Act.0031:すいません。初心者なんで
魔生機甲同士のバトルは、非常に興奮するものだった。
その迫力で酔うように、世代はすっかりはまっていた。
しかし一方で、戦っている魔生機甲のデザインは、やはり好みではない。
いくつか割とまともなのもあったが、それでもロボットとしては昭和のヒーローロボットのデザインにさえ、負けているものばかりだった。
というか、どれも鎧を着た人形のようなデザインばかりなのだ。
ところが、そんな中に1台だけ世代の目を引くロボット――魔生機甲が現れた。
鎧のような丸い手足が多い中、角張ったデザインの四肢。
尖った顎と、ゴーグルのようなアイデザイン。
膝や肘などの関節を隠す様に、パーツが伸びてスリムさが増している。
そして、ほとんどの魔生機甲がツートンカラーぐらいでしかない中で、青ベースに白いパーツ、さらに赤と黄色のラインが走るというカラフルな彩りが採用されていた。
魔生機甲で色指定は高難易度とされているため、普通は素材の色で調整するらしいが、それもかなり高度な技術がいるらしい。
さらに武装も、他と違っていた。
両肩にラウンドシールドを装備し、前腕の外側には砲門らしきパーツがついていたのだ。
シールドや砲門がついている魔生機甲は、実はかなり珍しいのだ。
「あのロボット……魔生機甲、なんか違うね」
世代の言葉で視線を追ったいちずが、少し驚いたような声をだす。
「おお。あれは、十指魔生機甲の1機、【鉄壁の両曜】だ。こんなところに現れるとは珍しいな」
「つーはんず? 通販で手に入るの?」
「ツゥーハンズは、両手。つまり、10本指のこと。有名な10機の魔生機甲のうちの1機ということだ。十指は、複雑さからコピー不可能と言われていて、オリジナルモデルが1機ずつしかない」
「ふーん。ネーミングセンスもずいぶんと違うんだね」
「名前は、本当に魔生機甲設計者たちが自分たちのセンスでつけるからな。法則もなくバラバラなのだ」
「……で、あの鉄壁の何とかは、レベルいくつなの?」
「確か30のはず……」
「35だよ」
いちずの説明を少し嗄れた声が訂正してくる。
二人がふりむくと、そこには少しだけ腰が曲がった老年の男性が立っていた。
真っ白な髪に同じく白い口ひげ、顔には多くの皺が走り、70代ぐらいに見える。
だが、歩みはヨロヨロとしたりしていない。
しっかりとした足取りで、2人に近づいてくる。
「それから、鉄壁のなんとかではなく、【鉄壁の両曜】。両方の『両』に、曜日の『曜』で、太陽と月を意味する。あの両肩のシールドからのイメージだよ」
「……もしかして、おじさんがデザインしたの?」
「こ、こら! 世代!」
少し顔をひきつらせたいちずが、世代の肩をつかんで引きよせる。
「あの人は、魔生機甲設計者三大名工の1人、【長門 大門】先生だ」
「有名人?」
「超有名人!」
「うはははは。こりゃ、まいったな」
世代といちずのやりとりで、長門は自分の後頭部を叩きながら笑いだした。
「有名になってから引退してやると決め、三大名工にまでなってやっと引退を決めたのに、この程度であったか」
「いえ、申し訳ございません。この者は、まだ魔生機甲設計者として初心者でして……」
「ん? その若者は、魔生機甲設計者を目指しているのかい?」
「――あっ!」
いちずは慌てて口を押さえる。
ここに来る前に、騒ぎになるから世代が魔生機甲設計者であることは伏せておこうと決めていたのだ。
その言い出しっぺのいちず自身が、口を滑らしてしまっていた。
「すいません。初心者なんで」
世代が何事もなかったように頭をさげる。
「そうか。まあ、これからこの世界に入ろうというものなら、わしの名前を知っていても損はないよ。たぶん、勉強するのにわしのデザインした初心者向け魔生機甲の模写をやることになるだろうからね」
「ああ。普通はそういうことやるんですか。イヤだなあ……」
「ん? イヤ?」
慌てて横から、いちずが割りこむ。
「――あ、いや、なんでもないです! ところで今回、【鉄壁の両曜】はレベルアップされたんですか?」
いちずは強引に話題を変えようとするが、意外にも長門はそれにのってきた。
「おお。わしの最後の仕事にね。パイロットが頼んできたので機能追加をしてやったんだよ。それで見に来たんだが、ギリギリ間にあってよかったよ」
そう言いながら、長門は前に進んで下を覗く。
そこには、準備中のミカの姿があった。
「さっき、対戦表を見たが、あの者はレベル25だったね。しかも、剣術が得意とか。【鉄壁の両曜】は、本日のレベルキャップ35にあわせたが、これで40ぐらいまでのクラスでは、ほぼ最強に等しい強さ。特に近距離タイプには相性がよい。対戦相手は、かわいそうだが運がなかったな」
「…………」
世代は、黙ってその言葉を聞いていた。
なぜなら、何を言っても無意味だとわかっていたからだ。
対戦ゲームは、戦いの中で本人達が語らえばいいことだ。
「――構成!!」
そして、ミカが唱えた。
光の奔流が渦を巻き、そこに氷かクリスタルをイメージする美しい機体が現れる。
「――なっ!? なっ!? なななな……なんなんだあああぁぁぁ~~~~」
落ちるのではないかと言うほど身を乗りだし、長門は頭上からそれを眺め、そして悲鳴に近い声をあげる。
「こ、こんな精密な美しい……み、見たこともない……この魔生機甲はいったい!?」
白くなった眉毛の下の目玉を落としそうになっている長門の横から、世代は傲りどころか、感情さえないように、平坦な声を発する。
「こいつの名前は、【剣蛟】の【ズワールド・アダラ】」
「ズワールド・アダラ……?」
「ええ。ボクが作った魔生機甲です」




