桜花
再び爺さんの家にたどり着くまで、別の獣達が襲ってこなかったのは運が良かった。
先ほどの戦闘で「ギックリ腰」を再発した爺さんを背負いながら、あの獣と戦う事は出来ないだろう。
何とか家に入ると、身体に装着した甲冑を脱がせてベットに寝かせた。
「あいたたたた……年寄が無理するもんじゃないのぅ。これでも昔はヴァルス王国に「鉄腕のロスゴット」あり、と言われたもんじゃが……よる年波には勝てんわ」
「ロスゴット……? それが爺さんの名前か?」
「ん……? おぉ……へリオ・ロスゴット。それがワシの名じゃ、知り合いには「ロス爺」とも言われておるがの」
流暢に日本語を話すが、名前は西洋風なのか……この世界が異世界としても妙な感じを受けるな。
それと、ヴァルス王国……この辺りを統治している国と言う事なのか?
「そういえば名前を言っていなかったな……俺は、木嶋 龍。知っているかどうか分からないが……日本人だ」
俺の言葉を聞いた爺さんは、何かを思い出したように目を見開き、急に起き上がろうとした。
「なにっ!?日本人じゃとっ!!!……お、オヌシは……あたっ!あたたたた……」
腰にきたのか爺さんはベットの中で痛がっている。
この反応……日本人、いや日本を知っているのか?
「……爺さん。日本を知っているのか?」
爺さんは深呼吸をしながら落ち着いて話し始めた。
「これも神のイタズラなのか、それとも運命なのか。まさか、ワシが生きているうちに「桜花 宗次郎」の継承者に会えるとはの。なるほど……それなら先ほどの力も合点がいく。そして、その黒髪と衣服……間違いなさそうじゃの」
「話がまったく見えない。継承者とは一体どういう事だ? その桜花 宗次郎とは何者なんだ?」
「一言でいえば、そうさな……今から三百年前にヴァルス王国を強大な力で立て直した「伝説の男」と言えばよいか。桜花 宗次郎も日本と言う国から来た日本人と言っておったそうじゃ。無論、ワシの知る限りでは、日本と言う国は「この世界」には無いがの」
三百年前……俺と同じ日本人がいた。
「明日、桜花組のものがワシを訪ねてくる。その時にワシから七代目に「この事」を伝えるように話してみよう。今日は色々あって疲れてしもうた。年寄は、もう寝かせてくれ……」
「爺さん!待ってくれ……まだ、聞きたい事が……」
爺さんは目を閉じると寝息をたて始めた。
たいぶ疲れていたのだろう……俺は爺さんに布団をかけてやり、近くにあったソファーに寝転んだ。
桜花 宗次郎……どうやら、この男を探る事が俺が「この世界に来た理由」に繋がりそうだ。
そして、俺の右腕に宿った「あの力」の謎も宗次郎と関係があるのかもしれない。
……とにかく、明日になれば分かりそうだ。
俺は、ぼんやりと天井を見ながら眠りについた。