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怪盗紳士、三度目の登場

「で、どの店の豆が美味しいって話なの?」

「そこなんだよなぁ」

 エミルと共に街の大通りを歩きながら、アデルは肩をすくめる。

「グレースの奴、コロンビア産のがどーの、アフリカの方から輸入したのがどーのって色々うんちくを垂れてばっかで、結局『ここがあたしのイチオシね』ってのを教えてくれなかったんだよ。

 しまいにゃ俺も『ああ、こりゃ聞くだけ時間の無駄だ』と思って、適当に切り上げてきちまったんだよな」

「役に立たないわね。勿論あんたじゃなくて、アシュリーの方がだけど」

「まったくだ」

 この日、二人は揃って買い物袋を抱えながら、街をぶらついていた。

 と言ってもプライベートではなく、探偵局で使う紙やインクなどの消耗品、そしてコーヒーやドーナツと言った飲食物の買い出しである。

 それでも単調なデスクワークよりも幾分気楽な作業であるためか、それとも街を流れる秋風が心地いいためか、二人の雰囲気は軽く、呑気なものだった。

 そんな雰囲気の中で交わす取り留めの無い話が、アデルが交流を持つ情報屋のアシュリー・グレースに触れたところで、エミルが尋ねてきた。

「そう言えば聞いた話だけど、あの子、副局長の娘さんですって?」

「苗字も一緒だし、多分そうなんだろ。

 局長曰く、副局長は『情報収集と分析、そしてその応用・活用にかけては、彼の右に出る者はいない』って話だし、そこら辺の才能が娘に遺伝したんだろうな」

「お父さんに比べたら、腕と扱う情報は雲泥の差だけどね。

 でも本当に娘さんなら、なんでうちに入らないのかしら? 街の裏手でコソコソやってるより、よっぽどマシなはずなのに」

「さあ……? 今度、副局長に聞いてみたらどうだ?」

「その『今度』がいつになるやら、だけどね」

「違いない。あの人いつも、いるのかいないのか分からんって感じだし。あの人の席、いつ見ても猫しかいないからなぁ」

「あはは……」

 のんびり世間話に興じながら、二人は通りの角を曲がり――その途端に揃って駆け出し、裏路地に滑り込んだ。

「あんたも気付いてた?」

「そりゃな。と言うより、わざと姿を見せてる気配すらあったぜ」

「そうね。あたしもそれは感じてた。

 となると多分、あたしたちがこの路地に隠れることも計算に入れてるでしょうね。……そうでしょ?」

 通りに向かって呼びかけたところで、声が返って来る。

「ええ、ご明察です」

「……また、あんたなの?」

 エミルがげんなりした声を漏らす。

 間を置いて、声の主が裏路地に入ってきた。

「ごきげんよう、マドモアゼル・ミヌー。それからムッシュ・ネイサン」

 現れたのは、あの「西部の怪盗紳士」――イクトミだった。

「何の用だよ?」

 ぶっきらぼうに尋ねたアデルに、イクトミは恭しく帽子を脱ぎ、お辞儀をする。

「単刀直入に申しますと、依頼をお願いしたく参上した次第です」

「……あんたねぇ」

 呆れ顔で眺めていたエミルが、こめかみを押さえている。

「さっきあたしたちを尾行してた時、普通の――あたしたちにとっての普通よ――スーツ姿だったじゃない。

 あたしたちと話をするためだけに、この一瞬でわざわざその白スーツに着替えたわけ?」

「ええ。依頼するのですから、正装が適切かと思いまして」

 臆面も無くそう返すイクトミに、アデルは悪態をつく。

「正装、ねぇ。俺には仮装に見えるが。

 まあいい。依頼だの何だの言ってるが、そんなもん俺たちが受けると思うのか? お前、自分がお尋ね者だってことが、全然分かって無いだろ」

「良く存じておりますとも。自分のことですから。

 そしてムッシュ・ネイサンがどうであれ、マドモアゼル、あなたはこれからわたくしの言うことを、聞く気でいるはずです」

「ええ、そうね。アデルがこう言う反応するってことも、あたしが半端な見返りじゃ動いたりしないってことも、全部把握しての、あんたのこの行動ですもの。

 さぞやあたしが求めてやまないような、そんな極上の報酬を持ってきてるんでしょうね?」

「勿論ですとも」

 イクトミはにっこりと、微塵も悪意を感じさせない笑みを返した。

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