は厳しい。だと言うのに……

「わ、ねこだ」

「本当だー。ねぇ先生、うちのクラスで飼おうよー」

 子どもは風の子という慣用句はあながち嘘でもないらしい。寒さなんてなんのその。私の教え子たちはまだまだ元気だ。

「アホか。もうちょっと考えてから喋ってくれ受験生」

「もち先生ひどーい!!」

 もち先生。それが生徒たちが私に付けたあだ名だ。餅なんてかわいい食べ物、私には到底似合わないと思っているのだが。生徒曰く「淡白な性格にぴったり」な名前なのだそうで。まあ、あだ名は親愛の証だ。臨採教師ながらしっかり担任が務まっていると喜んでおこう。

 部活終わりの生徒たちを校門まで見送りながら、私、森本千代も自宅への帰途に着く。

 と、校門を出た角を曲がったところで声を掛けられた。

 高めの身長に凛々しく整った顔立ち。肩口で切りそろえられた黒髪はうっすらマフラーに掛かっていた。

「もち先輩、一緒帰りましょ?」

「みどりか。ってかお前また私の帰りまで待ってたのか……」

 律儀な奴め。

「えぇ!わたくし芝村一茶はもち先輩まっしぐらの忠犬系後輩ですから!!」

 訂正。一途な奴め。本当にかわいい後輩だ。よしよし。

「わふ~~~」

 頭を撫でてやると嬉しそうに頬をほころばせる。かわいいな。実は私の方が懐柔されてたりして。食えない奴め。

「でも先輩。私みたいな大型犬は置いとくのに子猫はバツなんですね。私、先輩のおうちに一匹増えたくらいで嫉妬はしませんよ?」

「ペットプレイを仕込んだ覚えはないなぁ~」

「主に命ぜられずとも完璧にニーズに応えるのが忠犬の役割ゆえ……」

「忠犬ボーナスで私の性癖を増やすな。っていうかまあ、マジレスすると猫拾ってる余裕とかないんだわ」

「あら、なんだかんだ押しに弱い先輩はそのうち可哀想な子猫を拾ってしまうものだと思っていました」

「誰が雨の日のヤンキーだ。いや……あながち間違いでもないか……。」

みどりと話し込んでるうちに自宅の前に着いてしまった。

「みどり、今日うち寄ってけ。お前がいないと困る」

「!?!?先輩の方から自宅にお招き下さるなんて!!もち先輩……黙ってはいても切ない夜をお過ごしになられていたのですね……!」

「仮にそうだったとしてもお前はナイわ。みどり、お前さっき私の家に一匹増えてても無問題とかなんとか言ってたよな」

「?はい、確かに言いましたが。愛とは上限値の無い単位ですので」

「たくましすぎる理論だ……まぁ良いや。さっきの話な、なんで猫を私が拾ってこなかったかって」

 私は自宅のドアを開ける。

 1LDKの狭いアパート。ビール缶が転がりタバコの臭いが染みついた私の城。

 そのリビングに敷かれた白い布団の上には。

「もう一匹拾ってきちゃった」

 真っ黒な少女が丸くなっていた。


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