表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
75/122

Act.0066:絶望したかい?

「ア……アハハハ……。これは何の冗談なんだよ……」


 名月は、今まで感じたことがない複雑な感情に襲われていた。

 忿怒、怨嗟、混乱、驚駭……そして興奮と愉悦。


(やべぇぜ……。こんなにむかついて、楽しいことは初めてだ!)


 一瞬で、組織の新型が4機も沈められた。

 まだ、そこまでは不意打ちされたからだと思った。


 しかし、挟み撃ちするために、北から3機、南から3機で仕掛けた。

 その結果、北の3機も一瞬で沈められた。

 正直、何が起こったのかわからない。

 ものすごい爆音が響いたことはわかったし、なにか爆発が連続して起こっていたことはわかった。


 最初は、【爆散火炎巨弾ばくさんかえんきょだん】という高等な、火系戦術一級魔法かと思った。

 だが、3機とも結界を張っていたはずだ。

 そのため、生半可な魔力では結界を破ることはできないし、それほど巨大な魔法を1人であんなに連続で撃てるわけがない。


「こりゃ……バケモノがいる……想像を超えるバケモノがいるぜ!」


 ここまできて、初めて相手がただの不意打ち野郎ではないと確信した。

 あれだけの巨体が浮かびあがらせ、遠距離から結界をものともせずに打ち破り、一瞬で大爆発を連続で起こして3機を沈めるバケモノ。

 もちろん、思い当たる節はある。


「東城世代(セダイ)の未確認オリジナル魔生機甲(レムロイド)……」


 きっと5機目があったのだろう。

 たった1機でこれほどの戦力を持つ東城世代(セダイ)のオリジナル魔生機甲(レムロイド)

 もし、その5機すべてを手中に納めれば、世界を変えられる威力になるかもしれない。

 魔生機甲(レムロイド)中隊相手ならば、対等に渡り合えるどころか勝利できてしまえる力だ。


「止まれ! そこの岩山に隠れろ!」


 部下の2機を左右それぞれの岩山に隠す。

 そして、自分は一歩引いて、様子をうかがう。

 まだ敵との距離は離れている。

 作戦を立てなければならない。


(欲しい……欲しい! これがあれば、ちまちまと火種を作る必要なんてない! いきなりでかい戦争を起こせるはずだ!)


