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(5)とある事件

5月24日


「こりゃひどいな……」


石島はそう言って眉間にしわを寄せる。先に現場に着いた部下からある程度の状況は聞いていたが、これは想像以上だ。


「死因はおそらく窒息死でしょうね。戸締まりがされていたことと、外傷がない事を考えると、自殺の線が濃厚です」


隣で部下の見竹が言う。


「首をつれるような場所がなかったからこういう形になったんでしょうが………それにしてもこれは……」


見竹が遺体を見て顔をしかめる。遺体はこの近くに私立大に通う男子大学生、戸崎健吾のものだ。ここ2週間ほど連絡がつかず、学校にも行っていないようだったので、家族が心配して様子を見に来たところ死んでいるのが発見されたということだが……。


その遺体というのが、何とも異様な格好をしていた。というのも、ベッドの上で自分の首と足首をロープでつないでの窒息死。ちょうど背中がそりかえるような形で硬直していたのだ。もちろん他殺の線が消えたわけではないが、状況的に見て自殺の可能性が高い。自分の意思でこれをやったのかと思うと、さすがの石島も少しぞっとした。


「死亡推定時刻はまだはっきりしませんが、レシートの記録からちょうど5日前にこのロープを買っているようなので、ここ数日以内かと思われます」


「それで、自殺することになった要因は?」

「それなんですが……」


石島がそう言うと、見竹は言いにくそうに言葉を濁した。


「おいおい、まさかとは思うが……」


見竹が小さく頷く。それを見て石島は「またか…」と天を仰いだ。


「これを見て下さい」


見竹は机の上にあったノートパソコンを開く。石島が近寄って見ると、見竹はブラウザを立ち上げ検索履歴を表示させた。


ストーカーについて

ストーカー被害に遭ったとき

ストーカー対策

ストーカーに関する法律

    ・

    ・

    ・


そこにはずらっとストーカー関連の検索履歴が並んでいた。


「くそっ、何だってんだよ全く……!」


石島は語気を強めた。実はストーカー関連の自殺は今回だけではない。今月に入りすでに2人がストーカーの被害に遭っている旨の書き置きか証言等を残して自殺している。しかもそれは、この県だけのデータだ。全国で見れば計52人もの人たちが同じような理由で自殺している。また不可解なことに、いずれの事件でもストーカー事件の犯人どころか容疑者らしき人物すら見つかっていない。


「それともう一つ」


見竹はそう言ってお気に入りの中にあったあるサイトを開いた。それは最近有名な小説投稿サイトだった。


「これは、もしかして被害者のページか?」

「はい。それで、問題はこのブックマークのリストなんですが………」


見竹はブックマークリストを開き、その中の一つをクリックした。


『みぽみんの日記』


「石島さんの言ったとおりでしたね」


見竹の言葉に石島は無言で頷く。『みぽみんの日記』の作者、みぽみんこと滝内美穂は自殺した52人の内最初に死んだ人物だ。そしておそらく、それ以降に死んだ51人はこの『みぽみんの日記』を閲覧している。


最初に、全国で何十人もの人が、ストーカーが原因で自殺しているということが分かったとき、誰もが偶然だろうと思った。当然だ。場所がばらばらなのでストーカーが同一犯なんてあり得ない。だが、石島にはどうにも、それらが無関係だとは思えなかった。同一犯ではないにしろ、何かしらの関係があるような気がしたのだ。


そこで、試しに少し調べてみたところ、なんと確認の取れた10件はこの『みぽみんの日記』の閲覧者だった。今回の被害者と滝内美穂を除く50人のうち10人が同じサイトの、同じ投稿の閲覧者だ。偶然というのは考えにくい。それにこの日記の総閲覧者数は60人、つじつまは合う。


「でも、これとストーカーと自殺にはどんな関係があるんですかね?」


見竹が石島に尋ねる。


「そこなんだよなぁ」


石島は腕を組んで唸る。それぞれの被害者の隠れたつながりを見つけたところまではいいのだが、それがどういう意味を持つのかという肝心なところが分からないままだった。日記を読んだから何だというのか。その日記を読んだ人が模倣犯的にストーカーになったか?しかし、それでは閲覧者数のつじつまが合わない。


「そもそも、そのストーカーというのが一人も見つかっていないのはさすがにあり得ない気がします」


見竹が不思議そうに言う。それに関しては石島も同感だった。仮に被害者の数だけ容疑者がいるのだとすれば、一人ぐらい捕まってもおかしくはないはずだが、実際には一人も捕まっていない。『一人も』だ。そんなことがあり得るのだろうか。


「一体どれだけ隠れるのが上手いんだろうな」

「まるで最初からストーカーなんていなかったみたいですね」


最初から……いない。


見竹の何気ない一言が石島の脳内に反響する。そうか、犯人は見つかっていないのではない、最初からいなかったと考えれば………。その瞬間、石島はある一つのアイデアを思いついた。


犯人がいない、つまり、ストーカーというのは全て被害者の妄想で、彼らは自分自身の妄想によって自殺にまで追い込まれたのだ。そしてその妄想の引き金となったのが『みぽみんの日記』だと考えればどうだろう。滝内美穂の件も犯人が捕まっていないため、彼女のストーカーも妄想だった可能性が高い。


「石島さん?」


見竹が石島の顔を覗き込む。


「いや……何でも無い。ちょっと気になることがあるからそっちを当たってみるわ」

「はぁ、そうですか」


見竹は少し不審そうに石島の顔を見たが、普段から石島は事後報告タイプであり、一人で勝手に出かける事も多かったため特に気には止めなかった。

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