(3)違和感
最初は小さな違和感だった。
夕方、大学からの帰り道、僕はふと背中に妙な感覚を覚えた。後ろに何かがいるような、誰かに見られているような感覚だ。僕は恐る恐る振り返ってみたが、そこには人ひとり見当たらなかった。最初は気のせいだと思った。あんなことがあったから気が立ってるんだと。だが、それも3日続くとさすがに気のせいだとは思えなくなってきた。
違和感はそれだけではなかった。
最初に付けられているような感覚に陥った日から4日目の朝、祝日で大学は休みだったが、買い物に出ようとドアノブに手をかけたその時、ふと気がついてしまった。
「鍵が…開いてる」
確かに昨日、家に入った時にはちゃんと閉めたはずだ。それが朝になってみると開いていた。
「いや待て、ほとんど無意識にやってることだからほんとに閉めたかどうか分からない。もしかしたら自分で閉め忘れたのかも」
僕は自分にそう言い聞かせた。
「そんな、ストーカーなんて滅多にされることじゃない。実際に犯人らしい人を見かけたわけでもあるまいし、きっと僕の気のせいだ」
そんな僕の気持ちとは裏腹に、違和感は日に日に大きくなっていった。
後ろからついてくる足音、夜中の変な物音。あの日記にかいてあったような事が次々と起こった。夜も眠れず、昼間も誰かの視線が気になって落ち着かない日々が続いた。
「戸崎………おい、戸崎っ!」
「え?あ…ああ、福平か」
同じ学科の福平亮太が僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。
「お前、最近元気なくないか?」
「そ、そうか?」
僕は出来るだけ明るい声で言った。
「最近ちょっと体調がすぐれなくて。五月病ってやつかも」
僕がそう言うと福平は少し安心したようだった。
「確かに、連休明けってきついよな~」
その後はチャイムが鳴るまで世間話をしていた。僕はあまり人と話す方ではないけど、こういう何気ない会話をするのはすごく落ち着く。いっそこの時間がずっと続けば良いのにとすら思った。だが、もちろん恐怖は僕を逃がしてはくれなかった。後ろからついてくる足音、夜中の物音、誰かの視線。気の安らぐことのない日々がそれからしばらく続いた。