 エキサイトしてくる心を抑えこみ、名月は思考をめぐらす。

 とにかく、戦力が足らない。

 まずは、一度さがって【木通(あけび)】に行き、そこにいる2機と合流する。

 もちろん、4機でも勝てないだろう。

 しかし、木通には人質がいる。

 それを盾にすれば、勝機はあるはずだ。

 こんなことなら、この街も殲滅ではなく、歩兵部隊を導入して人質をとっておくべきだったと後悔する。


「フルムーン・アルファ3号機、4号機。応答しろ! …………? 早く応答しないか!」


 名月は、すぐに木通の部隊に伝話で連絡を取ろうとした。

 しかし、なぜか2機とも返事をしない。

 おかしいと思い、木通にいる地上部隊にも連絡を入れた。

 だが、そちらも誰一人として返事がこないのだ。


「……ま、まさか……」


 名月の背筋に冷たい汗が流れる。

 あちらの町に抵抗戦力などないはずだし、一番近いこの街から援軍なんてだせるわけがない。

 それに他の街から援軍がでたという情報もない。


 ならばいったい誰が、警務隊の魔生機甲(レムロイド)さえ寄せつけない、あの2機を相手にして斃したのだろうか。

 それに、人質を盾にできる歩兵部隊の6名をいったいどうやって斃したというのだろうか。


「ちっ! おい、6号機、7号機! 一度、さがっ――!?」


 まるで名月の言葉を遮るように、激しく唸る轟音と眩い光の棒ができた。


 どこまでも、どこまでも……真っ直ぐな2本の黄色く赤く光る棒。


 部下2機の魔生機甲(レムロイド)は、厚さ50メートルはありそうな2つの岩山にそれぞれ身を隠していた。

 しかし、光の棒はそれを無視するかのように貫いている。

 そして、もちろん、その裏にいた部下2機の魔生機甲(レムロイド)の胴体にも、まるで透過するように貫通している。


「…………」


 呆気にとられた1秒後。


 フルムーン・アルファの胴に突き刺さった光の棒は、そのまま細くなって消えていった。


 そこには、丸くきれいな穴が開いた、岩山と魔生機甲(レムロイド)が2つずつ残った。

 きれいに空いたトンネルからは、見ているだけで焦げた臭いが漂いそうな煙が立ち上っている。


 そして風穴を開けた魔生機甲(レムロイド)2機が、崩れるように倒れていく。


「うっそ……だろ……おい…………この岩山……ごと?」


 気がつけば、残っているのは自分の魔生機甲(レムロイド)のみだった。

 もう、他に戦力などありはしない。


 魔生機甲(レムロイド)は、疑似生命体であるため、多少の自己回復能力を持つ。

 また、魔生機甲設計書(ビルモア)さえ無事ならば、格納(ストレージ・イン)されれば魔力により急速に回復していく。

 強制(フォース)格納(ストレージ・イン)されるような半壊状態でも、1週間しないうちに回復するぐらいだ。

 場合によっては追加素材が必要な場合もあるが、ある程度は増殖して修復してくれる。

 そんな非常に便利な兵器であった。


 しかし、それも魔生機甲設計書(ビルモア)が残っていればの話だ。

 魔生機甲(レムロイド)を生かしているのは、あくまで魔生機甲設計書(ビルモア)とパイロットである。

 魔生機甲設計書(ビルモア)が一緒に消失すれば、その途端に魔生機甲(レムロイド)はただの人型の塊となる。

 しばらくすれば、目の前の2機も完全に魔力が抜けて、メインフレームに当たる魔生機甲(レムロイド)の芯がくずれ、人の形さえもなくなるだろう。


 これで名月が指揮する部隊のフルムーン・アルファ9機は、すべてコックピットこど壊された。つまり、魔生機甲設計書(ビルモア)が消されてしまい、復活できなくされてしまったのだ。

 さらにたぶん、木通にいた2機も、その可能性が高い。

 それは、組織が大金をかけて作った最新鋭11機が一瞬にして、完全に失われてしまったということなのだ。

 この損害は、とてつもなく大きい。

 もし、このまま無事に組織に戻ったとしても、名月は責任をとらされて始末されることだろう。


 だが、今の名月にとって、そんなことはどうでもよかった。

 彼の恐怖と興奮は、まさにマックスになっていた。

 とんでもない力。

 それに自分の力をぶつけたい。

 自分の行き場のない、使い道のない、意味のわからない、わきあがることを止められない力をぶつけたい。

 いいや。

 これこそが、きっと求めてきた力の使い道に違いない。


 彼の脳内で大量のアドレナリンがさらに分泌される。

 だが、彼はわかっていた。

 自分もかなわないだろうことを。

 あの火力で狙われれば、一瞬で消されてしまうはずだ。


(くそっ……。剣を使える間合いなら、もっと楽しめたのによ……)


 心で独り言ちて、ほとんど覚悟を決める。

 ところが――。

 まさか相手に、彼の心の声が届いたのだろうか。

 なんと敵が、ノコノコと近づいてくるではないか。


(何で……)


 名月が驚きのあまり呆然としていると、5~600メートルほど離れたところで巨体が止まった。

 黒を基調とし、赤いラインが禍々しく入っている。

 それでいて、関節やところどころに金色が光り、威圧感を増している。

 分厚い装甲、そして全身にある砲門らしき武装。

 それがこけおどしではないことは、これまでの戦いで名月にも十分わかっていた。


(それなのに、なんで近づいてきた……?)


