Act.0006:さすらいの旅人です
「どういうことだ!? しかも、50ページも……。レベル50のレムロイドなんて誰が操縦すると!?」
「…………」
「というか、なんだこれは……。今まで見たことないぐらい細かいデザインじゃないか。しかも、色がついている!? 色指定なんて成功した人はいないはず……。それに見た目も、現存の魔生機甲とまったく違う……」
「…………」
「デュアルコアシステム? 搭乗者が二人?? 変形? 飛行? な、なんなのだ、これは……」
「…………」
「――って、おい! そこのすっとぼけてるお前!」
ずっと、無表情を決めていた世代は、彼女に睨まれた。
「……お前?」
だが、彼はあくまですっとぼけるため、自分以外の誰かが呼ばれたかのように周囲を見まわしてみせる。
「だから、お前だ! もしかして、すでに裏家業の魔生機甲設計者と合流したのか!? いったい、これを書いた魔生機甲設計者って何者だ!? どこにいる!? こんな詳細な技術と今までにない発想、それを活性化できるイメージ能力……こんなことができるなんて信じられん。さらになんだ、この素材! 聞いたこともない素材で――なっ、なんだ!?」
勢いよく流れる滝のような彼女の言葉を遮って、唐突にバシュッというような響く音が2つ響いた。
それは北の小高い丘の上にできた、巨大な2つの影が発した音。
影はそのまま上空を飛来し、世代と彼女の上に覆いかぶさる。
「――ちょっと!?」
「くっ!」
世代と彼女は、慌てて地を蹴った。
2人は転びそうになりながらも、その影から少しでも離れようとする。
その直後、地面を揺らす激震に、確かな重量感を感じさせる着地音が響く。
突風。
2人は、そろって前のめりに風に巻かれて倒れてしまう。
「いててっ……」
すれた手足の痛みに耐えながらも、うつぶせに倒れていた世代は体を起こした。
そしてふりかえると、そこにはまた新たな2機のロボットが立っている。
(……またカッコ悪いのが来たぞ……)
中世鎧風なのは同じだが、少しだけ全体が鋭角的になっている。
ただし、関節がすごい。
灰色をした球体関節だった。
ぱっと見て、それはきれいな真円を描いた灰色の鉄球に見えた。
それが、各関節をつないでいる。
(な……なんという適当さ……)
どうしてあれで動くのか、世代には不思議で仕方ない。
しかし、そのロボットはしっかりと手足を動かし、世代たちの方に向きなおった。
「ほお~。これは驚いた! あの二人がいないと言うことは、まさか、いちずお嬢様が倒したのか! 自分の魔生機甲設計書を持っていないようだが、魔生機甲もなしでどうやったんだ?」
現れたロボットの1機の胸の部分がバカッと上に開き、そこから一人のひげ面が顔を覗かせた。
「柳生! ……やはり、お前が黒幕だったのか!」
女――いちず――が、憎悪たっぷりに睨みつけるが、柳生と呼ばれたひげ面は涼しい顔を崩さない。
「おいおい。年上にその口の利き方はないだろう? おれはただ、退職金もださない頑固オヤジから退職金をいただいたまでだ」
「なにが退職金だ! お前、適当な仕事をしてクビになっただけじゃないか!」
「なにが適当な仕事だよ。あんな安い給料でおれをこき使った、お前のオヤジのが悪党じゃねえか」
柳生は、高い位置から叩きつけるように怒鳴った。
「ふざけるな! 父は、立派な魔生機甲設計者だったんだ!」
「はいはい。もういいですよ、なんでも。じゃまだから、いちずお嬢さんもここで死んでもらうからさ」
「ふっ……ふざけやがって!」
いちずは、もっていた大剣を柳生に向けるが、まさに蟷螂の斧だった。
相手が乗っているロボットの大きさは、15メートルはあるだろう。
コックピットを見上げるだけでも一苦労だ。
「……ところで、その横のはお嬢様のボーイフレンドかなにかか?」
「そっ、そんなわけあるか! 貴様の仲間じゃないのか!」
「はん? 知らんぞ、そんな小僧……」
「…………」
まるで問い詰めるようないちずの視線を世代は受け取った。
なんとなく察して、世代はコクコクとうなずく。
「さすらいの旅人です」
「……す、すまん。巻きこんだ」
下唇を噛むいちずに謝られても、世代にとってみれば後の祭りでしかなかった。