Act.0008:なしにしませんか?
コックピットは、まさに世代がデザインしたとおりだった。
少し低くなった前部座席にいちず、そしてその少し高い後部座席に世代が座っている。
彼は股を開くように座り、その膝と膝の間に、いちずの頭がある。
さらに、球体のコックピット全ての壁には、周囲の映像が映しだされる。
加えて、一部のコントロールパネルやレバー、スイッチ類を覗いて、シートやその他の機材、さらに脚や腕、胴体などにまで、プロジェクションマッピングにより視界が妨げられないよう映像が重ねられる。
おかげで、まるでシートや体が透けているようにさえ見えていた。
「なんだこれは!? どうなっているのだ、このコックピット!? まるで体が景色に溶けちゃってるぞ!?」
手首から先、足首から先、首から上以外は、景色が重ねられてるため、まさにいちずの言うとおりに見えていた。
世代も自分でデザインしておきながら、思ったよりもどこか不安を感じてしまう。
まるで自分の体がなくなって、空中に浮いているようだ。
(幽霊にでもなったみたいだな……でも……これがボクの夢……)
「おい! てめぇ~、その魔生機甲はなんだ!?」
柳生の叫び声が、コックピットの中まで聞こえた。
きちんと位置関係も計算して音が聞こえる仕組みなので、正面のロボットから聞こえたようになる。
これも、世代が設計した通りだった。
「見たことない……それどころか、なんて精巧なんだ……ありえねぇ……」
柳生が感嘆をもらす。
だが、世代にしてみれば、それほどではないと思う。
(ボクの尊敬する、メカニカルデザイナーの大御所、【大河森】大先生が作った、数々のアニメで活躍しているロボットに比べたら、ボクのなんて……)
とはいえ、確かに目の前に在る「かっこ悪いロボット」に比べれば、遙かに精巧と言えるという自負はある。
「すげぇ……これは金になる! おい! ダメージ与えて強制格納を狙うぞ!」
「了解!」
そんな会話が聞こえてきたと思ったら、柳生のものではない1機が、駆けよってくる。
何をするのかと見ていると、一回り大きいヴァルクの胸元に鎧の小手のような手でパンチを放ってきた。
ゴンッという渋い音が響き、わずかな振動が伝わってくる。
ビクともしない……とまではいかないが、ヴァルクはブルッとしただけで、倒れるどころかその場から動くこともなかい。
(……コックピットの振動吸収システムはうまく動いているなぁ。というか、かっこ悪いロボ、初期の雑魚キャラ並じゃないか。……しかし、オートバランスってどうなってるんだ?)
呑気に状況を観察している世代に対して、いちずは愕然としていた。
「なんなのだ、この魔生機甲……今の衝撃、ほとんどダメージないぞ……」
左右の丸い球体のコントローラーに手をのせながら、彼女は不思議そうにキョロキョロと見まわす。
「でも、やはり私のレベルでは立っているのが精一杯……このままじゃ、魔力が尽きる……」
「魔力?」
悲壮な声をだすいちずに、世代はどこか呑気そうに尋ねた。
「この魔生機甲って、魔力で動いているの?」
「そうだ。構築の儀式を行った者、つまり今は私の魔力で動いている」
「魔力……。操縦はどうやってやっているの?」
「デザインしたのに、そんなことも知らないのか。一部を除いて、ほとんどは魔力による思念コントロールだ。ただ、私のレベルが足らないので、これだけ高レベルだとうまくコントロールできない。こんな立派な機体なのに……すまない」
「そういうもんなのか……」
――ドドッ!
次の瞬間、先ほどとは比べものにならない衝撃が、コックピットを襲った。
薄暗い空間がグラリと揺れる。
一歩だけ退きながらも、足を踏ん張って倒れなかったが、その威力は先ほどとまったく違う。
「くっ。【火弾】か!」
「えっ!? かだん? ……ああ、火の弾!?」
いちずの言葉に、世代はビックリして正面を見る。
すると、2機のロボットは、片手を前に掌を広げていた。
いかにも今、何かを出しましたと言わんばかりだ。
「ロボットなのに魔法使うの!?」
「ロボットとかいうのではなく、あれは魔生機甲だぞ! 魔法を使うのは当たり前じゃないか!」
「当たり前なの!?」
そう言われれば、魔法を使うロボットアニメも確かに存在した。
しかし、そういうのはいわゆるスーパーロボット系と呼ばれるアニメだ。
世代としては、もう少しリアルロボット系のが好みである。
「えーっと、いちずさん……」
「なんだ?」
「魔法、なしにしませんか?」
「――できるか!」
できなかった。