Act.0035:今、愛を感じました!
豪勢な食事の後、長門は本題を話し始めた。
「世代君。これは年長者からの助言だが、ぜひ魔生機甲設計者協会に登録しなさい」
それは、魔生機甲設計者の権利と保護を行うことが目的の団体だった。
魔生機甲は言うまでもなく、軍事兵器こそが本来の存在価値でもある。
その魔生機甲を運用するのに必要な要素は、3つ。
まずは、もちろん魔生機甲設計書。
これを生みだすのは魔導師たちであり、その技術はすでに確立されている。
ある一定の魔導師ならば、誰でも生みだすことができ、工場のような場所もあって常に生産はされていた。
ただし、素材が高額な上、製作時間がかかるため、1冊の値段は非常に高くなることになる。
それから、その魔生機甲設計書に魔生機甲を描きだす魔生機甲設計者の存在。
魔導師とは別の能力が必要で、強いイメージ力と発想力が必要とされる。
また、それを具現化する意志の力も強くなければならない。
こればかりは、あまりにも抽象的すぎて、技術として確立できていないのが現状なのだ。
そして最後は、魔生機甲を操作するパイロットの存在だ。
パイロットになるには、絶対に魔力が必要となる。
魔生機甲を具現化する構成という儀式の力も、具現化したあとの魔生機甲のエネルギーも、すべて魔力であった。
ただこの世界の人間は、すべて魔力を生まれ持って必ず持っている。
多い少ないはあるものの、世の中の半数近くの人間は、レベル5ぐらいの魔生機甲を最低限なら動かすことができるのだ。
ちなみに、いちずが調べたかぎり、世代には魔力が全くなかった。
つまり、世代は本来、魔生機甲を操作することができないはずなのである。
ともかく、この3つの要素の内、一番難しいのが、魔生機甲設計者だった。
逆に言えば、軍事力としての魔生機甲をそろえるには、いかに優秀な魔生機甲設計者を抱えこむかがキーになってくるのだ。
当然、権力者の中には強引に魔生機甲設計者を引き抜いたり、質が悪いと誘拐したりする者もでてきた。
そこで魔生機甲設計者たちは自分たちの身を守るため、互いに協力し合う組織を作った。
それが協会である。
協会に逆らえば、会員の魔生機甲設計者の協力が一切仰げなくなる上、協力関係にある、魔生機甲設計書製作をしている大手魔導師団体や、よりよい魔生機甲が欲しくて協力するパイロットたちまでも敵に回すことになる。
これは実際、大きな抑止力となり、魔生機甲設計者を狙う事件は激減していた。
もちろん、いちずの父親も協会員だった。
「世代君には才能がある……いや、ありすぎる。そのままでは危険だ」
それは、いちずも同意だった。
有名になればなるほど、世代の力を欲しがる者は多くでてくるだろう。
今のうちに、手を打っておかなければならないとは思っていたところだった。
「わしは、協会の副会長をしている。わしの推薦ならば、何の問題もなく入会できるはずだよ」
好好爺然とした笑顔で、長門が世代に話しかけた。
ところが、世代は怪訝な顔をしている。
「……なぜ、ボクにかまうんですか?」
世代の言葉は、どこか失礼さを含んでいた。
それはたぶん、根本に疑念があったからだ。
だが、いちずも実は、同じ疑問を持っていた。
「後進を育てるのは、老兵、ましてや三大名工と呼ばれた者ならば義務。特に才能がある若者ならば、なおさらだと思っている……」
そうかもしれない、というか、それしかないと、いちずも思っていた。
しかし反面、それにしては肩入れしすぎている気もしていたのだ。
「……というのは、立て前だよ。わしは純粋に見たいんだ」
長門の笑顔の質が変わった。
いちずは上手くその変化を言い表せなかったが、長門の顔が急に子供のように見えていた。
鼻の穴が大きく開き、興奮気味にさえ見える笑顔だ。
「世代君、わしは君が生みだす……君が自由に生みだしていく魔生機甲を見ていきたいのだ! だから、デザインしたら必ずわしにも、いち早く見せて欲しい! それが紹介の条件だよ!」
「……フッ」
世代が、長門を前に初めて破顔した。
今まで無愛想な顔ばかりだったのに、口角をあげて双眸を輝かせ始めた。
「愛ですね……」
ボソッとつぶやいた……かと思うと、世代はバンッと手をテーブルについて立ちあがる。
「今、愛を感じました! あなたのロボットに対する愛を! やっと見つけた! あなたはボクの同志ですね!」
興奮しているのか、世代は「ロボット」という単語を使ったことにも気がつかず、言葉を続ける。
「その愛に偽りは感じられない! そしてロボットを愛する人に悪い人はいない! ええ、そのはずです! ……だから、納得しました!」
そう言うと、世代は背筋をピンッと伸ばしてから、ゆっくりと長門にお辞儀をする。
「協会の件、よろしくお願いいたします」
いち早くミカが反応して立ちあがり、主に従うように頭をさげる。
いちずと双葉も、それにつられるように立ちあがって、長門へ頭をさげた。
「……ふふ……あははは! 本当に面白いな、君は!」
長門は、すっかり上機嫌だった。




