Act.0009:アイ・ハブ・コントロール!
言われてみれば、最初に倒した2機のロボットも、騎士の鎧のような姿をしているのに、剣ひとつ持っていなかった。
そして、目の前のロボットも同じだ。
むろん、銃器系の装備もない。
それともどこかに隠してあるのだろうかと、世代は顔を顰めるようにして敵の様子を観察した。
だが、装備をだすどころか、今度は2機とも両手を前にがさして、また巨大な火の弾を作りだしている。
(うわ……まじ魔法攻撃なのか……)
もちろん、今さら驚くことではないことも重々承知していた。
なにしろ世代自身、魔法で生まれたヴァルクに乗っているぐらいだ。
しかし、まるで何かの必殺技のように、火の弾を放とうとしている目の前のロボットの存在は、なかなか受け入れがたかった。
「……あのかっこ悪いロボ、武器持ってないの?」
あたふたと慌てた様子のいちずに、世代は質問してみた。
その質問内容が突飛だったのか、いちずのアワアワとしていた手の動きがピタッと止まる。
「へ? か、かっこ悪い? ……ああ、目の前のか? 普通は持っていないだろう。実戦はほぼ魔法を使うからな」
「か、偏っているな……」
いくら魔法が使えても、近距離専用の武器は持っておくべきではないのだろうか。
そもそも武器は男のロマンであり、戦闘用ロボには欠かせないオブジェクトである。
そう考えている世代には、目の前のロボットの設計が許せない。
いや。もっと許せないのは、その許せないロボットに、自分の理想のロボットが一方的に攻撃されているという事実だ。
「…………」
世代は、コントロールパネル中央に手を近づけた。
すると、その周辺のプロジェクションマッピングが剥がれて操作系がハッキリと映しだされる。
改めて、コントロールパネルをチェックする。
いちずの席のコントロールパネルは、ゲームの物とかなり違い、開かれた魔生機甲設計書が正面に設置されていた。
しかし、彼の席の周りのコントロールパネルは、ほぼゲームの通りに見える。
黒いパネルの中央にキーボード、横にはタッチセンサーのある液晶パネルが埋め込まれている。
さらに左右には、世代自身が考えた手腕部3Dコントローラーが設置されていた。
それは穴が空いた球体型をしており、そこに手を入れて球体を動かすことで手腕部をコントロールできる。
さらに球体内で動かした指をモーションキャプチャーし、細かい動きまでコントロールできるというものだった。
他にも自分の考えた仕組みが、そこにはすべて再現されている。
世代は確信した。
「このままでは、やられてしまう……すまない」
だから、そんないちずの悲観的な言葉も、世代は少しキツい声で否定する。
「冗談でしょ。ボクのヴァルクは負けないよ!」
世代は、両手を尋常ではない速さで動かし始める。
「コンディション確認……オールグリーン。音声入力、視線入力、イネーブル。ジャイロスコープ、起動。アクティブフェイズドアレイレーダー、起動。探索範囲2,500mに設定。腕部電磁誘導バリア、起動。出力30%。自動防御システム、オートパイロット。可変光帯翼、非展開……」
彼の両手が、キーを叩く、スイッチ類を切り替える、ボリュームコントロールを操作する。
しかし、彼の視線は、常に手元を見ていない。
まるで手とは別の生き物のように、多くのパラメーターが表示される手前のモニター、周辺モニター、さらに空中に浮かんだ空間モニターへと視点が激しく動き回る。
その視線が動く度に、視線入力によりモニターのパラメーターが選択されていく。
「な、なにをやって……」
いちずが不安そうに尋ねるが、そこにまた【火弾】が当たり、激しい振動がわってはいる。
だが、世代は気にもせず、口までもが別の生き物のように独り言と操作を続ける。
「各部武装、アンロック。ブレードビームランチャー、イネーブル。フェザービット、イネーブル。パイルクロー、イネーブル。オートバランサー、右0.12、左0.02補正。推定稼働時間2分45秒……。動力切り替え、シリーズ駆動モード。電力レベル、イエロー。レンジエクステンダー、始動。エネルギー補填開始。モード、デストラクション」
そこにさらに、【火弾】の振動。
ヴァルクの足が一歩、また下がる。
「ああ! もうダメだ!」
いちずが、コントローラーから手を離して頭を抱える。
そんないちずを無視して、世代はニヤリと笑う。
「よし。……アイ・ハブ・コントロール!」
「あうっ! ……あっ、あっ、あぁぁぁぁっんんんんっっっっ!!!」
突如、いちずが苦しそうに悶えだした。
頭ではなく、自分の体を抱きかかえるように身震いを始める。
「だ、大丈夫?」
「はうっ……魔力が……大量の魔力が吸われる……」
「えっ? やばい? やめた方が良いかな?」
「……だ、大丈夫……ただ数分しか保たない……」
「了解。一気に決めるよ」
そう言うと、世代はペダルやスティックなどを巧みに操作し始める。
さらに、手腕部3Dコントローラーに手を入れると、モーションキャプチャーされてヴァルクの手も連動する。
「よし! ……ライト・フェザービット!」
ヴァルクの右肩についていた円盤状のパーツが飛びだす。
それは、いわば自立飛行するドローンのような武器だった。
独自の軌道を描きながら、4本の刃を飛び出させて高速回転し、敵ロボットの脚を粉砕切断して破壊する。
間を置かず、数歩で走りよったヴァルクが、その前のめりに倒れてきたロボットの頭に前腕を向ける。
激しい爆発音とともに、前腕外側に付けられた3本の爪が、瞬間的に飛びだし、そして引っこむ。
爆発したような音と共に、敵の頭は千切れ飛ぶようにしてなくなっていた。
さらにヴァルクは、倒れかかった敵の腕をひねり上げて力づくでねじ切る。
敵は、四肢のうち腕1本を残して失われていた。
そこまで、10秒も必要なかったのだ。
「よし。1体」
「よしって……世代、おっ……おまえはまさか、思念ではなくマニュアル操作しているというのか!?」
息も絶え絶えに訊ねてくるいちずに、世代は当然とうなずく。
「うん。思念コントロールなんてできないし、こっちのが慣れているし。細かいのはコンピューター制御してくれるでしょ。オートバランスとか」
「こんぴゅーたー? オートバランスは、魔法生命体である魔生機甲の本能がやっていることだぞ……」
「…………」
「…………」
「……まあ、いいか」
「――いいのかっ!?」
世代は、自分がこだわらないところには、非常に寛大な対応をする男だった。




