桜花組
ーーーーヴァルス王国ーーーー
この国は西洋文化と日本文化が乱雑に入り交じっている……そんな第一印象を受けた。
だが、桜花組に関しては生粋の日本文化が流れているようだ。
まさに時代劇に出てきそうな「奉行所」そのものだ。
入口の大きな門の横には巨大な木の板に「桜花組」と書かれていた看板が堂々と立っている。
開いた門の奥には大きな武家屋敷……そして、白い砂利を敷き詰めた広大な庭が広がっていた。
「こちらで少々お待ちになってて下さい。親父に話しを通さないといけませんので……」
ハジは門の前で待機するようにと、指示してきた。
……当然だな。ロス爺さんの紹介とはいえ、見ず知らずの人間をすぐに会わせるわけがない。
「なら、この手紙を七代目に渡してもらえないだろうか?ロス爺さんから預かったものだ。内容を見てもらえれば話しは早いと思う」
「……たしかに承りました。それでは親父に確認してもらいます」
ハジは手紙を受け取ると小走りに駆けていった。
……暫くすると武家屋敷の玄関から大勢の人間と亜人間達が出てきた。
組員達は左右均等に縱一列で並び始め、七代目を出迎える準備を完了していた。
ハジは門の入口で待機していた俺に大急ぎで駆け寄ってきた。
「親父がお会いになるそうです……こちらに」
俺は組員が整列する間を通り、武家屋敷の玄関前に立つ。
薄暗い屋敷の玄関から大きな亜人間が姿を現した。
その姿は紋付き袴を着た二本足で歩く巨躯なカエル……だが、圧倒されたのは異様な風体ではなく、無言でも感じる威圧感だった。
……これが桜花の七代目。たしかに、その雰囲気はある。
修羅場をくぐり抜けてきたであろう鋭い目、顔には幾つもの刀傷のようなものが刻まれていた。
「……ほぅ。若いのに中々いい面構えをしている。俺が桜花組七代目の桜花 宗次郎だ。この俺に聞きたい事があるようだな?」
俺は七代目に深々と頭を下げた。
「はい……初代の事について伺いたく……」
七代目は懐から手紙を取り出すと、俺の目の前に落とした。
「この手紙には貴様が「初代の継承者」であると書かれていた。五代目の兄弟分である人を信用してないわけではないが、俺は他人の評価ではなく、自分の目で人を判断する」
「……この場で証明をしろと?」
七代目は何かの合図を組員に送った。
組員達は一斉に歩きだし入口の門から外へと出ていった。
「レン……相手をしてやれ。もし偽物だったら殺してもかまわん。二度と初代の名を騙る馬鹿が出ないようにな」
屋敷の玄関からレンと呼ばれた者が出てきた。
鮮血のような色をした長い赤髪を後ろで束ね、男物の派手な和服を着ているが……レンと呼ばれた人物は若い女だった。
「組の若頭のレンだ……貴様にはコイツと立ち合ってもらう。立会人は俺がつとめる。これは決闘での勝負だ……もし、レンに勝つ事が出来たなら貴様を「継承者」と認め、知りたい事を話してやってもいい」
ロス爺さんが言っていたが「手荒い歓迎」を受ける事になったようだ。
どのみち、俺が継承者と認められなければ何も事が進まない。
この勝負……受けるしかない。
「……わかりました。あまり気は進みませんが……この喧嘩、受けさせて頂きます」
レンは和服の上着を脱いだ……胸はサラシで巻いて隠してはいたが……正直、目のやりどころに困る。
互いに向き合い、拳を構えたところでレンは話しかけてきた。
「改めて紹介させてもらおう。アタシは桜花組若頭の「レン」……お前、名は何という?」
「……木嶋 龍だ」
「木嶋 龍か……いい名だな。その名前、覚えておくとしよう……親父、始めてくれ」
七代目は腕組みをしながら頷いた。
「いざっっ!!! 尋常に勝負を始めぃっっ!!!」
桜花組若頭レンと俺の命を賭けた決闘が始まった。