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銀板写真

「で、報酬は?」

 エミルが尋ねたところで、イクトミは懐に手を入れた。

「あ、拳銃などではございませんから、そう緊張なさらず。マドモアゼルもホルスターから手を離して下さい。

 お見せしたいのは、こちらです」

 イクトミはゆっくりと懐から手を抜き、一枚の銀板写真を二人に見せた。

「この写真、中央に写っている人物については、マドモアゼルには説明の必要はございませんでしょう」

「……ええ、そうね」

 写真を目にした途端、エミルは明らかに不機嫌な様子を見せる。

「こんなの残ってたのね」

「フランス人らしく、洒落たお方でしたから。自己顕示欲もいささか強いご様子でしたし」

「ええ、このいかにも『わしは旧大陸が誇る叡智の結晶である』って言いたげなしたり顔、見てて吐き気がするわ」

 二人のやり取りを聞き、アデルは首をかしげる。

「何が写ってるんだ?」

「こちらは、……っと、マドモアゼル。わたくしから説明差し上げてもよろしいでしょうか?」

「勝手にどうぞ」

「では、……コホン。

 この写真は187X年、C州にて撮影されました。ご存知の通り銀板写真と言うものは基本、複製が利かぬものでして、そのためその場で何枚も撮られまして。

 1時間も2時間も笑顔で直立していなければならず、幹部一同、こんな遊びに付き合わされるのは二度と御免だ、次は一人で突っ立っててくれ、……などと言い合うのが我々だけでの酒の席における、定番の肴でした」

「あ……?」

「失礼、話が逸れました。

 ともかくこの写真は、その組織の首領と幹部一同の集合写真なのです」

「組織、……って、まさか」

「ムッシュ・ネイサンもご存知のようですね、我らが組織の存在を。

 そう、この写真の中央に鎮座しておられますのは、かつて『大閣下』と称された組織の首領、JJ・N・シャタリーヌ氏です」

 エミルが罵った通り、写真の中央に写っているその老人の顔は、下卑た性根を感じさせずにはいられない、醜く歪んだものであった。

「それで笑顔のつもりなんだから、内面の汚さが分かるでしょ?」

「これが笑顔だって? ……ああ、確かにありありと分かるな」

「わたくしにしても、この悪鬼の如き笑顔は二度と拝したくないものです。

 さて、そんなおぞましい写真をお二人にお見せしたのは、何も大閣下の下劣な顔を認識させようと言うつもりではありません。

 注目していただきたいのは、この3名でございます」

 そう言って、イクトミはとん、とんと2ヶ所を指し示した。

「こちらの2名、ムッシュ・ネイサンも以前に顔を合わせたことがあるのですが、覚えておいででしょうか?」

「以前に……? いや、待て。確かにこっちのいかつい方は見覚えがある。

 こいつ、もしかして……?」

「ええ、『猛火牛レイジングブル』ことトリスタン・アルジャンです。彼は組織の上級幹部でした。そして横にいる、彼の弟も」

「弟?」

 尋ねたアデルに、イクトミは肩をすくめる。

「あなたと初めてお会いした黄金銃事件、その発端となった黄金製SAA。あれを製作したのがその彼、ディミトリ・アルジャンなのです」

「へぇ……?」

「ねえ、イクトミ。あんたの話が無駄に長ったらしいってことは嫌になるほどよく分かったから」

 エミルが若干苛立った様子で、話をさえぎる。

「その写真に何の意味があるのか、さっさと教えてちょうだい」

「そう焦らずに、マドモアゼル。

 わたくしが依頼したいのは、もう一つ指し示した人物についてなのです」

 そう言ってイクトミは、ある人物をもう一度指差した。

「彼の名はアンリ=ルイ・ギルマン。彼の行方を探していただきたいのです」

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