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ボクが魔女っ子しちゃダメですか?  作者: のるん・くりすとふあ
第一章 この世ならざる法則
2/6

1 これがボクの教室事情じゃダメですか?

                  ――◆――


 夏の暑さが引き始め、秋の装いを始めた9月の中旬。

 いつもの時間とはやや遅れ気味に教室に到着する。

 ここは天原学園中等部。その2-2の教室の扉を、ボクこと、見識瑠璃みしきるりが開ける。

 

 あれ?少し騒がしい。

 何かあるのかな?

 それともう一つ。

 何がとは言えないけれども、教室の中に何か違和感が。

 ホームルームを始める前の教室が騒がしいのは当たり前だけれども、それに加えてなんていうのかな。雰囲気が浮き足立っている。そんな感じがする。誰かに聞いてみよう。


「おはよう三津屋みつやさん。今日何かあったっけ?」

「あ、るりちゃんだーおっはよー。今日ね今日ね凄いんだよ。何が凄いって、超凄いの。盆と正月が一緒に来たくらいでね。そういば、かがみ餅って何でみかん乗っているんだろうね。ちょこんと乗ってて、かわいいよね。かわいいといえば昨日ね……」

「うう……ちゃん付けはやめてって言っているのに~」


 元気が良くて、おしゃべり好きの三津屋さん。頭のてっぺんをシュシュで結んだお下げを、ブンブン振り回すほどに一生懸命伝えてくる。ただ相変わらず何が言いたいのかわからないし、違う話になっている。困ったので隣にいる眼鏡をかけた女の子、新藤しんどうさんの方を見ることにした。気づいた彼女は、短めに切り揃えた髪を軽く揺らすように頷いて、


「三津屋さん。見識君の質問に答えていないですよ」

 穏やかな口調で話題を戻します。

「あ。やえっち、そだっけ?ごめんごめーんえっとね」

「うんうん……わきゃ!?」


 頷いて話の先を促そうとしたら、後ろから誰かに抱き付かれた。

 振り返ろうとしたけれども、しっかり腕を回されて身動きが取れない。


「るっりぃーー!おっはよーう。ふおおおお!今日もいい匂いだね。くんかくんか」

「ちょっちょっと!樫枝かしえださん!?頭の匂い嗅がないでーーーーっ」


 ボクよりも背が高い樫枝さんが抱きついてきた。


「毎回不思議なんだ。そこいらの薬局のてきとーなシャンプーしか使っていないはずなのに、癖になるこの匂い。くんかくんか……これはもしや恋!?」


 頬に手を当てて恥らう仕草をする彼女。くせ毛のショートの髪が揺れ、そこから覗く瞳はしっかりと相手を見ている。


(うう……そんな真っ直ぐに見つめられると直視できない)


 演技だって分かっていても照れてしまう。でも、これがばれるのは悔しいので顔を背ける。


「るりちゃん顔が赤いにゃ~」


 しかし、三津屋さんに回りこまれてしまった。


「乙女殺しのカッシーアイズに照れてしまうなんて、るりちゃん」


 ガシっと両肩を掴まれて三津屋さんと強制的に向き合う。

 彼女にとっては珍しく深刻な表情でボクに告げる。


「君はやっぱり乙女なんだねえぇ~」

「なんでだよーー!!」


 そんな残念過ぎるお知らせにボクは絶叫する。


「大体あんな風に見つめられたら、照れちゃうに決まっているだろ!ていうか三津屋さんやっぱりってどういうこ……むが」


 樫枝さんが更に抱きしめてきて、言葉が詰まる。


「なんだー?私の視線に照れてしまったのか?おおう。かわいいかわいい。さ。お姉さんのお嫁さんになろうな☆」

「ボクは男だって!お嫁さんになるわけないんだから!!」

「ま、お嫁さんうんぬんはまた今度にして。次もお願いできないか……な?」

「…………」


 とりあえず目をそらす。彼女の瞳は一種の魔眼だ。だから、お願いモードの彼女に視線を合わせてはいけない。


「じゃあ。やっぱり、この前行った喫茶店のあの子に……」

「かかかか樫枝さん!?」

「ごめんごめん。できれば、見識が自分からやりたいって思いながら来てくれるのも本音なんだよ」


 少し寂しそうな笑みを浮かべ、ボクを離す。この年でこれを、演技でこなせるのだったら、ほとんどの男は彼女には太刀打ちできないだろう。


「あれれ~~?どうしたのー。かっしー振られちゃった」


 一通り見ていた三津屋さんがケラケラ笑っている。


「そうなんだよ~慰めておくれよ~私のみっつん~……じゃ見識。やりたくなったら声かけてよ」


 おどけたと思ったら、いきなりかっこよくウィンクまで贈ってくれる。


(うう……なんか居たたまれない)


