Act.0017:あなた……わかってますね!
「ちょっ……ちょっとなに、これ……」
双葉の目は、ページをめくった瞬間から、瞬きをするのを忘れるほど見開きっぱなしだった。
「なにこれっ! なにこれっ!! なにこれっ!!!」
本当に落ちるのではないというほど、クリクリとした目玉がページをなめるように動き回る。
「すごっ……すごい……すごすぎるよぉ~~~」
そして、ページが進むにつれて、頬がゆるんで顔がニヤニヤとてし、鼻息まで荒くなってくる。
「なんて細かい描き込み。細かい設定。カラーリング……しかも、全身銀色なんて見たことない……。こんな精密なデザインが活性化可能なの!?」
高揚感に赤らんだままの双葉に、いちずは笑って返す。
彼女の驚きと疑問は、いちずにもよくわかる。
「問題ないだろう。実際、柳生を倒した時に構築したのは、世代がデザインした、これよりも遙かに複雑なレベル50の魔生機甲だ」
「レ、レベル50ですって!? そんなの、この街でデザインできる魔生機甲設計者って2人? 3人?」
「父が死んだから、あと2人だろうな……」
明らかに、双葉の世代を見る目が豹変した。
さっきまで、胡散臭い男としてしか見ていなかったのが、今では崇敬に近い色に変わっている。
「……あなた、なんなの?」
「パン、おかわり」
「食べて。いくらでも食べなよ!」
双葉は、他人の家のパンが入ったカゴをずいっと勧める。
「でも、本当にすごい……」
さっきから双葉は、魔生機甲設計書をいちずに返さず離さない。
「なんと言っても、この躍動感あふれるデザイン……かっこいい……」
――ピクッ!
今まで無反応だった世代が、体を震わせた。
「しなやかなボディラインだけど、流れるようなラインが丸みと融合している。でも、全体に感じさせるのは、イメージは鋭さ。しかも、未だかつてない尻尾がオシャレ!」
――ピクッ!
「そして猫を思い起こさせるような、どこかかわいらしさがありながらも、野性を忘れない獣の顔……。あたしが今までの魔生機甲に足りないと思っていた、かっこよさがここにあるわ!」
――ガタッ!
勢いよく世代が立ちあがり、顔を双葉に向けた。
その視線は、今まで見たことのない鋭さで、双葉を突き刺している。
「……えっ!? えっ!? えっ!? なっ、なにっ!?」
突然のことで、双葉があからさまにドキマギしはじめる。
いちずも訳がわからず、呆然とその様子を見ているしかできない。
そんな中、ふっと笑ってから、世代が開口する。
「あなた……双葉さんって言いましたよね」
「う、うん。そうだけど……」
――ビシッ!
突然、世代が双葉を指さした。
「あなた……わかってますね!!!!!」
そしてニヤリと笑いながら、妙に気合の入った声が投げられた。
「そう。その魔生機甲【ジルヴァラ・カットゥ】の特徴は、あふれる想いを表した流線型! その中にある躍動感と鋭さ。まさに、双葉さんの指摘通りです! よく気がついてくれました!」
「そ、そりゃあ、気がつきますよ。えー……っと、世代さん?」
「世代でけっこうですよ! ボクのデザインをそこまで正確に指摘してくれる方とは、ぜひお友達になりたいです」
「え? じゃあ、友達になって! あたしのことも、双葉でいいし、敬語もいらないから」
「ありがとう、双葉!」
二人は、固く握手する。
なぜか突然、距離を縮める2人をいちずは呆然として見守った。
「ただ、ひとつ言わせていただければ、尻尾はオシャレのためだけではないよ。18ページ目ぐらいを見て」
「え? …………ああ! 見逃してた! こんな仕掛けがあるなんて……。世代、きみって天才じゃないの!?」
「いやいや。このぐらいボクの世界では普通だよ。むしろ、この世界の魔生機甲がなんていうか、ゴーレムよりで、デザインセンスが画一的というか……」
「そうそう、そうなの! 特にあたし、あのまる見えのボール関節とか嫌いで……」
「おお! この世界の人でも球体関節丸見えに異を唱えてくれるんだ!」
「ああ、やっぱり世代もイヤだった? かっこわるいもんね?」
「そうそう。かっこ悪い。あれはいただけないよね。自由度と可動範囲さえあればいいというものではない」
「わかる、それわかる! ……ああ、こんな魔生機甲に乗ってみたいなぁ。あたしももっとパイロット適正あったらよかったのに」
「え? 双葉は乗れないの?」
「乗れないことはないんだよ。魔力量はけっこうあるから。ただ、思念コントロールがうまくできないんだよね。できることはできるんだけど、細かいのとか、咄嗟の動きとか、切り替えとか……。なんか練習でどうにかなるものじゃなく、適正の問題らしくてさぁ~。パイロットレベル15ぐらいから伸びないんだぁ~」
「へー。そういうのもあるんだ。でも、そうしたら、逆に【カットゥ】とかいいかもしれないよ」
「え? どういうこと?」
「えっと、【カットゥ】は――」
「――ストーップ!!!!!」
2人の間に、いちずが声と共に体も割ってはいった。
「2人で盛りあがっているところ、大変申し訳ないが……世代!」
ギロッと音がするぐらいの勢いで、いちずは世代を睨んだ。
さすがの世代も、後ずさるように怯む。
「きみは私のために、それをデザインしてくれたことを忘れていないか?」
「……あ。すっかり忘れてた」
「…………」
世代は、本当に酷いところがある男だった。




