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Act.0011:日本に決まっているじゃないか

「小僧が……あの魔生機甲(レムロイド)を操っていたのか?」


 ヴァルクが消えて世代(セダイ)が地面にふんわりと降りると、髭面が睨んできた。


「うん。そうだけど?」


 世代(セダイ)は素直にうなずいて、彼の様子をうかがう。

 四角顔が特徴的な三〇代の柳生は、いちずが用意した薄く光る金属のような魔法の拘束具で、腕ごと胴体を縛られていた。


 なんでも魔法に頼るのはどうかと思ったが、確かに便利なことはまちがいない。

 しかも、夢にまで見たヴァルクを具現化してくれたのも魔法なのだ。

 そう考えたら、魔法でも何でも許すしかない。

 そもそも、別に科学にこだわっていたわけでもない。

 どうせ元の世界の科学が巨大ロボットの時代に行くのは、まだまだ先の話だった。

 巨大ロボットが目の前にある。

 彼にとって、それがすべてだ。


「なんでオレを殺さなかった? いや。オレの部下も見逃したな? 先の2人も助けたのか? 情けでもかけたのか?」


 そんな世代(セダイ)のウキウキ気分を無粋な言葉で柳生が台なしにしてくれる。

 世代(セダイ)は、わざとらしいぐらい大きなため息を返す。


「あのねえ……。ボクは、個人的におじさんたちを殺すほどの怨みなんてないよ。ただ、別に知らないおじさんが死んでも気にしないと思うけどね」


「なら、なんだ? 手軽にコックピットを潰さず、強制格納フォース・ストレージ・インを狙った? パイロットのくせに、人殺しはしたくないとかきれい事、言うつもりなのか?」


 自棄になっているのか、それとも元々なのか、柳生は饒舌に質問をしまくっていた。

 その様子を鬱陶しく感じ、世代(セダイ)は辟易しながらも答える。


「そりゃ、まあね。人殺しなんてしたくはないよ。でもさ、たぶんロボット……魔生機甲(レムロイド)で攻撃して殺しちゃったとしても、死体を見なかったら、きっと『殺した』って実感がわかなかったと思うし、『殺されかけたから、しかたないよね』と自己弁護して済ませたと思うんだよ、ボクは」


「……なんだそりゃ。わかんねーやつだな。なら、やっぱりコックピット狙った方が早いじゃねぇーか」


「ああ。それは単に、コックピットを狙いたくなかっただけ」


「……あん?」


「だから、コックピットを壊したくなかったの。コックピットって乗り込み型ロボット……魔生機甲(レムロイド)にとって、すべての機能が集中している心臓部というか、一番大切な場所ってか……もう、言っちゃえば聖域みたいな場所でしょう! そんなところを人間の血で穢すなんて……ボクにはできない!」


「…………」


「…………」


 柳生だけではなく、横で聞いていたいちずまでもが、唖然とした顔で世代(セダイ)の方を見ていた。


「おい。いちず嬢ちゃん。……こいつ、どこで拾ってきたんだ? ってかなんなんだよ、こいつ。若いのに、頭おかしくないか?」


「正直、何者か知らない。ここで遇ったばかりだからな。ただ――」


 そう言って、いちずは手に持った魔生機甲設計書(ビルモア)を掲げる。


「――お前を倒した魔生機甲(レムロイド)をデザインしたのは、まちがいなくこの者だ」


「なっ!? なんだとぉ!? あの精密な魔生機甲(レムロイド)をこんな若造が!?」


「ああ。悔しいが、父よりも遙かに優れた魔生機甲設計者(レムロイドビルダー)らしい……」


「うっ……うそだろ、おい……」


 柳生が目を見開いて世代(セダイ)を睨んでくる。

 だが、なんでそんな目で見られているのか、世代(セダイ)は今ひとつピンとこない。

 確かに、あのノート……魔生機甲設計書(ビルモア)に書いた魔生機甲(レムロイド)【ヴァルク】はよくできたデザインだと自負はしている。

 だが、まだまだ甘いところはあるし、書き足りない部分もある。

 それほど驚愕されるものではないはずだ。


(……だけど、あいつらが乗っていた魔生機甲(レムロイド)を見ると、確かに驚くのかもしれないな)


 そこまで大したものではないと思うが、世代(セダイ)としては確かにあのかっこ悪いロボと一緒にはされたくはない。


「ところで、世代(セダイ)。君はどこに行くつもりだったのだ?」


「……どこ?」


「ああ。どこかに行く途中とかではなかったのか?」


 そう言えばと、世代(セダイ)は思いだす。

 彼はこの世界にいきなり飛ばされてきて、天涯孤独の身になっていたのだ。

 さっきまでヴァルクがあったので、たとえ天涯孤独でもあとは飯と風呂ぐらい入れれば、どうでも良く感じていた。

 だが、ヴァルクを返却しなければならない今、この世界で生きる希望のほとんどを奪われたに等しい。

 彼の手にある魔生機甲設計書(ビルモア)が、今では愛しくてたまらなくなる。

 この愛を手放す……そう考えると、世代(セダイ)は急に不安になってしまった。

 それに、腹が非常に減っているのも、彼の不安を後押しした。

 思わず彼は、低く呻ってしまう。


「私は警務隊を呼んだので、この男を引き渡したら自宅に帰るつもりだ。もし、特に当てがないなら、私の家によってもらえぬか。助けてもらったお礼もしたいし、相談したいこともある」


「……はあ。別にかまいませんけど。飯はだしてもらえますか?」


「無論。そのぐらいの礼はさせてもらうし、泊まる場所も提供しよう」


「それでしたら。……あ、でも、その前にちょっと聞きたいことが」


「なんだ?」


「……ここ日本じゃないですよね?」


「はあ? なにを言っている。日本に決まっているじゃないか」


「日本……なんだ……。じゃあ、今年は何年ですか?」


「ん? なんだ、世代(セダイ)はまさか記憶障害とかではないだろうかな。今年は、第三魔法歴516年だろう」


「……ああ、なるほど。把握しました。そういうパターンですか……」


 怪訝な顔を見せる黒髪のいちずを前に、世代(セダイ)はため息をついた。


(たぶんここ、BMRSバトルマッチロボティックシミュレーターの初期設定原案の世界だわ……)


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