Act.0015:すまん、みんな……生きのびてくれ……
(とにかく今は――)
アラベラは強制的に、思考を戦闘モードへひき戻す。
今、犯人を追及しても仕方がない。
(狙撃型の挟撃……まさか相手も……?)
深海の重い機体をむりやり跳ねさせて、右の岩石を背にして左を向く。
楕円をつないだような機体は、決して機敏ではないが、動き自体はスムーズだ。
太い関節をきしみも少なく片膝をつかせると、2本の担いでいる細長いヘクサ・バレルを前方に向ける。
両サイドからの狙撃。
右側には乙女とガランがいる。
だから、そちらを背中にして左を狙う。
無論、左から丸見えだろう。
しかし、正面からの撃ちあいなら、深海に勝機がある。
(……どこだ?)
深海の両目と同期した視界に集中する。
弾道から予測した位置を探索。
遠く離れた、岩石の上の方。
意識を集中すると、その部分が拡大される。
それでもよく見えないが、寝転んでいるような魔生機甲の姿が見える。
(……いた! その場に居座るとは迂闊!)
すぐさま射撃の意志を伝えると、深海が反応して視界に十字と丸のサイティングマークが表示される。
即座、敵を中心に。
「――【石鏃】!」
彼女の声に反応し、一瞬で生成された石の鏃が、両方のヘキサバレルから風を切りつつ宙を駆ける。
だが――
「……ば、ばかなっ!?」
――なんと、届かない。
【石鏃】は敵のかなり手前で、放物線を描いて落下してしまったのだ。
代わりに逢魔が刻の空を斬り裂いたのは、敵の【石鏃】。
それは激しく、深海の左肩を打ち据える。
グワンッという振動で、深海の上半身が左に開く。
「――くっ!」
呻きながらもアラベラは、とっさに判断。
正面にあった岩石へ、身を隠すように移動させる。
幸い、左肩は外装を大きく凹ませたものの稼働する。
(さすが深海……だが、向こうのが射程が長いだと?)
まるで、その問いに答えるように、続けて襲いくる【石鏃】。
それはすぐ足下の地面をえぐり、ささくれた刺のように突き立つ。
その足から響く振動が、アラベラに不利を知らしめた。
(やはり……むこうは届く! まさか、こちらより高性能……しかし、さすがにこの距離なら精度は……)
背後を見やる。
乙女の強襲型魔生機甲【Hi-G ブラック・クロス】が、左手を前にかざして【颶風飛刃】という魔法を放つ。
8つの風の刃が飛び交い、右の敵から放たれた【石鏃】を粉々に斬り裂く。
ただ、風の刃は射程が短いために、敵に届くことなど到底ありえない。
そもそも、その漆黒に染まった機体は、突撃して突破口を開く役目のもの。
それがためにボディは打たれ強い騎士タイプの胸当をつけており、四肢は武者タイプの防具をつけて動きやすくされていた。
乙女が、そのスピードと防御力のバランスを活かして、狙撃者に向かって強襲しようとする。
そこにまた、【石鏃】。
しかも、今度は敵陣のあった森から飛来する。
乙女が、神がかった速度で反応。
左腰に走る、ブラック・クロスの右手。
そこにあるのは、魔生機甲用に作られた打刀。
抜刀。
そのまま流れるように、【石鏃】を斬り落とす。
さらに、【石鏃】。
向かうは、ブラック・クロスの背中。
大鍬形のついた頭を振りむかせるが、さすがに間にあわない。
そこに割りこんだのは、新緑の機体【グリーン・ガラン】。
矢に向かって放たれる、グリーン・ガランの拳。
――いや。
拳の代わりにあったのは、金剛鉄でできた円柱形のドリル。
それが激しく螺旋を渦巻かせ、石の鏃を粉々に粉砕。
間を置かず、別方向から飛翔してくる【石鏃】。
今度は、グリーン・ガランの蹴りで粉砕。
グリーン・ガランの足先では、斜めにそそり立ったやはり金剛鉄のドリルが唸りをあげていた。
角張った細身のボディの四肢に、ドリルをもつグリーン・ガラン。
その格闘戦は強力だったが、それももちろん接近戦での話である。
ダイアモンドを思わす頭に造られた、人面を模す顔が苦渋に歪んだ……アラベラには、瞬きの間だけそう見えた気がした。
それはもしかしたら、単にアラベラの心情を写しだしただけなのかもしれない。
(5方向……まさか、狙撃機体が5機もあるのか!?)
