(4)近づく恐怖
コツコツコツコツ
コツコツコツコツ……
コツコツ……タッタッタッタッ
タッタッタッタッ………
ガチャ………バタン!!
「はぁはぁはぁ……」
僕は玄関の扉に背中をつけ、座り込んだ。
「なんだよ……何なんだよ」
後ろからついてくる足音、僕が歩けば向こうも歩き、僕が走れば向こうも走る。どこまでも執拗に追いかけてくる。だが、さすがに家の中までは来られまい。扉にはしっかりと鍵をかけ、チェーンもかけた。
「ほっとしたらトイレに行きたくなったな」
僕は背負っていたリュックを置いてトイレに入った。ふと横を見る。
「ない…………トイレットペーパーがない……」
サァーッと血の気が引く。しかし何のことはない。昨日使い切って、取り替えるのが面倒くさくてそのままにしてただけだ。
「そうか……そうだった。確か昨日は押し入れを開けたところで『やっぱり明日でいいや』って…」
僕はほっと胸をなで下ろした。
「えーっと、押し入れに買い置きがあったはず」
僕は押し入れの戸に手をかけた。ゆっくりと開ける。次の瞬間、目に飛び込んで来たものに僕は震えが止まらなくなった。
「あ…あ……ああ………」
押し入れには確かにトイレットペーパーがあった。ただしそれは、刃物の様なものでぐちゃぐちゃに切り刻まれていた。昨日見たときは確かに綺麗な状態だった。もちろん僕の仕業ではない。まさに今日、僕のいない間に誰かがこの部屋に侵入して、トイレットペーパーを切り刻んだのだ。
はっとして部屋の中を見回す。さっきは気がつかなかったが、改めてみると部屋の中のあらゆるものが動かされていた。ゴミ箱の位置、教科書の配置、閉じていたはずのパソコンが開かれている。今日……誰かがこの部屋に………
いや……違う。僕が帰って来たとき玄関には鍵がかかっていた。僕は鍵を開けて入って来たからそれは間違いない。慌てて二つある窓をそれぞれ確認したが、鍵はちゃんと閉まっていた。窓ガラスも割れていない。
じゃあ…犯人は今どこに………その時、僕の中に一つの恐ろしい考えが浮かんだ。
「嘘だ……そんなのあり得ない…あり得ないあり得ないっ!!」
僕はベッドに潜り込み、ガタガタと震えた。血液が徐々に冷たくなるのを感じる。
「やめてくれ……殺さないでくれ…。誰か…誰か助けて…………」