 と疑問に思った瞬間、またそれにこたえるように正面モニターに「伝話」の文字が浮かぶ。

 まちがいなく正面から直接、魔力を送りこんできているのだろう。


「……受話」


 名月は一旦、悩んでから、話を受ける。


〈……絶望したかい?〉


 名月よりも若い男の声。

 しかし、異様に落ち着いていて、冷たい声。

 声質は若いが、実年齢はいい年なのかもしれない。


「……絶望ねぇ。オレはもともとこの世界に絶望してたからな。ただ、せめて貴様とは、剣でやりあいたかったぜ」


〈なるほど。剣術なら希望があると思っているのか。……いいよ、やろう。もともと、そのつもりだしね〉


「……え?」


 驚いて、目の前のバケモノを見ていると、次々と武装が光の粒子となって消えていく。

 部分的にパーツを格納(ストレージ・イン)している。

 大きな砲門も消える。

 盾も消える。

 ただのゴツイだけの魔生機甲(レムロイド)になってしまう。


「パーツアウトなんてして、どーいうつもりだ!?」


〈剣なら勝てると、希望を持っているんだろう? こっちもレーザーサーベルではなく、実体剣で相手をするよ〉


 そういうと、今度は背中に回した手で、一振りの巨大な日本刀を持ちだした。

 その刃は、真っ赤に染まっている。


「……てめぇ。マジか?」


〈わりと。さあ、やろう〉


「……いいねぇ! 気に入った! 最高だ!」


 名月も魔生機甲(レムロイド)を操作し、腰背部に横付けしていた剣を手にする。

 幅広で湾曲したサーベルだ。

 これは使い慣れた武器で、彼はどの魔生機甲(レムロイド)に乗っても必ず、この装備を持たせていた。

 やはり、魔法をただぶっ放すだけではつまらない。

 直接、切り刻む方が数倍楽しい。


「じゃあ、お言葉に甘えて行くぜ!」


〈こっちから行くよ〉


 そう言ったとたん、目の前のバケモノは、空気をまきあげ、地面を滑るように高速で迫ってくる。


「アハハ! なんだ、そりゃ!」


 見たことのない移動方法だったし、その速度もすさまじい。

 しかし、ほぼ一直線だ。

 あの動きでは、急な方向転換もできまい。

 名月は、剣術に自信がある。

 迎えうてるなら勝機はある。


 だが、間合いに入る寸前。


 バケモノの頭がわずかに沈んだ。


 瞬間、地面を削りながら、巨体がかるがるとスピンし始める。


 巻き上がる、土に草木。


 さっきまで浮いていた足は、地についていた。


 足底についた車輪が、唸りをあげている。


 完全に名月は、サーベルをふるタイミングを失った。


 そこに見える、軸線がずれた敵の背中。


 慌てて、左手でサーベルをふる。


 それは、悪手だった。


 その反転速度は、まさに疾風。


 素早く斬りあげられた敵の刃が、出遅れた腕に走る。


「ちぃぃぃぃっ!!!」


 サーベルを握った腕を肘あたりから斬りおとされる。


 ズンッという重い落下音と共に腕ごと剣を失う。


「くっ……」


 だが、そこで敵は予想外の行動にでた。

 落ちたこちらのサーベルを拾って、投げ渡してくる。

 とっさに名月は、残った手で受け取る。


「……いいね。やめないところ、好みだ!」


 しかし、利き手ではない右手ではあきらかに不利だ。


「ならば……【火弾(かだん)】!」


 剣を指先だけで握り、手の甲の付け根についたヘクサバレルから炎の弾を発射する。


 だが、それをまるで読んでいたように、黒い機体は横に滑る。


 もちろん、名月も避けられるのは折りこみ済み。


 逃げた先に、飛び回し蹴りを入れる。


 が、前腕で外受けされて払われる。


 その回し蹴りを上回るパワーに、バランスを崩す。


 開いた間合いを詰めるため、【火弾(かだん)】で牽制する。


 その攻撃も、バケモノは上半身の体捌きだけで避ける。


(とんでもない反射神経だ……)


