紹介状
次の朝、寝ていたソファーから起こされた俺は、爺さんの手料理が並んだテーブルに無理矢理着かされた。
「さぁっ!たんと食ってもらうぞ!まずは失った体力を回復させねばならんでな!これで足りなければ……よいしょっ!!!」
爺さんは、骨付き肉が入った大きな寸胴をテーブルに乗せた。
テーブルには隙間がないほど料理が並んでいる……腹は減ってはいたが、相撲取りかプロレスラーでもなければ、とてもじゃないが食いきれない量だ。
「じ……爺さん。すまないが、この量は厳しいな」
「ホッ……?なんじゃ……意外に少食なんじゃのぅ。まぁよい、ワシも一緒に食うでな。安心せい」
どうやら、食べきれない心配は無用だったようだ。
爺さんは、凄まじい勢いで料理を食べ……いや、呑み込んでいく。
味がクリームシチューに似たスープを飲み終わった頃には、テーブルにあった料理の半分以上が無くなっていた。
それでも、まだ食い足りないのか、爺さんは先ほどの寸胴から肉を取り出し、まるで原始人のように貪り食っていた。
「……爺さん。食事中に悪いが、昨日の晩に話してくれた事を聞いてもいいか?」
「フム……桜花 宗次郎の事じゃな。ワシも五代目から聞いた事しかオヌシに話せんがの」
ようやく食事を止めた爺さんは、桜花組の事……そして、その組を作り上げた宗次郎の伝説を語り始めた。
当時の王国は荒れに荒れており、国の中で反乱や犯罪行為が横行していたらしい。
犯罪者を取り締まる「警察」のようなもの……「憲兵」と言う組織も王国にはあったが、すでに腐敗しきっており犯罪行為を「見てみぬフリ」をしていた。
そんな中、「桜花 宗次郎」が国に流れ着き、無法者……いわゆる犯罪者達をまとめあげて「桜花組」を作った。
「悪を制するは義心を持つ悪なり」
悪から弱き者を守る法が役に立たなければ、義の心を持つ者が法の外に立ち無法を制する。
最初は、そのやり方に否定的な者も少なくはなかったが、初志一貫する姿と、人を惹き付ける圧倒的なカリスマ性を持った宗次郎に人々は感化され、その結果……国は治安を取り戻し、平和になったそうだ。
「その義の心は、初代が去った今でも「桜花組」に脈々と受け継がれておる。ヴァルス王国には桜花という太い柱が立っておるでな。それは弱き民を守り、悪を裁く……大きな大きな柱じゃ」
「凄い人物だな……桜花 宗次郎とは。だが、爺さん……五代目と言っていたが、桜花組と何か繋がりがあったのか?」
「フフ……桜花組の五代目とは無二の親友だったんじゃ。まぁ……あやつは先に逝ってしもうたがの。そんなこんなで桜花組七代目とも親交があるでな。望むならワシが七代目に紹介状を書いてやろう」
……桜花組七代目。
現在の桜花組をまとめている組長というわけか。
俺が「この世界」に来た理由と桜花 宗次郎の関係性を深く聞くには、もってこいの人物だな。
「桜花組七代目に会って聞かなければならない事がある。是非とも紹介してくれないだろうか?」
「ホッホッ。そうくるだろうと思ってな……もう紹介状は書いておいたわ。ホレっ!これを七代目に見せればええ」
これは封筒……? 中世の書簡のように押印で封印してある。
「この封印を解いてはいかん。そのまま見せるんじゃぞ……んっ?」
説明途中で、この家の扉を叩く音が鳴り響いた。
「おーい!……ロス爺さん!桜花のハジでーす。薬を取りにきましたー」
なんだ……? 昨日の晩に爺さんが言っていた桜花組の人間が来たのか?
爺さんと俺は食事を止めて、家の玄関へと向かった。