表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/15

無理筋の依頼

「なるほど」

 アデルたちの話を聞き終え、パディントン局長はそれだけ言って黙り込んだ。

「……どうしましょうか?」

 沈黙に耐えかね、アデルが尋ねる。

「ふむ……」

 しかし、局長はうなるばかりで、返事は返って来ない。

「迷うことがあるのかしら?」

 エミルからそう問われ、ようやく局長は応じた。

「いや、迷っているわけじゃあない。

 君の言う通り、その依頼は受けて然るべきものだろう。我が探偵局が凶悪犯2名を拿捕できる絶好のチャンスだ。情報提供者が犯罪者だとしても、そんなことはチャンスを逃す理由にはならん。

 一方で、疑問がある。イクトミが何故我々に対し、そんな依頼をしてきたのか? その点だ」

「確かにね」

 局長の指摘に、エミルもうなずいて返す。

「あの怪盗気取りの伊達男がわざわざあたしたちの前に現れ、わざわざ依頼なんかしに来るその理由が、さっぱり分からないものね」

「そう、それだ。

 彼は探偵として動けば、恐らくそこいらのヘボ探偵より余程、いい仕事をするだろう。リゴーニ地下工場事件の一件だけでも、その才能と実力がよく分かる。

 が、それ故に何故、我々に依頼してきたのかと言う疑問も、一つの解が付けられるだろう。即ち、彼のその『相当の手腕』を以てしてもなお、そのアンリ=ルイ・ギルマンなる人物の足跡を追うことができなかったのだろう、と言うことだ」

「なる……ほど」

 局長の見解を聞き、アデルは嫌な予感を覚える。

「つまり我々にとっても、この依頼は相当な無理筋だ、と見るべきでしょうね」

「うむ。……そこでエミル、君に聞きたいことがある」

 局長からそう尋ねられ、エミルはけげんな顔を向ける。

「どうしたの、改まって?」

「君は『組織』に詳しい、と考えていいのだね?」

「ええ、まあ。少なくともあなたよりは詳しいでしょうね」

「では尋ねるが、このギルマンと言う人物は、『組織』においてどんな役割を担っていたのかね?」

 局長の質問に、エミルはわずかに表情を曇らせる。

「それは……」

「言えない、と言うことかね?」

「違うの。そうじゃなくて、……そうね、まず、あたしが『組織』でどんな立場にいたかってことから話すけれど」

 そう前置きし、エミルはぽつりぽつりと言った口調で話し始めた。

「まず、あたしが『大閣下』の孫だったって話は、知ってるわよね?」

「うむ」

「その、言ってみれば、……何て言うか、そう言う立場って、例えば国王に対する王女、みたいなものじゃない?」

 珍しく、顔を赤らめつつ話すエミルを見て、アデルは内心、笑いが込み上げそうになる。

 それを見透かされたらしく、エミルがにらんでくる。

「なによ?」

「い、いや。何でも」

「……コホン。と、ともかく、そう言う、その、王女って、例えば騎士団に入ったり、政治に携わったりする?」

「なるほど。つまり、言わば君は『籠の鳥』として扱われていた、と言うことか」

「そう言うこと。だから、あんまり幹部がどうだったとか、『組織』が何をしてたかとか、詳しくないのよ。

 だからそのギルマンって奴も、全然面識は無いの」

「ふーむ……。となると、手がかりが全く無いな。イクトミに聞くしか無さそうだ」

「どうでしょうね? 依頼してくるほどだから、相手も大したことは知らないんじゃ……?」

 そう返したアデルに、局長は肩をすくめる。

「何の接点も関係も無い人間を探してくれなどと頼むような人間は、この世にはまずいるまい。捜索を依頼するのならば、必ず何かしらのつながりがあって然るべきだ。返事をするのはそれを聞いてからだろう。

 仮にアデルが言う通り、本当に何の接点も無く、何の手がかりも与えられないとなると、その依頼は断る他無い。何の手がかりも無いまま局員をあてどなく放浪させるほど、我が探偵局は暇ではないからな」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