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Act.0003:高くつくぞ?

 早朝に四阿(あずまや)を出発し、山間の街道を使って幌馬車で夕方まで進み続けた。

 すると、周囲に岩山が並ぶ、少し開けた街道にでる。

 その街道を2匹の馬にひかれた幌馬車は、さらに進む。

 ガコンガコンと揺れる。

 その中で8人の部下とともに、ひたすらアラベラはその時(・・・)を待っていた。


 しかし、この馬車の乗り心地には、本当に慣れることができない。

 もっと乗り心地のいい、魔動車という魔力で動く高級車両の乗り心地をよく知っているだけになおさらだった。

 宙に浮く魔動車に比べると、まるで常に縦揺れの地震でも起こっているかのようだ。

 四阿に来る時も馬車で来たのだが、お情け程度の座布団ではお尻が痛くてたまらなかった。

 幸いにして揺れへの耐性は、魔生機甲(レムロイド)で慣れている。

 だから、乗り物酔いになることはないが、それでもそろそろ限界だ。


 天井に丸く張られた幌の生成り色が、夕日に赤く染められている。

 夕暮れの見通しの悪い視界で襲い、逃げおおせるのに闇を使う……奴ら(・・)

 足の遅い幌馬車という餌に、その斥候が街外れから食いついてきたことはわかっているのだ。

 そろそろ頃あいのはずと、右手に握っていた刺突剣(レイピア)の鞘を強く握りしめる。


「大隊長……」


 その予想通り、部下が御者席から荷台を覗きこんできた。

 アラベラは愉悦するように、口角をつりあげる。


「来たか……」


「はい。囲んでおります。魔生機甲(レムロイド)が2機」


「ブレイド・ワン、きさまはなかなか鋭い感知能力だな」


「はい。その点は自負しております」


「ふっ。その自信、嫌いではない。しかし、最近の山賊は本当に金持ちだな」


 アラベラは、ジャケットの胸ポケットにローブの上から手をかざす。

 そこには、手のひらに収まるほどの携帯伝話帳(けいたいでんわちょう)という魔術道具が入っていた。

 音声だてけでなく、念話(ねんわ)という音を解しない通話までできる、警務隊用の優れものである。


(こちらブレイド・ゼロ。アロー・ワン、ターゲットを確認できるか?)


 アラベラが念じると、すぐに音なき声が返ってくる。


――こちらアロー・ワン。ターゲットは1機補足。タイプは、騎士3型。


(了解。安物だな。仕留められるか?)


――問題なし!


(よし。あとはこちらでやる。アロー・ワンはターゲット・ダウン後、そこから周囲警戒せよ)


