第一話 星
佳織のお腹には、新しい命が宿っていた。
今はもう、旦那は天国にいってしまったけれど、きっとこの子は、旦那からの贈り物なんだろうな、と佳織は思った。
佳織の夫、孝之は、建設現場で仕事中に、不慮の自己に巻きこまれて、他界した。
佳織の妊娠が発覚したのは、その後のことだった。
佳織はお腹のなかの子を、自分よりも大切な宝のように、いたわり尽くした。旦那を失った悲しみはまだ癒えないけれど、その分だけ、この子を大切に育てようと思った。佳織にとってその子は、生きがいそのものだった。
そこに不穏な影がさしたのは、妊娠六ヶ月目のことだった。
医師は、お腹のなかの子が、この時期にしては小さいことを告げた。でも、と医師はつけ加えた。
「こういうのはよくあることだから。これから大きく成長すると思います。そんなに心配しなくてもいいですよ」
だから佳織は、それほど気にしないようにしていた。
とはいえ、やはり、この子には、元気にすくすくと成長してほしい、と願ってやまず、佳織は毎晩、月にお祈りするほどだった。
妊娠十ヶ月目で、ついに陣痛が始まった。
佳織は意識を失いかけながら、救急車に電話し、病院に運ばれた。
結果は、流産だった。
佳織はとてつもない喪失感に襲われ、何で自分ばかりがこんな目に、と自らの運命を呪った。描いていたヴィジョンがすべて、音を立てて崩れ去り、後に残されたのは、孤独な自分だけになった。
そんな悲しみと喪失感に包まれた日々は二年つづいた。
佳織は食が喉を通らず、どんどん痩せていった。それを見て周りの友人は心配するばかりだった。やがて、佳織は周りとの交流もどんどん断っていき、ついに孤独になった。
そんな佳織の楽しみは、夜空を見上げることだった。きっと旦那も、あの子も、星になって私を見守ってくれているんだわ、と、夜空を見上げ、自分も早く、あなたたちのもとに行きたい、と何度も佳織は願った。
そんな折、もともとスピリチュアルなものに興味の強かった佳織は、思いつきから、占星術の本を購入し、夫やわが子の誕生日をもとに、彼らの運勢を占うようになった。
それからだった。佳織は、今はもういない彼らの存在が、とても身近に感じられるようになった。
そうして佳織は、占星術にのめり込んでいった。
いつしか佳織は、お金をもらって人を占うことができるまでになった。というのも、佳織がたまたまネットの知り合いを占ったら、それがよく当たっていて、評判になったからだった。
佳織は以来、占い師を本職として、生計を立てるようになった。
仕事は佳織の日々を充実させ、いつしか、佳織は、星になった二人の存在をただ悲しむだけの日々から抜け出せるようになった。今ではむしろ、彼らの見守ってくれていることが、大きな自信となっていた。
それから十年くらい経ったときだった。佳織が唯一、交流を持ち続けていた、高校時代からの友人、麻美から、こんな話を聞いた。
「うちの親がさ、最近、養子をもらったって言ってるの。私、それをはじめ聞いたときはびっくりしちゃって。それで、ちゃんと育てられるの、って聞いたら、おまえみたいな子を育てられたんだから大丈夫だって」
佳織ははじめ、その話を聞いたとき、雷に打たれたような衝撃を受けた。それがなぜなのかわからなかった。あの頃思い描いていたヴィジョンを、ふたたび始められるチャンスを、そこに見い出したからなのだろうか。ともかく佳織は、そこに一陣の新しい風が吹いたのを感じた。