 が、絶好の間合いになった。


「――もらった!」


 名月は、袈裟斬りにサーベルをふりおろす。


 ところが、間合いが刹那で変わる。


 足の裏のタイヤが動き、バケモノはその姿勢のまま懐に入ってくる。


「なにぃ――っ?!」


 右手が伸びてきて、前腕についている金色のクローが顔面を襲う。



――バキッバキッバキッ!!!!!



 頭がもがれる音が頭上で響く。


 視界が一瞬、ブラックアウトする。


 目を開き、目の前の物理モニターに視界を移す。


 画面いっぱいに、真っ赤に光る猛禽類のような目。


「――ヒイッ!」


 思わず情けない悲鳴を上げた。


 刹那、物理モニターも、衝撃とともにブラックアウト。


 そして、次の衝撃。


 たぶん、残っていた腕も斬りおとされた。


 腕も頭もなく、薄闇のコックピットに名月はひとり残される。


(こいつ……知り尽くしてやがる……)


 こちらの魔生機甲(レムロイド)の動作、カメラの位置、強制(フォース)格納(ストレージ・イン)されないぐらいの壊し方……それのどれもが、構造を知り尽くしている者であることを感じさせる。


〈――絶望したかい?〉


 あの声がまた響く。


「……なんでそんなに、オレを絶望させたい?」


〈あんたが、ボクの魔生機甲(レムロイド)のコピーで、生身の人間を殺しまくったからだよ。あんたがまき散らした絶望のかけらだけでも、味わってもらうかと思ってね〉


「……そうか。やっぱりおまえ、東城世代(セダイ)か。まさか優秀な魔生機甲設計者(レムロイドビルダー)の上に、優れたパイロットだとは思わなかったぜ。しかも、偽善者かよ」


 名月は、くっくっと漏れるように嗤いだす。

 そして、我慢できなくなったように、馬鹿笑いをし始める。


「アハハハハハ! なにが人間を殺しただよ、偽善者め! お前だって、オレの部下を大量に殺しまくってくれたじゃねーかよ! 正義のためか? 正義のためだったら殺していいとか言うのか? ……アハハハハハ! ふざけんなよ、おい! なら、オレにはオレの正義があるぜ! 人間を殺すことに良い悪いがあるのかよ!」


 名月は、見えない相手に嘲るように言葉を投げつけた。

 少し強がりながらも、彼は答えを求めるように返事を待つ。 


〈わかってないな……〉


 だが、帰ってきたのは、彼が求めた答えではなかった。

 冷たいあきれ果てた感じの声。


 そして、下から突き上げるような衝撃。


「――ぐはっ!」


 浮き上がる感覚。


 名月はコンソールパネルに、したたか頭を打つ。


 チカチカとする視界をなんとか開けると、そこは光の粒子に包まれた外の風景だった。


 最後のフルムーン・アルファも沈んでしまったのだ。


〈ごちそうさま……〉


 場違いなセリフで、勝利を宣言する声が耳に入る。

 黒いバケモノの巨大な手が伸びてきて、身体を握って自由を奪ってくる。

 もう、名月は抵抗することをやめていた。

 だが、意志までは縛られない。


「おい、東城世代(セダイ)! なにがわかっていないって言うんだ!?」


 どうでもいいことだ。

 しかし、どうしても気になることだった。

 だから、名月は睨みながら答えを求めた。

 すると一拍置いてから、問いに対する返事が黒いバケモノから聞こえてくる。


「ボクは人を殺したこと自体を責めているんじゃない」


「……なんだと?」


「あんたは、魔生機甲(レムロイド)を貶める使い方をした。それが許せないんだよ」


「…………」


 それは名月が、予想だにしない回答だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