Act.0053:衝撃的だろう?
和真の魔生機甲は、いちずが予想していた通りの物だった。
和真がパイロット契約をしている工房【篠崎屋】の目玉となる魔生機甲であり、十指に匹敵すると言われている1機。
その名も、【メルヘイター】。
それは、青っぽい金色をした琥珀金の骨格素体でできている。
全体に曲線を描く外骨格は、世代のデザインした【剣蛟】と同じ、金剛鉄が使われているが、その色はかなり濃い藍色になっていた。
頭は少し卵型。
目は横一文字の黒いラインで耳まで届き、耳の代わりに後ろに向けて直角三角形の角が伸びている。
両肩、両肘には、風の魔法を発生させる噴射口があり、剣や槍などは所持していない。
その代り、その手にはナックルガードがつけられており、足の指先にも似たようなパーツがついていた。
完全超接近型の魔生機甲である。
世代が「今までで、もっともまともなデザイン」と称賛するが、確かに他の魔生機甲と違うバランス感がある。
(やはり、強そうだな……)
幼馴染の乗る魔生機甲を遠くで見ながら、いちずは口を引きしめた。
(今までは、和真に勝てるなど考えもしなかったが……)
いちずは、その手にある魔生機甲設計書を見つめる。
(しかし、今は世代も、そして父さんもいる!)
「――設計読込!」
気合の入ったいちずの声で、魔生機甲設計書が浮かび上がり、1ページ目が開く。
そして、一拍おいてからページが次々とめくられていき、25ページまで流される。
「――材質確定!」
最後のページが開かれ、素材の描かれたチェックリストが輝いていく。
「――構築!」
魔生機甲設計書の下に魔法陣が展開し、光が放たれる。
輝きが広がるのとともに、いちずの体と魔生機甲設計書が浮かび上がっていく。
その光は、赤かった。
キラキラと輝き、踊るように広がっていく。
まるで火の粉のように、紅く、朱く、赫く……。
同じ色などひとつもない。
それは、いわば炎色。
まず形を成したのは、足だった。
前方にとがった爪型の指が3本、そして後方に大きめの踵が飛びでている。
その赤い爪は、しっかりと地面をつかんでいるように力強い。
そこから伸びる脚は、ヴァルクよりもスリムだが、決して細くはない。
まるでタイトなスーツパンツのようだが、裾だけが後ろに広がって鋭角的になっている。
膝の部分には、紅いプロテクターがつき、脚全体のアクセントになっていた。
胴の股関節部分は細く尖って、その周りにスカート状の赫い装甲が部分的に付属している。
胸元は女性を思わすスタイルながら、弱々しさを感じさせない。
それは背中についた、ドラゴンを思わす、白銀の大きな翼が生えていたからだった。
いや。違った。
雄々しく広げられたそれは、正確には翼ではなかった。
よく見れば、それは左右8枚ずつのパネルが折り重なるように構成されていた。
一度、最大まで広げられたそれは、次の瞬間には重なってたたまれて格納される。
そして、顔が現れる。
頭の上は、顔のないドラゴンの頭部を模した形態をしている。
その下にスリムなマスクに尖った顎がある。
双眸は、黒く鋭い。
まるで、目の前にいる敵を刺し殺すかのような迫力がある。
ボディ全体は、強い赤味を帯びた金色をしていた。
それを飾るように、赤銅色や深紅などの微妙に違う赤いパーツが所々に使われている。
その赤いパーツの色が金色部分に映りこみ、動く度に表面で赤い模様が蠢いている。
それはまるで、炎を纏っているかのようだった。
完成した魔生機甲は、前腕に小さな盾がついた手で、背中に装備されていた大剣を手にし、前方に構えた。
「ふうぅ……」
浅く腰かけたような半立ち状態のコックピットの中で、いちずは大きく深呼吸をする。
腰や上半身は、魔力で固定されていた。
床には靴のような物がついたペダルがあり、それを常に踏みつけている。
そして正面には魔生機甲設計書の下に小さなモニターといつくかのスイッチ、それに手先を入れる形の穴型コントローラーが存在した。
それ以外、あまり目立ったコントローラーはない。
いちずは思念コントロールが主体のため、世代がこのように設計したのだ。
ただ、今までと大きく違うのは、視界がヴァルクと同じく360度展開されている点だろう。
機材に対するプロジェクションマッピングは行われていないものの、通常の魔生機甲の視認用モニターとは比べ物にならない視界がある。
普通、魔力が使えるパイロット達は、ある程度の視覚情報を魔生機甲の眼から得るため、補助用のモニターは小さくてすんでいた。
ただ、「見る」と意識しないと、魔生機甲の目の視覚は得られない。
しかし、視界を魔生機甲と同期しているときは、コックピット内の様子がわからず、コントロールパネルの操作がしにくいという問題があった。
そのため世代は、なるべく魔生機甲の目に頼らず視界を得るため、360度モニターをこの機体にも採用していた。
最初のうち、いちずはこれになれずにとまどった。
特に近距離の時は、魔生機甲の眼と同期したほうが遠近感がとりやすく戦いやすい。
しかし、慣れてみると、遠距離戦の時は視界が広く取れる上に、照準がつけやすく、火器類のコントロールがしやすいなど、非常に有効だった。
「……ん?」
だから今は360度モニターを見ていたのだが、正面に戦闘中には珍しい【伝話】のマークがでている。
思念でそれをオンにする。
〈その魔生機甲が、あいつがお前のために作ったものなのか?〉
はたして、和真の声が聞こえてきた。
「ああ。名を【炎竜】……【フラム・ドラーク】という」
〈……正直、驚いた。あれから噂には聞いていたんだが、そんな見たこともないデザインがあるなんてな〉
「衝撃的だろう?」
彼女は思わず笑ってしまう。
今の和真の気持ちはよくわかる。
〈そのボディ、ほとんどが神聖黄金銅だろ? いったい、いくらかけたんだ?〉
「世代は金に執着がなくてな。いい魔生機甲を作るためなら、持っている金を全部使ってしまう。生活のことさえ考えないから、困ったものだ」
〈……フン〉
和真のつまらなそうに鼻を鳴らす。
彼には、のろけに聞こえてしまったのだろう。
〈まあ、見た目はすごいけどな。最後は性能。そしてパイロットの腕だ。どうせ、まだ乗り慣れていない機体だろう。せいぜい油断しないことだな〉
「忠告ありがとう。全力で行かせてもらうよ」
そこにけたたましいサイレンが鳴り響いた。
2人の戦いが始まった。




