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ボクが魔女っ子しちゃダメですか?  作者: のるん・くりすとふあ
第一章 この世ならざる法則
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4 夢に現を抜かしちゃダメですか?

                  ――◆◇◇――


 少しシャロンちゃんと喋れて心が弾んだ。

 最後に、何か気を悪くすることを言ってしまったかなと落胆した。

 図書室で別れて以降。そのことばかり考えていた。

 それがよくなかったのだろう。

「ただいま~っと」

「あ」

 家に帰ると、妹の緋翠ひすいと出くわしてしまった。

「っ――」

「あ。ひす……」

 呼びかの途中のまま、ボクを無視して部屋に戻ってしまう。

(うう。今日も上手くいかなかった)

 ある時期からか、妹はボクと口を利かなくなってしまった。

(最低限の会話をしてくれているのは、まだいい方なのかどうかは判断が難しいところだけど)

 何がいけなかったのか良く分からないままそうなってしまい、どうしたらいいかよくわからにまま今に至ってしまった。


 同じ家にいるのに。

 いや、同じ家にいるからこそ、なのかも。


 父さんと母さんが帰る前に夕飯の支度をしよう。

 共働きの二人に心配させるのも微妙な話だ。そこまで責任感を感じているわけではないのだけれども。何というか相談するのもボク的に情けないと思ってしまう。年頃という言い訳で心を誤魔化して置こう。

 着替えたりしながら身支度を整え、夕飯の支度に取り掛かる。


 そういえば、シャロンちゃんはどういうのが好みなんだろう。

(……ん!これは話題としてはいいのでは)

 ちょっと浮かれてしまったのがいけなかった。

 フライパンで炒めたものが焦げていた。

「あ゛!!」

 それと同時に、

 ドタタタタタタ!

「焦げ臭い!」

 そういうなり妹はバタバタ周りの部屋の窓を開け始めた。

「はぁ~」

 ちょっと自分に自己嫌悪。


                  ――◇◆◇――


「リード。ただいま」

「おお我が天使。おかえり」

 借りたマンションの一室。そこに帰ると細身の長身の男、リードがいる。彼は大人の男性だからスーツ姿でいるのは分かる。分かるんだけれども。

「ねえ?リード。スーツ以外持っていないの?あと部屋の中で帽子くらい外しなさいよ。鬱陶しいわ。あと、サングラスも」

 私が今日まで行動していた限り、これ以外の格好を見たことがない。ひょっとして今までずっと同じ格好なのかな。だったら嫌だな。ううん。無理。

「おいおい。我が天使。男が仕事をするといったらスーツ意外にありえないだろう。だったら帽子を外す訳にもいかないな」

 彼の変な拘りは今に始まったわけじゃないけれども。尤もらしいことを言っているけれども、スーツを着だしたのはここに来てからだし。帽子とサングラスもまた然り。

「それで我が天使。学園はどうだったかな?話せるくらいの友人は出来たかどうかは………まあ聞かないであげよう」

「その変な呼び方やめて。あと、できたわ」

 素気無く返すように言うと、一拍置いてリードがびっくりした表情でこちらを見つめ返す。

「何だって!?お世辞にもとっつきにくくて無愛想な我が天使に、友達と?」

 信じられないと言った表情で勢い良くこちらを見返す。

 別に嘘はついてはいないわ。うん。それにしても……。

「本当にお世辞ではないわね」

 彼の言ったことは間違ってはいないけれども。言われると面白くはない。

「どんな子なんだい?いや?人間かね?ああ、そうだ。学園に何故か住み着いている野良猫とかいるからね。なるほど。動物相手に友達と言うのも、かわいらしいものじゃないか」

「……ちゃんとした人間よ。そんで、男の子と女の子」

「はあああああああ!?」

 リードが本気で驚いている。相変わらず失礼ね。

「……はあ!?人間で?しかも二人も?しかもしかも異性も?我が天使、どうした?本気でどうした!?社交性なんてものを何処かに置き忘れて来た君がだよ……ああ、そうだった。俺としたことが忘れていたよ。君は、見た目だけは綺麗だからね。それで寄ってきたんだな。ああ、大げさな表現をして悪かったから、そう怖い顔をしながら椅子を持ち上げないでおくれ我が天使よ。そんで、どんな子たちなんだい?」

