Act.0028:スーパーロボットなのさ!
問題は、いくつかあった。
まず、アラベラを囲んでいる敵の人数が多すぎた。
いくら疾風迅雷の獅子王でも、一瞬で距離を詰めてあれだけの人数を片づけるのはリスクが高すぎる。
それに、問題はその後だ。
アラベラを助けられたとしても、その場から逃げるにはやはり魔生機甲が必要である。
つまり、アラベラの腰のバッグから魔生機甲設計書を取りだし、構築しなくてはならない。
エロ本のフリをしている【魔生機甲設計書秘護膜】の解除は、和真の魔力を流すだけで反応して解除される。
だとしても、間合いをつめ、アラベラの周囲の者たちを倒し、アラベラを助け、バッグを開けて魔生機甲設計書を取りだし、構築する……という、これらのことを目くらましが効いている間に片づけることは不可能である。
だから、獅子王は考えた。
どうすれば、少しでも間合いをつめられるか。
どうすれば、自分の魔生機甲設計書を手にした状態にできるか。
どうすれば、なるべく多くの者たちの注目を集め、目くらましを有効におこなえるか。
その結果が、アラベラを変態にすることだった。
そこに他意がなかったかと言われれば、ないとは言えなかったかもしれない。
しかし、作戦は功を奏していた。
(――よしっ!)
たぶんこの瞬間、広げた魔生機甲設計書の上で起動した目潰しの魔術道具により、眩い光が放たれているはずだ。
しかし、獅子王はすでに目を瞑っているので、瞼ごしの白い光を感じることぐらいしかできない。
その状態で一気にアラベラの気配まで間を詰める。
魔力探知と気配を頼りに、放つ拳と鋭い蹴り。
一瞬で周囲にいた5、6人を打ちのめす。
アラベラを拾いあげて、数歩進む。
エロ本から戻った魔生機甲設計書を正面にかざす。
「――構築!」
魔生機甲設計書から、魔力流が激しく流れだす。
金色の光が渦巻き昇る。
周囲の木々を弾き倒し、光は形を成す。
それは圧倒的な力を具現化した存在の降臨。
「……これが、雷獅子……なんと美しい……」
獅子王の膝に腰かけた状態のアラベラが、ため息と共に嘆ずる声をもらす。
構築途中、そして今またモニターからうかがえる機体を見て感じ入ったのだろう。
全身は、一言で言えば金色だった。
しかし、金色と一言で言い表してしまうことに、誰しもが抵抗を感じるかもしれない。
地色は、まるでいぶしたかのような、少し茶に近い焦がした金色。
そこに曇り1つない金色のラインが、真っ直ぐに多数ひかれている。
そのラインを眩い光が蠢くように走る。
さらにパーツごとに、わずかに異なる複数の金色が使用されていた。
ただの金ぴかの一色とは違い、凹凸や輪郭線がハッキリと浮きでて、平坦にならず立体感を強くイメージづけている。
しかも、薄闇に立っているというのに、はっきりとその形が見て取れる。
それは光を返して輝くだけの金ではなく、自ら仄かに光を放っているため。
受動的ではなく、能動的に輝く導きの光。
「なんてきれ――くっ!」
アラベラが苦悶の表情を浮かべて胸を押さえる。
その体が小刻みに震えていた。
「大丈夫か!?」
「肋骨が何本か……。だが、なんとかな。体は大丈夫だ。しかし――」
アラベラの右手が、獅子王のむき出しの顎を口ごと押さえた。
その勢いで、獅子王が思わず「ムグッ」と声をあげる。
「――心の傷は深いぞ。よくも貴様、この私を変態呼ばわりしてくれたな!」
アラベラの諸目に冷たい炎が浮かびあがる。
さすがの獅子王もその殺気に、身を怯ませる。
が、それは本当に瞬息の間だけであった。
「だが、今はそれどころではない。……あそこだ」
獅子王の顎から手を離したアラベラが、ある岩山の方を指さした。
「あの2人の魔力を感じる。あそこに置いてくれ。このままでは、貴様もまともに操作できまい」
その言葉に、獅子王は黙ってうなずく。
周囲はまだ、突然エロ本の輝きから現れた金色の魔生機甲の姿に呆気にとられて、まるで時が固まったように茫然自失状態だ。
動くならば、今しかない。
「悪いが、少し我慢してくれ」
獅子王は、思念コントロールのために魔力を送る。
雷獅子の少し角張った太股が、適度にひきしまった腰と共に沈みこむ。
人の造形を思わすふくらはぎが前斜めになり、蹄を思わす2本爪のつま先が、グイッと曲がる。
脚の前後左右や腰に付加されたノズルから、魔法の力で風が噴出される。
その段になってようやく事態を把握したのか、周囲が騒ぎ始める。
前後に立っていた、敵の魔生機甲も動きだす。
だが、遅い。
吹き荒れる風が、紙切れでも舞わすように一部の山賊たちを吹き飛ばす。
雷獅子は、流星のごとく光の軌跡を残しながら、月夜の空に跳びあがった。
それはまるで、もうひとつ生まれた月。
その足下へ、フルムーン・ベータの【石鏃】が通り過ぎる。
慌てて放っているのだろうが、それでは当たるはずもない。
一跳躍で、目的の岩山の目の前まで辿りつく。
中空から、真下に放った【風爆】の魔法で森の木々を吹き飛ばす。
脚から風を巻き起こして着地。
とんでもない自然破壊だが、どうせここは戦場になる。
気にしている暇はない。
すぐさま胸元のコックピットのハッチを開いて、アラベラを岩山に移す。
「やはり美しいな……。まるで伝説の魔獣【黄金獅子】のようだ……」
雷獅子の半分ほどの高さがある岩山。
そこに降り立ったアラベラが、痛みに胸を押さえながらも我慢できない様子で感嘆する。
彼女の瞳に映るのは、獅子のイメージからデザインされた頭部。
鬣をモチーフにした頭飾りが後ろに流れ、その下には大きく吼えた獅子の口。
そして口の中には、マスクをしたような魔生機甲の顔が青緑の瞳を輝かせていた。
「――獅子王っ!」
アラベラの警告が耳に刺さった。
だが、もう獅子王は反応していた。
半身を開くように、雷獅子の右腕が背後に振るわれる。
その右手には、前腕側面から迫り出たトンファー。
それが、背後から飛来してきた魔力をともなう石の矢を横殴りに弾きとばす。
轟音の後に、バリッという電撃のスパークがトンファーの周りで踊り回る。
「す、すごい……ど……どうなってんだ、その魔生機甲は!?」
アラベラの言葉に、背中を向けた雷獅子が答える。
「こいつは……雷獅子は、スーパーロボットなのさ!」




