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霧中の敵を追え

「参ったね、これは」

 リロイ副局長が帰った後、局長は腕を組んでうなった。

「リロイでも、か。なるほど、イクトミが依頼してくるわけだ」

 常より局長から「情報収集能力に長けている」と称される彼でさえも、ギルマンについては、何の情報も持っていなかったのである。

「一応、ツテを頼るとは言ってましたけど……」

「望み薄だな。しかし、だ」

 局長はパイプを手に取り、火を灯す。

「東洋のことわざには、『火の無いところに煙は立たぬ』とある。

 生きている以上は何か食わねばならんし、となれば店で買うなり、畑や牧場を持つなりすることが予想される。であれば店で聞き込みを行うなり、土地台帳を照会するなりすれば、素性は割れる。一人の生きた人間がこの世界で活動している以上、必ずその痕跡は、どこかに残るものだ。

 ましてやギルマンと言う男は、兵站管理を任ぜられていると言うじゃあないか。となればどこかで武器・弾薬の買い付け、もしくは製造を行い、それを各拠点に運ぶと言う活動を積極的に、かつ、大規模に行っていることは予想できる。

 リゴーニ地下工場事件にトリスタン・アルジャンが関わっていたことを考えれば、あれが組織の一端であったことは、想像に難くない。となれば武器の製造は恐らく、地下活動的に行っているだろう。そこからギルマンを探すのは難しいかも知れん。

 しかしその輸送はどうだろうか? 全米に鉄道網が充足しつつある昨今、彼らがそれら公式な鉄道網を押しのけ、独自の鉄道路線を何千マイルも占有しているとは考えにくい。少なからず公共の路線を流用していると考えて間違い無いだろう。事実、リゴーニ事件においてはW&Bやインターパシフィックの路線が使われていたと言うしね。

 としても、それが一々、どこそこの鉄道会社に運行を届け出ているとも考えにくい。多少なりとも偽装していることは考えられるが、それでものべつ幕無しに届け出ていれば、秘密でも何でもなくなってしまう。

 さてネイサン。ここで一つ、私にアテが思い付いたわけだが、君はどうかね?」

 局長に問われ、アデルもピンと来る。

「つまり鉄道関係に詳しい奴から、不審な人物や車輌なんかの目撃情報を集めてみる、と」

「そう言うことだ。そしてネイサン、君の友人にいただろう? 西部の鉄道網について非常に詳しい、機関車ギークの男が」

「なーるほど」


 アデルは早速、その「機関車ギーク」――マーシャルスプリングスの道楽者、ロドニー・リーランドに電話をかけた。

《も、……もしもーし?》

 数年前に廃業されたと言っていたものの、会社が使っていた電話回線はまだ、生きていたらしい。

 受話器の向こうから、ロドニーのいぶかしげな声が聞こえてきた。

「おう、俺だ。アデルバート・ネイサン」

《あ、ああ、お前さんかぁ。こないだはどうもな。

 っつーか、びっくりさせんなよ。いきなりデスクの電話鳴ったからさ、驚いて椅子から引っくり返っちまったぜ》

「悪いな、突然。って言うか、電話なんてそんなもんだろ」

《そりゃそうか。んで、どうしたんだ?》

「ちょっと聞きたいんだが、……そうだな、そっちで何か、事件だとか、悪いうわさだとか、そう言うの無いか?」

《は?》

 ロドニーのけげんな声が返って来る。

《あんたいつから、ゴシップ記者になったんだ?》

「いや、そうじゃない。詳しい事情は話せないんだが、ある男を鉄道関係から追っててな。そっち方面でそれらしい情報が無いか、調べてるところなんだ」

《ああ、まだ探偵屋だったか。そう言うことなら色々、教えてやるが……。

 何が知りたいんだ? 鉄道情報なら何でもござれだ。各鉄道会社の景気から、どこの駅のコーヒーがうまいかまで、何でも聞いてくれ》

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