Act.0064:とんでもない男なんじゃないの?
ここまで自分との差があるとは、双葉は正直なところ思っていなかった。
重くて飛べる機体ではないのを力尽くで飛ばせたため、空中制御は難しかったはずだ。
しかし、それをおこないながらも、機体を山頂より高く飛ばし、山向こうの索敵を行い、その中から狙いやすい敵を2機見つけ、そのそれぞれのコックピットに狙いを定め、上空で留まる1秒ほどの間にトリガーを引く。
それを2回ともミスなく、世代は実現して見せたのである。
魔法とは違う射撃武器――銃。
それはオプション装備として、【ジルヴァラ・カットゥ】にも実装されている。
魔力をこめる必要もなく、すばやく撃てる便利な射撃武器だ。
しかし、遠距離でこれだけすばやくロックオンして撃つことなど、とても双葉にはできそうになかった。
(ま、まあ……。射撃は仕方ないわよね、うん。思念コントロールならあたしだって、なれればこのぐらいできるんじゃないかな~って思うし。それに接近戦なら、きっと魔生機甲設計者の世代に負けるわけがないし!)
双葉は一瞬でいろいろと言い訳してから、自分の仕事に戻る。
彼女の今の仕事は、索敵なのだ。
「予定通り、北と南から3機ずつ。挟み撃ちできたよ!」
目の前に映るモニターを確認してから、双葉は横を見上げながら世代に報告した。
「確認した」
世代の返事は、相変わらず必要最小限だ。
コックピットに入ってから、世代は少し虚ろな瞳をしている。
いや、虚ろとは言えないだろう。
その双眸は、どこも見ていないようでいて、その実はコックピット全体を見わたしている。
すべてを見逃さないように、まるで全神経がすべての画面に向いているようだ。
それでいて、その手はまるで別の生き物のように凄まじい勢いで目の前のキーボードというボタンを何個も叩き、なにやら作業を行っている。
その様子は、双葉から見たら人間離れしていた。
というより、まるで人形のように思えた。
(心が……体の中にないみたい……)
双葉は漠然とそう感じた。
今、彼の心は彼の身中にない。
今、彼の心は魔生機甲の中に移っているのだ。
「予定通り、北から潰す」
「「「了解!」」」
世代の命令に全員が応じると、黒い魔生機甲【フルアーマー・ヴァルク】の足下から風が巻きあがり、かるく空中に浮かびあがる。
そしてそのまま、地面を滑るように走りだした。
その全身は、通常の魔生機甲より二回りほど大きかった。
特に胴体パーツは、非常に巨大だ。
ヴァルクの本来の胴体パーツ【デュアル・コア】自体、他の魔生機甲より少しボディサイズが大きめである。
しかし、現在のフルアーマータイプ胴体パーツ【クアッド・コア】は、さらに一回り大きいのだ。
さらに、その肩の後ろには、巨大な砲門が2門、天を貫くように立っている。
背中に背負っているランドセルと呼ばれるパーツも、通常時よりも大きい物となり、光の翼を展開する左右4枚ずつの羽根を支えていた。
そして、そのバランスをとるかのように、四肢もかなり太い。
四肢のベースはヴァルク標準のものだったが、その上にはカバーのように装甲が覆いかぶさっている。
肩から腕にかけても、装甲がかぶせられ、その上にはミサイルポッドと呼ばれる箱状のパーツがついている。
外側には、細長いシールド。
シールドの内側には、2機のロケットランチャー。
両前腕部には、ガトリングガンと呼ばれる銃器。
そして、両手にはそれぞれレーザーライフルという銃が握られていた。
太股の外側面にも、ミサイルポッドが装備されている。
その下の裾は大きく拡がり、そこから浮かびあがるための風が吹きでていた。
風を受けている足先も、まるで靴を履かされたように角張っていた。
象徴的な3本の足の爪は見えやしない。
その代わり、足の左右には4つのタイヤがあり、踵側にも1つタイヤがついていた。
全身に武器がある魔生機甲。
それだけでも充分珍しいというのに、さらにその武器のすべてが魔法攻撃兵器ではないなど他にはないだろう。
双葉はその「魔法攻撃ではない」というのがよくわからなかったし、その詳しい仕組みや、今までの武器との違いさえも、ふんわりとしか理解していなかった。
しかし、先ほど実戦で見て、「違い」だけはしっかり理解というより実感できた。
それはすなわち、ヴァルクの攻撃が魔力障壁では防ぎにくいということなのだ。
たとえば、【火弾】は、魔力で形成された火の弾を敵にぶつけて、衝撃と熱を与える攻撃である。
その【火弾】が魔力障壁に当たると、【火弾】を形成する魔力が、分解されたり反射されたりする。
結果、【火弾】は、威力を失わされたり、それ自体が消失させられたり、跳ね返されたりしてしまうのだ。
しかし、ヴァルクのレーザーは、発射時のエネルギーこそ魔力だが、発射される光線は、あくまで物理的な熱攻撃だという。
つまり、熱い光を当てているだけなので、物理攻撃に有効ではない魔力障壁ではほとんど意味がないというのである。
これが魔術結界ならば避けられたのかもしれないが、魔導師でもない限り簡単に行える術ではない。
すなわち、魔力による防御が効かない。
これは、今までの根幹を揺るがすことだった。
接近戦はまだしも、遠距離線において防御の要であった魔力障壁が、まったく意味を成さないということになるのだ。
実際、今までの魔生機甲よりも強力な魔力障壁を作っていた、解放軍の魔生機甲を一方的に攻撃することができてしまった。
これは今現在、世代の作った魔生機甲の攻撃を防げる魔生機甲が存在しないということにも等しい。
その戦略級戦力は、世界の勢力図を大きく変えてしまうほどのものなのだ。
世代の作った5機の魔生機甲があれば、たぶん国の最高武力である国務軍と戦うこともできてしまうのではないだろうか。
もし、世代がその気になったら、世界征服さえできてしまうかもしれない。
(あたしが選んだご主人様って……とんでもない男なんじゃないの?)