――了解。


 その念話が終わるのを待っていたかのように、馬車が急に止まった。


「来ました」


 御者席で一般人のように安いチェニックを着た部下にうなずくと、荷台にいる部下たちを見わたす。

 すでに全員、腰をあげて剣の柄に手をかけていた。


「ブレイド・スリーは散開後、魔生機甲(レムロイド)構築(ビルド)。敵魔生機甲(レムロイド)を沈めろ」


「了解」


 返事をした部下が、剣の代わりに魔生機甲設計書(ビルモア)を手にする。

 それを確認し、ローブ姿のアラベラは幌の中から御者席へ出ていく。


「…………」


 周囲をすばやく観察する。

 こちらを囲んでいるのは、ざっと15人ほど。

 全員が頭に緑の幾何学模様が描かれた襤褸布(ぼろぬの)を巻いて、目許と口許以外を隠している。

 その中に、魔導杖をもつ魔導師らしきものはいない。

 情報通りだと納得してから、すぐに今度は地形を確認。

 茶と黄土色の混ざった荒れ地が広がり、少し離れた所には同じく黄土色と赤肌が見える岩石が転々と並んでいた。

 大きい物だと魔生機甲(レムロイド)を隠すのに充分なサイズがある。

 それだけで状況は把握できた。


「なんの用だ。我々はここを通りたいのだが?」


 アラベラの問いに、返答ではなく下品な口笛が返る。

 正面に立っていたリーダー格らしき男が鳴らしたものだった。

 片手剣(ワンハンドソード)を片手でブラブラとさせながら、口を半開きにして頬をつり上げている。


「おいおい。なかなかいい女じゃないか! きつそうな青い目も好みだぜ」


 その下劣な笑みからでたのは、なんと芸のない台詞だろうか。アラベラは内心でその知能の低さを嫌悪しながら、表情は崩さない。

 高い鼻をフンッと鳴らして、ニヤリと笑ってみせる。


「褒めていただき悪い気はしないが、先を急いでいる」


「平気、平気。急ぐ必要はなくなる。荷物はオレたちがいただくからな」


「それはできない……と言ったら?」


「そりゃ力尽くになるが……」


 格好をつけたつもりなのか、顔の横で男は指を鳴らした。

 とたん、岩山の影から姿を現したのは、魔生機甲(レムロイド)が2機。

 2機とも、先ほどの情報にあったとおり騎士3型と呼ばれる、汎用魔生機甲(レムロイド)だ。

 一言で言えば、西洋甲冑をそのまま大きくしたようなデザインである。

 頭がダイヤ型をした兜に、横スリットが入ったバイザー。丸い板金でできたような胴鎧。肩当(ポールドロン)手甲(ゴーントリット)脛当(グリーブ)鉄靴(サバトン)に至るまで、すべてくすんだ白銅色(はくどういろ)をしていた。

 関節部分には、真っ黒な金属製の球体関節が覗いていた。

 これは最も安価に手に入る戦闘用の量産型魔生機甲(レムロイド)であり、見るからに素材も粗悪な鉄を使っていそうだった。

 これならば、乗っているパイロットのレベルも知れるというものだ。


 しかし、対人間であれば、充分すぎる力を発揮する。

 目の前の山賊たちも、それはわかっているのだろう。


「できたらよぉ、穏便にすませたいのさ。話によると、荷物はなにやらお高い(・・・)美術品らしいじゃないか。できるなら傷つけずもらいてぇ」


 そうだ。荒らされた四阿の豪商の1人が、金に困ってコレクションの美術品を売ることにした……そういう設定(・・)になっている。


お高い(・・・)美術品ね。確かにこの荷物……」


 アラベラの碧眼が夕日を照らされ濁って光り、歪んだ唇も血の色に変わる。

 彼女の口から、「くっ」と短い嘲笑がもれる。


高くつくぞ(・・・・・)?」


 まるで山賊のリーダーをまねるように、アラベラも指を鳴らす。


 とたん、空気を振るわす轟音。


 刹那、衝撃音。


 くの字に横に吹き飛ぶ、1機の騎士3型。


 破砕音と地響き。


 飛び散る石つぶて。


 それを腕でガードしながら、呆気にとられる山賊たち。


 彼らの視線の先には、くの字のまま磔の魔生機甲(レムロイド)

 ストーン・アローと呼ばれる巨大な石の矢が、コックピットを横から貫き、岩山に突き刺さっている。

 魔生機甲(レムロイド)は、糸の切れた人形と化してぐったりと四肢をたらし、首を折り曲げていた。


(なるほど。遠方からの射撃性能……これは凄いな)


 今までの常識からは考えられない遠距離からの精密射撃。

 その新型の魔生機甲(レムロイド)の性能にアラベラは素直に感嘆する。


「――なっ!? 一体どこか――!?」


 山賊のリーダーの驚愕は、すぐに悲鳴で途切れさせられた。

 ストーン・アローの飛来と同時に、幌馬車からはアラベラの部下たちが飛びだし、すでに数名の山賊たちが絶命している。

 さらに、幌馬車の背後には、新たな魔生機甲(レムロイド)が1機、現れる。


「き、貴様たち……まさか!?」


 アラベラはひきつる山賊に見せつけるように紺のローブを脱ぎ捨てた。

 そして、胸のエンブレムを見せつけて、刺突剣(レイピア)を抜く。


「け、警務隊……罠か!?」


高くつく(・・・・)と言ったはずだ。まあ、貴様ら悪党の命など安いがな」


「くっ……」


「あのリーダー以外、全員処刑せよ! 1人とて逃がすな!」



 その戦闘は、10分とかからなかった。

 だから、このいきすぎた「処刑」という名の「殺戮」をとめようと、もう1人の大隊長が着た時には、すべてが終わっていたのである。

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