Act.0023:やはり、アレだよな!
「……というわけで、今に至るわけだ」
なんとなく話の流れで、いちずは幼なじみの【神守 双葉】と、その対戦相手であったミカ――【朏・クリスタル】――に、世代と出会った時からのいきさつを話した。
だが、あまりに突飛な話だったためだろうか。
ダイニングテーブルに座った2人は、お茶を片手に黙り込んでしまう。
「異世界から来たって……その話、いちずは信じてるの?」
しばしの沈黙を破ったのは、双葉だった。
当然、予想していた質問だった。
いちずは口に紅茶を一口運んでから、ゆっくりと応える。
「いや。最初は信じられなかった。……が、そういう伝説的な話があることをふと思いだしたんだ」
「拙子も、それは聞いたことがあるな」
ミカが顎に指を当てながら話す。
「なんでも異世界の人間達は、こちらの世界にゲームをやりに来るとかなんとか。まあ、正直なところすべて噂の域を過ぎぬ」
「じゃ、じゃあ……世代は……ご主人様はいつか元の世界に戻っちゃうの!?」
突然、双葉が震えるような声を上げた。
垂れ下がった眦が不安を物語っている。
いちずは、少し驚きながらなだめるように答える。
「それはどうかわからないが、少なくとも世代は帰るための努力どころか、帰りたいそぶりも見せないがな」
「そ、そうなんだぁ……」
ほうっと、深い安堵のため息をつく双葉。
それを見て、いちずは理由に気がつき苦笑してしまう。
「やれやれ。今度は世代に、双葉の惚れっぽい病が発病か?」
これは、いつものことだった。
双葉は昔からすぐ、「○○くん、かっこいい!」と騒いでは、すぐに別の男に興味を移す。
しかも、実際には言うだけで行動に移したこともなく、しかも向こうから迫ってくると逆にふってしまう。
いちずは、双葉がまたそういう遊びを始めたと思ったのだ。
それならば、ここで「遊びじゃないもん!」と意地を張って膨れ顔をするパターンである。
「違うよ、いちず」
だが、いつもの双葉とはちがった。
膨れるどころか、優しく微笑してから静かに言葉を紡ぐ。
「あたしも、ママに言われて初めて気がついたけどね。今度は……本気みたい」
「ふ、双葉……?」
初めて見る幼なじみの表情に、いちずは少し焦ってしまう。
急に落ち着きのある大人びた表情。
彼女の漂わす空気が、いちずの胸を突き刺してくる。
自分でもよくわからない、ふつふつとわいてくる奇妙な焦燥感。
その正体がわからないまま、いちずは平静に「そうか」とだけ返事をする。
「まあ、拙子には関係なきこと。それに、異世界の者だろうと何だろうと構わぬ。わかっていることは、その者がすばらしき魔生機甲設計者だということであり、それがすべて!」
ミカが立ちあがって、深々といちずに金髪ポニーテールをふりながら頭をさげた。
「お頼み申す! 無理は承知の上だが、その者を紹介してくれぬか!」
「朏さん……」
「拙子は、ずっと魔生機甲に不満を持っていた。だが、その不満がなんなのか、具体的にはわからなかったのだ。いや、今もってわかってはおらぬ。ただ……」
そう言って今度は顔を上げ、金の明眸で双葉の顔を見る。
「今日、あの双葉のカットゥという魔生機甲を見て、そして戦ってわかったのだ。あれを作った魔生機甲設計者なら、拙子の不満を吹き飛ばしてくれると!」
そして、また深々と頭をさげた。
一応、今のところは建前上、世代は【あずまや工房】の従業員と言うことになっている。
だから、責任者であるいちずには、本来ならばありがたい話であった。
そこまで自分の工房の魔生機甲設計者に惚れこんでくれるのだから。
しかし、いちずの胸には複雑な思いがあった。
本心を言えば、今はあまり彼を紹介したくないのだ。
少なくとも、自分が依頼した魔生機甲ができるまでは、それだけに集中させたかったのだ。
反面、彼女は【あずまや工房】の新しい顔として、少しでも早く世代を世に送りたかった。
彼の素晴らしい魔生機甲を世に広めたい、自慢したいのだ。
それも可能ならば、彼の作った魔生機甲に自分が乗って勝利することによって宣伝できれば最高だ。
しかし、その一番槍は、双葉にとられてしまった。
そして、やっとできた新しい魔生機甲も、彼女には問題がある。
だがら、自分で宣伝する希望は、しばらく叶いそうにないだろう。
「頭を上げてくれ。ひと仕事後だから、世代の風呂はもう少しかかるぞ」
どこかあきらめたいちずは、別のテーブルに置いておいた魔生機甲設計書をとってくる。
「とりあえず、風呂から出てくるまでの間、これでも見てみるか? 世代の新作。できたてのホヤホヤだ」
「もち! 見せて! 見たい!」
「おお! よいのか! ぜひに頼み申す!」
2人はそろって、いちずから受けとった魔生機甲設計書を開いた。
ページを開いた途端、2人からもれたのは、やはり賞歎だった。
特にミカは、やはりいちずや双葉が、初めて世代のデザインを見た時と同じような反応をしていた。
しかし、それに対して双葉は、デザインを見る目がすぐに細くなり、眉間に皺が寄っていく。
「……いちず。この魔生機甲のモチーフって……もしかして?」
双葉の疑問符に、いちずは待ってましたとばかり噛みつくように返答する。
「――だろう! そうだよな、やはり、アレだよな!」
「うーん。確かに、カットゥも動物がモチーフだったしねぇ……」
「ああ。私が唯一、動物の中で苦手なもの……」
「うん……蛇だね、これ……」
「うわああぁぁ! なんで、よりによって蛇なんだ、世代いぃ~ぃ!!」
◆
その頃、世代は……
「……98、99、ひゃ~くっと!」
……風呂で呑気に数を数えていた。