 面白くは無いけれど、椅子を壊すのは勿体無いので仕方なしに降ろす。

「女の子の方はシンドウさんで、眼鏡で真面目そうな子。男の子の方はミシキくんっていうの。きれいで、そんで凄くかわいい子」

「……待て。女の子の方は分かったが、男子の方は感想がおかしくないかい?」

 イメージが全く掴めない顔のリード。確かに。本当にそんな子がいるとは私だって思わなかったもの。行く前には何とも思わなかったが、学園というのは私にとっては思ったより刺激があるところのようだ。明日はどうしようかと考えてしまう。ただ、次の一言を聞いた瞬間に私の甘い考えは消える。

「そんでどうだった?」

 仕事の表情に切り替わった彼。唐突に切り替わるのはいつものこと。

 だから、私もいつも通りに答える。

「学園の方には適格者になりそうな子はいないわ」

「おいおい。このあたりで候補といったらあの学園だろう?結構骨を折って行かせたのに、それが見当たらないって」

「これが故障していなければだけど。ほら見て、学園の中で見ていたけれどもこのまんまだったわ」

 見た方が早いといわんばかりに、魔法素養者をカウントする魔術装置をリードに見せる。

「一人のままか」

 そう。私自身しかカウントしていないのだ。

「これは正直予想していなかった。魔法は女性のみが扱えるものだから、人数が多くて手こずることは考えていたが……いないとは」

 魔法素養者の中からあいつに合いそうな適格者を探し出し、それを見張っていればいいと思っていた。

「私もリードと一緒よ。全体の半数にはいなくとも、女の子は結構いるのによ?」

 魔法は魔力を溜められないと扱えない。

 魔法を扱えるものは女と決まっている。何故なら女の肉体は子を宿すことができる。

 命を宿す為の器の役割を強く持つ。故に『溜める』という行為には最も適していると言われている。

 学園にはいないというの?だったら、

「欠席している子の中にいるのかしら」

 これも探知範囲がそんなに広くはない。居ても範囲から外れていたんだろう。

「そうか。それは君にお願いしよう。もし、人手が必要なら手を貸そう」

「そっちは私だけで対処できるから、あなたはあなたの仕事を続けて。それより気になることがあったの」

 私は授業のこと、図書室であった事を話した。

「それは良いことなのか悪いことなのか微妙なところだな。候補者絞りが振り出しか。魔法が一般的には認識されていない……か」

 私たちにとっては不可思議すぎることだった。魔力自体はこの世界に在るのに。変な感じだ。

「そうね。私たちぐらいの年齢が通うところでその教育自体が無かったわ。ただ、書物というか、娯楽のような本にはそういうのはあったけれども……」

「実際には存在しないものという扱いか」

 拳を顎にあてがい、思案しだす。何やら考えているようだが、私の話からは手がかりが見出せなかった感じである。私も手応えがなかった感じだったし。

「リードの方はどう?」

「こっちも曖昧だが、まだアレはこの町を出ていないのは分かる」

「本当に?」

 少し情報を疑い始める。私以外に全く反応しない装置。これは出だしで失敗しているんじゃないかと。

 リードはなんとも言えないような表情をして、私に何かを渡す。

「これを見てくれ」

「……マーカーが大きいわね」

 あいつの居場所を指す記号なのが、大きく表示されている。大きくというか、ここら一体を塗りつぶす感じ。ざっくりしすぎて困る。

「そ。出ていないのは分かるんだが、ここは俺たちのいるところとは違うところ。ここまで絞るのが限界のようだ」

 納得はしたが、おもしろくないといった眼でリードを見る。

 彼は私の態度に気にした感じも無く話を続ける。

「そして、適格者はいる。この町にな。ただ、魔法が無いことになっている世界だからな。ひょっとしたらアイツもわからないのかもしれない」

「どういうこと?」

「こう、なんだ。適格者が魔法自体を認識していなければ、適格者にはならないんじゃないかと」

「何それ?」

 本当に変な話だ。魔法の素養があるから適格者じゃないの?矛盾している。

「ああ、悪い。馬鹿な話だったな。あんまりにも成果が少なくてな」

 彼自身もおかしなことを言った自覚はあるらしい。

 時間が全く無いわけでは無いのだけれども、やっぱり焦ってしまう。

「どうする。今日仕掛ける?」

「いんや。やめておこう。焦るのは分かるが、まだ楔すら打ち終えていないんだ。逃げられてしまったら振り出しに戻ってしまう」

「でも」

「今の状況はそれほど悪くない。相手も余裕が無いからここに留まっているんだ。ならば、定石通りに確実な手段を取っていこう」

 理性的に私を諭す。確かにリードの言う通りだわ。はあ……こういうところは敵わない。自分の浅はかさに落胆する。

「わかったわ。それと、ありがとう」

「なんの。そのために俺がいるんだ我が天使……なあ?」