 結局教室の話題を聞くより、恥ずかしさの方が上回ってしまった。新藤さんが申し訳なさそうな困った笑みをこっそりボクに向けた。



「まったくもう」


 ホームルームが始まりそうなので席に着く。


「おいおい。不機嫌な顔は似合わないぜ。お・ひ・め・さ・ま」


 ニッ!と無駄に好青年然とした笑みを浮かべた男子こと、月岡つきおかがこっちを見る。

 机に肘を置き、前腕を立てた手の甲に頬を乗せてボクは言い返す。


「その姫っていうのやめてくれ」


 彼の好青年としたスマイルを直視したくないので視線だけは外して。


「悪い悪い。いつも思っているけど、お前のこのサイドのくるりんとしたところかわいいな」


 人差し指で、癖がついたところをなぞられる。なんか屈辱だ。


「あと、見識はあいつらと仲いいよなー。樫枝、三津屋、新藤。どんな繋がりだ」


 ボクのおもしろくないって気持ちを隠しもしない表情に対し、そう言ってきた。


「その今、姫、姫、言ってからかっていたのだよ」

「つーとあの今年の部活紹介でやった劇……えっと……『雪原のアナスタシアたち』だ」

「ああ、覚えていたんだ」

「ふふんっ!」


 意外と覚えていて軽く驚いたけれども、「どうだオイラ凄いやろ!」と言わんばかりに得意気にならなくても。


「樫枝さんに、ボクが役にぴったし合うからっていうんで頼まれたんだ」


 少し前に流行っていた映画をアレンジしたもの。通称『雪アナ』。雪と寒さで覆われた都が舞台。数年前に失踪したアナスタシア姫だったが、ある年に帰ってきた。それも12人も。全員、自分こそがアナスタシア姫と言い張り、王位を巡って争い合うお話。王家のドロドロした裏側での陰謀劇が始まるのかと思いきや。それぞれの姫が得意な武器と奥義を活かすバトルシーンや必殺技が炸裂したりして、爽快感の方が勝っていた。


「ふ~ん。よく引き受けたな?」

「ま、まあ。本当に困っていたみたいだからね。クラスメイトだし」


 まさかボクがいるときに、彼女があの喫茶店を訪れただなんて。

 いろいろうやむやにしたけど、あれはバレてはいないはず……だよね。


「そうか」


 納得はしたが、腑に落ちないって顔をする。


「ま。そんなところだよ。あとは、三津屋さんと新藤さんは樫枝さんと仲いいから」

「なるほどね~。そういやお前。動きよかったよな槍を使ってたアナスタシア」


 出された衣装が本当に良くできていて、これで滑ったら不味いと思い頑張ってしまった。それが受けてしまい姫という男のボクには不名誉なあだ名がついてしまった。


「ま。台詞は結構噛んでたけど」

「むーーーー!」

「おいおい、下から見上げるように睨むなって、その……ドキドキしちゃうだろ」

「どういう意味だよ!?」


 ちょっと照れた感じで、顔を逸らすな!うう――っ、またからかわれた。それと、変なリアクションすんな!っと。じゃなくて、聞くことがあったんだ。


「月岡」

「なんだ?」

「教室が騒がしいのは何で?」

「ああ。転入生がくるらしい」

「へ?本当なの?なんで月岡知っているの?」

「だってさ、ほらあそこ。新藤の前に新しい席が増えてるだろ?」

「あ」


 違和感の正体はコレか。窓際の席が一つ増えている。


「あいつ面倒見がよさそうだからあの辺に配置したのかと。ほら仮に三津屋の近くだと……」

「ああ」


 悪い子ではないけれども、いきなり三津屋さんのペースはなかなかにハードルが高いかも。


「そうか。それにしてもどんな子が来るんだろう?」

「何だ?かわいい女の子でも来ることでも期待しているのか?うりうり」

「ちょ……指でほっぺたツンツンしないで」

「あ……お前のほっぺた凄くさわり心地がいい……ほっふぅ」

「そのちょっとトキメキましたって顔やめて。男にそんな目で見られるの凄く嫌」

「わりぃわりぃ。ま安心しろって。大丈夫だ。お前より可愛い子はそうそう来ないって☆」

「だからそういうのやめてくれないかなぁあああ!?」


 視線を感じて周囲を見ると、三津屋さんたちがこっちを見てニヤニヤしている!?

 やめて。そのニヤニヤやめて!

 何かはわからないけれども、君らの求めているものと違うから!

 絶対に違うから!


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