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記憶の矛盾

 わだかまりつつも探偵局に戻ったところで、アデルは局長に尋ねる。

「それで局長、どうやってギルマンを探すんです? また例の名士録に名前があったり、とか?」

「いや、流石にまったく情報が無い。リロイに聞いてみるとしよう。

 リロイは今日は非番だが、彼が非番にやることと言えば本を読むか、奥さんとチェスするか、後はあの三毛猫をからかうくらいだ。呼べばすぐ来る。

 と言うわけでアデル、リロイを呼んでおいてくれるか? 住所は知っているな?」

「ええ。行ってきます」

「うむ」


 アデルが局を出たところで、エミルが再度、局長に尋ねる。

「それで局長、イクトミに何の条件を出したの?」

「さてね」

「……あいつがいるから話せなかった、ってことじゃないのね」

「うむ。あれは正真正銘、私とイクトミとの間で交わした約束だ。君たちに打ち明けることは、今は無理だ。

 機が熟せば話しても構わないとは、考えているがね」

「そう」

「それよりもだ、エミル」

 と、局長は真面目な顔になり、小声で尋ねる。

「君の言っていることとイクトミの話には、矛盾や齟齬そごが散見される。

 さっきも取り沙汰したが――君は『幹部陣とのつながりは無かった』と言っていた。しかし一方、イクトミは『親交はあった』と言う。

 無論、君とイクトミとの価値観の違いなどから、『一方は親しくしていたつもりだったがもう一方はそんな風に思っていなかった』と言うようなことはあるだろう。しかし――細部ばかりとは言え――彼と君の話には、食い違う点がいくつもある。

 一体、どう言うことなんだ? 本当に君とイクトミは、同じ組織に属していたのかね?」

「それは本当、……だと、思うわ」

「思う?」

「そうじゃなきゃ、あいつがあたしを知ってる道理が無いでしょ?」

「それは確かにそうだ。しかし一致しない点があるのは、何故だ?」

「……それは、多分」

 エミルは一瞬口ごもり、恐る恐ると言った口ぶりになる。

「あたしの記憶が、少し、……いえ、かなり、壊れているんだろう、と」

「壊れている?」

「ええ。あなたも知っていることだけど、あたしは組織の大閣下、即ち祖父を殺した。……いえ、イクトミによれば死んでないのよね。

 とは言え肉親同士の殺し合いなんて、結構ハードな話でしょ?」

「確かにね」

「そのせいか、……あの頃の記憶が、……あんまり、はっきりしないのよ。よっぽど嫌な思い出があるのか、……思い出そうとしても、どうしても思い出せないのよ」

「ふーむ……」

 エミルの話を受け、局長は苦い顔をする。

「確かにどこぞの大学だか研究機関だかで、あまりに深刻かつ衝撃的な体験をした者は、精神に悪影響を及ぼすと言うような説が唱えられていたと記憶しているが、……ふーむ、君のような鋼の精神の持ち主であっても、例外では無いと言うことか」

「鋼なんかじゃないわよ。あたし、これでもナイーブなの。

 ともかく局長、お願いするけど――あんまり、あたしに組織の話、聞かないでほしいの。聞かれても大体答えられないと思うし、思い出そうとすると、アタマ痛くなるのよ」

「うむ、分かった。まあ、組織の情報を抜きにしても、君が得難い人材であることには変わりない。今後は聞かないことにするよ。

 さて、そろそろアデルが戻ってくる頃だろう。リロイの分も合わせて、コーヒーを淹れてきてもらって構わないかね?」

「いいけど、……局長、あなたさっき、2杯飲んでたでしょ? まだ飲むの?」

「うむ。質の良いコーヒーは何杯飲んでもいいものだ。淹れる人間の腕も関係してくるがね。君のコーヒーなら一樽だって飲める」

「あら、ありがと」

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