 次に告げる彼の提案に、私は驚く。

「さっき言っていた彼ないし彼女にでも、この町の案内も頼んでみては」

「えええ!?」

「……凄い驚きようだね我が天使」

 心底驚いたという表情で、私を見つめる。

「な!何でよ」

「住んでいる人間だからこそわかることもある」

「あなたさっき言ったことはどうしたのよ。それこそあなたの得意分野じゃない」

 飽きれた感じで返すと、なんてことは無いって風で返してくる。

「君自身も把握しといた方がいいのと、君でしか気づかないこともある。いざ事が起こったときは特に、自分が体験したものが強みとなる」

 その辺りは気にはなるにはなるし、間違って無くはないけれども。

「急にそんなこと言われても……」

「そんなに難しいことかい?二人の振る舞いを察するに、君に対して友愛、もしくは好意的な感じではないか」

「好意!?」

 もの凄い勢いで、リードの方を見る。

「先程から君は、様々な表情を見せてくれるね」

 驚きが混じったような困った表情をして彼は言う。

「ああ。まあ、難しいのであれば気にしなくてもいい。さて、それでは休むとしよう」

 君ももう寝るといい。と言ってあっさり自分の部屋に戻っていくリード。

 ただ、私はさっきまでの会話。

「誘うって……う~~~~」

 誘えっていった後に、気にしなくていいとか、そう言うのだったら初めから言わないでよ!


                  ――<◆>――


――やぁ。魔法って知っているかな?――

 誰だろうボクに話しかけてくるのは?

 暗闇の中におぼろげに見えたのは、足を組んで椅子に座っている少女だろうか。

 頭がぼやけていて、彼女を含めて見えているものが酷く曖昧。

 そんな中、不自然なほどに声だけは、はっきりと聞こえる。

――誰も彼もがありえないと言い。存在しないものとされている埒外の法則――

――いくら願おうが求めようが、決して応えてくれない深淵の領域――

――魔法――

 顔ははっきり見えないが、彼女はボクがどんな状況かは知っている感じがする。

 ここはどこだろう?とか。質問の意味を咀嚼するよりも、

 色白の綺麗な顔立ちで、薄い笑みを浮かべて再度ボクに向かって囁きかけてきた。

――どうしたのかな?――

 顔こそはっきり見えないが、気にかけている感じだ。薄い笑みでも浮かべるようにして。

 不思議な格好をした彼女。

 それと歓迎でもするような仕草で、

――キミとの出会いは喜ばしいことだよ――

――いまここでキミとボクがこうやって出会えるのはありえないことなんだ――

 両の手の甲に首を乗せてかしげる。


――キミは眠っているとき夢を見るだろう?――

――あれは記憶の整理がほとんどだ――

――でも、全く見に覚えの無い情景や、体験――

――あれは本当にキミが経験したこと?――

――ただ憶えていないってことで片付けちゃっていいの?――

――そんなわけ無い――


――アレはね。別世界のキミなんだ――


 変なことを言われたので、変な顔をしてしまう。

――変な顔しているね――

――良く聞くよね平行世界って。お話の題材であるよね――

――ボクとキミは本来交じり合うことはないんだ――

――だからこその平行――


――ずっと一定の距離感で離れることは無いけど、決して交差することは無い――

――二つの平行な棒をその視点からみたら決して交わらない――

 こんな風にね、といったニュアンスを込められた仕草で二つの棒が唐突に現れる。

――じゃあ、視点を変えて真横から見てごらん――

 二本の棒を中心として、ボクと彼女の床がスライドするように円を描くように動き出す。

 棒同士の距離は依然として変わらない。

 ただ移動しているボクからの視点には、だんだんと近づいているように見えていて、

――ほら、ピッタリと重なり合い一本になる――

 一つの棒のように見えるようになった。

――そして、その瞬間が今なんだ――


――まあ、棒で例えるのは簡単だけどね――

 そう言って、肩を竦める。

――実際にできるのは稀有なことだ――

 彼女は立ち上がりこちらに歩みだす。

 どういう訳か、自分も立ち上がって彼女と鏡合わせの様に歩み出す。

 二本の棒はいつの間にか消え去り、二人の歩みを阻害するものは一つも無い。

 距離が近づいてきて目の前まで来る。

――そして、ボクはね別世界の(ザザッ)なんだ――

 こんなに間近なのに彼女の顔が影で隠れて分からない。口元だけは変わらずに、薄い笑みを浮かべたままで。

 お互いにそこまできても歩みやめずに、重なり合った。

 自分の身体と意識が溶け合っていく中、やっとボクは気づいた。

 ああ。そうか、これは夢なのだと。


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