さすがの双葉も、少し怖れをなす。
「3機、射程内に入りました!」
そんなことを考えながらもレーダー画面を確認して、そのとんでもない男に報告した。
「いちずさん、脚部ミサイルポッドのロックオンを」
「了解!」
いちずが、モニターを見ながら思念コントロールで、丸に十字マークのようなターゲットサイトを、遠くから迫ってくる魔生機甲にロックする。
「……1……2…………3! ロックオン!」
なかなか早いなと双葉が感心するが、そこに世代の少しキツいトーンがコックピットに響く。
「いちずさん、2秒遅い!」
「――えっ!?」
驚くいちずをよそに、世代がせっかく行ったロックオンサイトを解除してしまう。
「ロックオンはこのぐらいでやるんだよ。見てて」
そう言うと、世代がフローティングモニターのひとつを眼前に持っていく。
「……1、2、3。ロックオン。発射!」
脚の横に付いていたミサイルポッドの蓋が開き、中から多数のミサイルと呼ばれる円筒状の弾が飛んでいく。
そして、3機を襲う。
ミサイルなんていう物を見たことがなかった3機は、きっと大いに慌てたはずだ。
そして、それを逃げる方法も見いだすこともできなかったのだろう。
そのまま、コックピット周辺に数発ずつ喰らって、3機ともいくつもの爆発に呑まれていく。
そして、爆風がやんだ後には、無残な姿の魔生機甲が3機……いや、何機かもよくわからないほど、すべてが全壊されていた。
「速い……」
思わず驚嘆をこぼすいちずに、双葉は同意する。
世代が狙いを定める速度は、いちずの思念コントロールを凌駕していたのだ。
先ほど、思念コントロールなら世代と同じことができると思っていたが、双葉はそれが大きなまちがいだったと気がつく。
「次は南。双葉、索敵!」
「――あっ! ごめん! ……えっと……」
「もういい。つかんだ」
「ご、ごめんなさい!」
世代の声はいつもと違う。
冷たく、きつい物言いだった。
(ご主人様……。もっと楽しそうに操縦するのかと思ってたけど……)
もちろん、楽しむことなど不謹慎だとはわかっている。
ただ双葉は、この非常識な男なら、不謹慎ささえ放置して、楽しそうに魔生機甲を操作するのではないかと思っていたのだ。
(まあ、さすがにそれはないのかなぁ……)
今は、油断すれば命に関わる。
だから、世代も楽しむどころではないのだろう。
双葉は、そう考えた。
この時、双葉は世代のロボットへの愛の深さをきちんと理解していなかったのだ。
「1機だけ剣を装備しているけど、あれがボスっぽいな」
世代が何かを操作すると、背部で天を向いていた砲門が、肩の上に載るように折れ曲がる。
そして前方に向けられた。
「よし。岩山の向こうの2機を落として、ボスに白兵戦を挑んで生け捕りにする」
「お、お待ちくだされ、主殿!」
世代の作戦に、ミカが異議を唱えた。
「この重く動きの鈍い機体で、あの軽量級に剣術を挑むのは無謀ですぞ!?」
「……ミカは、【ズワールド・アダラ】で学んだはずでしょ?」
「え?」
世代が「やれやれ」とため息をもらす。
「魔生機甲は人間と違うんだよ。敵だって白兵戦型ではないから、戦い方はちゃんとある。見てて」
世代は最後の戦いを始めるため、操縦桿を握りしめた。
そして彼女たちは、世代のパイロットとしての技術をさらに思い知ることになるのだ。




