龍と王国
……この世界を「異世界」と認識していなければ、ひっくり返って驚いていた所だ。
犬か狼か定かではないが……玄関先に立っていたのは二足歩行をする獣人間だった。
「ハジよ……久しぶりじゃの。して、七代目の具合はどうじゃ?」
「へいっ!おかげさんで。親父は順調に回復してます。ひとえにこれも、ロスゴット様が調合された秘薬のおかげで」
時代劇で見たことがある和装、甚平を着た獣人間のハジは、爺さんに深々と頭を下げた。
和服を、さも当たり前のように着ていると言うことは、桜花 宗次郎が「日本文化」をヴァルス王国とやらに根付かせた結果なのか?
「ところで、そちらの若い衆は誰ですか?」
「ん?……おぉ。この若者は木嶋と言うものでな。突然ですまんが……すぐにでも七代目に会わせてやってくれんかの?」
「えっ!?親父にですか?い……いや、五代目の兄弟分である貴方様の頼みとあれば出来なくはないですが」
爺さんは唖然としているハジの背中を軽く叩き、玄関の横に置いてあった大きな袋を渡した。
「さて、木嶋よ。ワシが出来るのはここまで……後はオヌシ次第となろう。桜花組から手荒い歓迎を受けるかもしれんが、オヌシなら何とかなるじゃろ……頑張れよ」
俺は爺さんに固い握手をし、別れの挨拶を言った。
「命を助けてもらったばかりか、色々としてくれて深く感謝している。ありがとう……ロス爺さん」
「ホッホッ。ワシは五代目の遺言を守っただけじゃ……もし、ワシが生きとるうちに「継承者」と出会ったら出来るだけ手助けをしてやれとな。友の遺言を違えるわけにはいかん。さぁ……七代目に会ってこい、木嶋よ」
俺はハジが乗ってきた馬に相乗りした。
どうやら、ヴァルス王国は馬で一時間程の場所にあるらしい。
道中、馬上から見かけた奇妙な動物や植物が何なのかハジに聞きたくなったが、爺さんが言った「手荒い歓迎」について俺は考えていた
俺が「桜花 宗次郎の継承者」だと爺さんは言っていたが、桜花組の人間達が素直に信じてくれるだろうか?
聞いた話しから推測すると、桜花組とは任侠集団といって間違いない。
自分達の組を「侮辱」されるのを何よりも嫌うだろう。
俺が継承者として認められなければ、組と初代の名を汚したとして殺される可能性が高い。
だが、桜花 宗次郎を探れば元の世界に帰る方法を掴めるかもしれない。
あまりに危険ではあるが……
そんな事を無言で考えていたら、いつの間にやらヴァルス王国に着いたようだ。
巨大な門の周りには全身鎧と長槍を持った大勢の兵士達が国に入る者達の検閲をしている。
検閲待ちに飽きたのか、少し離れた場所にはテントのような物を作って待っている輩もいた。
その様子は、超人気の遊園地のアトラクションを待っている大量の行列そのものだ。
ハジは検閲待ちなどせずに、堂々と馬に乗りながら兵士へと近づく……そして懐から何かを取り出し、それを兵士に見せるとあっさりと俺達は通してもらった。
桜花組は国に対して何か特別な権限でもあるのだろうか?
とにかく、俺は桜花 宗次郎がいたヴァルス王国へとたどり着いた。