接近型2機と遠距離型1機に対して、こちらより射程が長い遠距離型5機。
さらに後方には、こちらをせせら嗤うように7、8機の機体が見学している。
アラベラは戦慄と共に、敗北を悟る。
彼女の思考は、戦闘から逃走に切り替わる。
勝敗ではなく、生死の選択レベルだ。
(各員、小隊長の指示に従い撤退! 乙女、ガラン、森だ! 続け!)
アラベラは、その機体をいの一番に森に向かわせる。
その動きは、まるでスキップ。
宙に浮いた瞬間、風魔法による推力を一気に放出。
足で走るのでは愚鈍だが、直進するだけならば速度はでる。
このまま敵陣に突っこませる。
これで少なくとも注目は集められるはずだ。
歩兵部隊が逃げるのは難しいかも知れない。
それでもチャンスが増えるはずだ。
(乙女、ガラン――)
背後から、僚機2機がついてくるのを確認する。
(私にかまわず、自分たちの身を守れ!)
襲いくる【石鏃】。
僚機がそれぞれ撃ち落とし、打ち落とす。
しかし、防ぎきれない。
敵の狙いは、アラベラの深海。
「――くっ!」
響く振動。
もげる左腕。
ぎりぎりとるバランス。
まだ進める。
弾ける頭部。
見えない視界。
視界切り替え。
狭いながら前方視界確保。
まだいける。
左脚被弾。
転ぶ。
揺さぶられる頭。
前方に倒れ、コックピットの中で前のめりになる体。
魔力によりシートへ押しつけられているため転がりはしない。
腕で上半身を起こして視界確認。
目の前には、森。
辿りついた。
――アラベラ様!
乙女の呼び声。
(乙女、Hi-Gシステムだ! 降りて逃げるぞ!)
――了解!
すぐさま、ブラック・クロスを守るように、深海とグリーン・ガランが前後に立つ。
――Hi-Gシステム起動!
ブラック・クロスのバックパックから、まるでXの字を描くような棒状のパーツが展開される。
――【黒薔薇の舞】!
魔術発動。
そのパーツの先端から黒い霞が上がる。
それは瞬時に広がった。
と思うと、霞がまるで無数の黒い花びらと化していく。
あっという間に、3機の姿を覆い隠す。
これはある種の結界だった。
今ごろ敵は、【石鏃】で黒薔薇を散らそうと躍起になっていることだろう。
しかし、この黒薔薇の花びらは、触れたとたんに【石鏃】を黒い花びらに変質させてしまう。
外からの魔法攻撃は、一切受けつけなくなるのだ。
ただし、弱点もある。
まず、効果時間は20秒弱と短い。
そして、中に入っているブラック・クロス以外の魔生機甲もしばらくすると動作不能となってしまうし、中で魔法を使うこともできなくなる。
だから、アラベラはすぐに深海を横ばいにさせて格納させた。
横ばいにさせたのは、地面に降りるのを早めるためだ。
立った状態からだと、コックピットの高さから地面に降りるまでに時間がかかりすぎる。
蒼き巨大な魔生機甲が戻った魔生機甲設計書をウェストバッグにしまうと、アラベラは黒い花びらの舞う視界の悪い地面を進みだす。
数メートル先も見えないが、記憶にある森の方向に走りだす。
他の2人も同じ事をしているはずだ。
魔生機甲戦では、どうあっても勝てない以上、この方法で逃げ延びるしかない。
ここは敵の本拠地の森。
地の利は、相手にあるだろう。
だから、助かる可能性はかなり低い。
どこまで逃げ切れるかわからない。
だが、アラベラにはこうするしか他に手段がなかった。
(すまん、みんな……生きのびてくれ……)
そう祈った瞬間、遠方から大きな爆発音が響いてくる。
それは、歩兵部隊のいた方向だった……。




