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探偵王と怪盗の邂逅

 翌日、3時。

 壁に取り付けられた電話がじりりん、と鳴り出したところで、局長がすぐに受話器を取った。

「はい、こちらパディントン探偵局。……うむ、そうだ。私がパディントンだ。

 君はイクトミかね?」

 局長の後ろで様子を伺っていたアデルとエミルは、顔を見合わせる。

「来たわね」

「流石、伊達男。3時きっかりだな」

 その間にも、局長とイクトミは電話越しに会話を交わしている。

「そうだ。私が話をする。……いや、彼女はいるよ。私の後ろにね。

 ……そうは行かない。君はエミル嬢にではなく、このパディントン探偵局に対して依頼したのだろう? ……個人的に、であったとしてもだ。彼女は個人業じゃあなく、局に所属する人間だ。である以上、彼女の仕事は局がマネジメントするのが道理だろう? ……ははは、馬鹿を言うものではない。いつ終わるとも知れん仕事をさせるために休暇を取らせるなど、私が認めると思うのかね? ……そう言うことだ。それが嫌だと言うのならば、これまで通り一人で捜索したまえ。

 ……うむ。ではもう少し詳しい話をしようじゃあないか。いつまでもそんなところで私たちを眺めていないで、……そうだな、こっちのビルの斜向いに店がある。君のいるウォールナッツビルの、3つ左隣の店だ。……そう、ブルース・ジョーンズ・カフェだ。

 そこなら捕まる、捕まえるなんて話抜きで相談もできるだろう? 無論、衆人環視の中でドンパチやるほど、我々も無法者じゃあないからな。君もそう言うタイプのはずだ。

 ……決まりだな。私たちもすぐ向かうから、君もすぐ来たまえ」

 そこで局長は電話を切り、窓の外に向かって手を振る。

 その様子を眺めていたエミルが、呆れた声を上げた。

「あのビルにいたの?」

「うむ、予想はしていた。彼も慌てたようだよ。居場所を言い当てられたものだから、指摘した瞬間、声が上ずったよ」

「伊達男も形無しね、クスクス……」


 15分後、局長が指定した喫茶店に、一般的な――今度は「東部都市では」と言う意味で――スーツ姿で、イクトミが姿を現した。

「あら、白上下じゃないのね」

 指摘したエミルに、イクトミは苦笑いを返す。

「流石に目立ってしまいますから。わたくしも、色々と狙われる身でしてね」

「ふむ」

 イクトミのその言葉に、局長が納得したような声を漏らす。

「つまりギルマン某を探したい、と言うのは、やはり組織に関係してのことかね?」

「左様です」

 イクトミが椅子に座ったところで、局長がメニューを差し出す。

「私がおごろう。ここのコテージパイは絶品だそうだよ」

「ほう。ではそれと、コーヒーを」

 そう返したイクトミに、局長はニヤっと笑いかける。

「君もコーヒー派かね?」

「ええ。氏はイギリス系とお見受けしますが、紅茶は?」

「実を言えば、あまり好きじゃあないんだ。それがイギリスを離れた理由の一つでもある」

「変わった方ですな」

「君ほどじゃあないさ」

 やり取りを交わす間に注文し終え、間も無く一同の座るテーブルにコーヒーが4つ、運ばれてくる。

「コテージパイが温まるまでにはまだ多少、時間がある。それまでに話を詰めておこう。

 まず、君からの依頼を受けるか否かについてだが、君から何かしらの情報を得られれば、受けてもいいと考えている」

「情報……、何のでしょうか?」

「まず、アンリ=ルイ・ギルマンとは何者なのか? 組織においてどんな役割を担っていたのか?

 そして何故、君はギルマンを探しているのか? それを聞かせて欲しい」

「ふむ」

 イクトミはコーヒーを一口飲み、それから局長の質問に応じた。

「ギルマンはいわゆる『ロジスティクス(兵站活動)』を担当していました。

 武器・弾薬と言った装備の調達や侵攻・逃走経路の確保、基地や備蓄施設の設営、その他組織が行う作戦について、あらゆる後方支援を行う立場にありました。

 そして……」

 イクトミはそこで言葉を切り、エミルに視線を向けた。

「なによ?」

「大閣下がマドモアゼルの手にかかって死んだと思わせ――その実、陥落せんとする本拠地からまんまと彼を連れ出したのも、ギルマンの仕業なのです」

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