Act.0024.5:はうっ!
魔生機甲設計書という文化のおかげか、印刷に対する魔法体系もできあがっており、そのために出版物というものも多く出回っていた。
「ファーストキスは……レモン味……」
衝撃の出来事から家に駆け込み、そのまま自分の部屋に閉じこもった双葉は、愛読書の1冊を手にベッドに潜りこんでいた。
それは甘酸っぱい青春を描いた小説だった。
「レモン味……酸っぱいの? でも、香りは石けんの……はうっ!」
衝撃のファーストキスを思いだしてしまいそうになり、双葉はまた枕に顔を埋めた。
「いや、あれは違う! 事故! レモン味しなかったし! ……あ、でも、お風呂前なら蒸れてるから酸っぱい……はうっ!」
また、顔を埋める。
「だめだ……モヤモヤする、モンモンする……どうすればいいの、これ!?」
小説に意識を持っていこうと、横に積んであった別の巻を手にして適当に開く。
――すべてを見られた私は、もう彼に結婚してもらうしかないわ!
小説の中のヒロインが、風呂に入っているところを男性キャラクターに見られて、心を決めるシーンが目に入る。
「逆はないの、逆は! あたしの場合は、見ちゃったの! この場合は、お婿にもらうの!? いや、でも、あたしはすでにもらわれている立場だし……」
――誓いのキス。これで私は、この人のもの……
「え? え? そう言えば、このシーンでもらわれる証でキスしてた……。考えてみれば、これ契約のキス!? でも、あたしの場合は……はうっ!」
また回想してしまい、それを消すために顔を枕に埋める。
「とにかく、結婚してもらわないとダメね。もう明日から押しかけるしかない! ……でも、あれ、その……不潔だったりしないのかな。病気とか平気かな。風呂には入った直後だったけ……はうっ!」
何かのおもちゃのように、双葉は同じ行動をくりかえす。
数人の男を手玉にとりながらも、健全なおつきあい止まりだった双葉には、ハードルの高い出来事であった。
「とりあえず、こういうことに詳しいミチヨに明日、話を聞こう! 聞くことは、えーっと……ファーストキスの味と、こういうことして……いや、あくまで友達――いちずでいいかな――が、こういうことをしちゃったんだけど、衛生的に大丈夫だったのかと、このモンモンした気持ちを収める方法と、あとは男性が喜ぶことでも聞いておけばいいかな……あくまで、いちずが知りたがっているということで!」
翌日。
双葉はとんでもない耳年増にレベルアップを果たした。
そして、世代の押しかけ女房となるため、いちずの家に突撃したのだった。
ちなみに、いちずにあらぬ噂が立つのだが、それはまた別の話である。




