表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/15

電話連絡

 これまでの作中で何度も、さも当然のように使われてきた電話だが――史実として、電話のシステム自体が確立されたのは1876年(A・G・ベルの特許申請と成立)、そして合衆国において電話会社が開業されたのが、そのおよそ2年後である。さらにはその2年後、普及数は5万世帯にも上っていたと言われている。

 その通信網の多くは当然、発展の目覚ましい東部に張られたものだが、「遠く離れた人間と瞬時かつ同時に会話できる」と言うかつてない利便性は、鉄道と馬以外の交通手段が乏しい西部においても、絶大な効果を発揮できたと考えられる。

 その観点から、本作では電話を用いた通信網が西部にも、多少なりとも存在していると仮定・考察し、物語を展開している。




「報告は以上です」

 淡々と報告を終え、彼は相手の言葉を待つ。

 間を置いて、穏やかで飄々とした声が返って来た。

《ありがとう、A。ところで……》

 その声に、いたずらじみた色が混じる。

《この前私が送った三人はどうだったかね? 君の眼鏡に適う者はいたかな?》

 それに対し、A――アーサー・ボールドロイド老人も冗談交じりに答えた。

「茶髪のイタリア系だったか、あれは探偵向きでは無いでしょう。勘は鈍いし観察力も皆無。度胸も根性も無い。いわゆるヘタレですな。

 ただ、敏捷性は申し分無いし、言うことも素直に聞く。根気良く鍛えれば多少は使い物になるでしょうな。と言っても探偵ではなく、兵卒かそこらとして、ですが。

 赤毛の青年はまずまずと言ったところでしょう。探偵に不可欠の観察力、洞察力、推理力は身に付いているようですし、何より口が良く回る。交渉事や尋問、聞き込みに対してなら、恐らく探偵局一の逸材でしょう。

 ま、口が回り過ぎなきらいもありますがね。弁が立つ分、舌禍や失言も多いでしょうな」

 人物評を聞き、受話器の向こうから笑い声が聞こえてくる。

《ははは……、確かに、確かに。やはり君の人物眼は確かだ。

 それで、彼女は? 若手の中では一番の期待株なのだが》

「彼女……、エミル・ミヌーですか」

 ふう、とため息を付き、アーサー老人はこう続けた。

「若手どころか、私の知る全探偵局メンバーの中でも1、2を争うでしょう。戦闘能力に関しては、ですが。

 いや、探偵としての能力も高い。先述の赤毛君よりも、もしかすれば高い観察力と洞察力を有しているかも知れません」

《ふむ。……A、そのエミルの戦闘能力について、君の考えを聞きたい》

 尋ねられ、アーサー老人は応じる。

「物腰や身のこなしからして、近接戦闘の技術は非常に高いでしょう。ナイフや鞭はおろか、素手でも相当の実力を発揮するはずです。並のゴロツキ相手ならものの2、3秒でノックアウトでしょうな。

 射撃能力に関しては、実際に銃を撃つ様子を目にしたことなどはありませんが、少なくとも相当な視力を有していると思われます。赤毛君が双眼鏡を使っていたところで、彼女はほぼ間違い無く裸眼で、私の顔を認識していたようですからな。

 仮に20ヤード先に拳大のワッペンを置いたとしても、彼女ならきっちり意匠の詳細を認識し、階級や所属を言い当てるでしょう。

 ただ、やはり現時点では、情報が甚だしく不足しています。願わくばまた彼女に会い、いくらか探りを入れてみたいところですな。

 とは言え、また直に会うのは得策では無いでしょう」

《ふむ? ……いや、なるほど。彼女は警戒するからな。名前の通り、子猫(minou)のようなところがあると言うか。そんな状況で会っても、前回と変わらんからな》

「ええ、仰る通りです。可能ならば、彼女が何かに注視しているところを陰から観察する、……と言うようなシチュエーションがあればいいのですが」

《用意できればいいのだがね。難しい注文だな》

「いや……、あくまで単なる希望です。いつも通りの、私のやり方で探ってみるとします」

《うむ。

 では、A。また次回の、定期連絡を待っているよ》

「ええ、では」

 電話を終え、アーサー老人はくる、と踵を返し、サルーンのマスターに声をかける。

「バーボンを」

「はい、かしこまりま……」

 マスターが答えかけたその瞬間――サルーンの空気が凍りつく。

 その異様な気配をアーサー老人も感じ取り、入口に目を向ける。

「ごきげんよう、ご老人。騒がしい夜になりそうですな」

 そこには全身真っ白のスーツに身を包んだ伊達男が、拳銃を構えて立っていた。

「……貴様……イクトミ……!?」

 アーサー老人は戦慄する。

 そして――銃声が、サルーン内に轟いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