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プロローグ

―― 今、生きている世界が嫌いだった



父親は元上流階級の人間だったが、野心家で

本家乗っ取りを仕掛けて絶縁されたらしい。

そのくせプライドだけは高く、毎日毎日

「何故そんな事も出来ない!」

「俺の言うことだけを聞け!それが出来ないならお前はゴミだ!」

「お前は上の地位に戻るための道具に過ぎん。」

などと喚いていた。


母親はそんな父に政略結婚させられたせいで俺達のことを

汚らわしいものでも扱うかのような接し方だった。

少なくとも抱きしめられたり優しい言葉をかけられた記憶はないし

笑顔と言うのも見たことはない。


小さい頃はそんな事も分からずに怒鳴られ、罵倒され、叩かれる度に

"自分が悪いのだ。自分がもっと頑張らないのが駄目なんだ。"

と思い続けていた。


そんな自分には兄がいた。

兄はまるで物語の主人公のように何でも出来た。

成績優秀、スポーツ万能、容姿だって一応は上流階級だった

両親の遺伝子を受け継いで整った顔立ちをしていた。


そうすると周りが囃し立てる。

「兄は凄いのに弟は……」

「なんで兄弟でこうも違うの?」

わざと聞こえるように耳障りな声が飛び交う。


すると兄が周りに言う。

「俺の弟を馬鹿にしてんじゃねぇ!」

すると兄が自分に言う。

「誰がなんと言おうとお前はお前だ。真っ直ぐ育てばいい。」

出来た人間だった。


そんな兄だからこそ、俺は……

俺は死ぬほど嫌いだった。


守られるほど卑屈になっていった。

慰められるほど屈辱を感じていた。

笑いかけられるほど…死ねばいいのにと思っていた。


だから自分でも信じられなかった。

兄を庇って死ぬなんて。




ある寒い日の事、買い物帰りに兄と偶然会って一緒に帰ろうとすると

一人の女性が話しかけてきた。

「あの、この間の返事……」

「ごめん。今はちょっと付き合うとか考えられないんだ。」


たったそれだけだったが、まぁ告白されたんだろうとすぐ分かった。

そして振られたと理解した後に


「どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?どうして?

どうして?どうして?どうして?どうして?」


ずっとそれだけを繰り返す女性に寒気を感じて逃げようとした瞬間

コートから刃物を取り出すのが見えた。

気付いたときには兄を突き飛ばしていた。


それからはよく覚えていない。

ただ凄く騒がしくなって泣き出しそうな兄の顔が見えたこと。

病院に着いて医者や看護師が何か言っていたこと。

両親が来たこと


それから……

「よくやった次哉(つぐや)、やれば出来るじゃないか。

お前が(はじめ)を死んで守ったおかげで九条家のお偉方から

話をする場を設けたいと言われたぞ!

子供に罪はなく善い行いをしたお前を一族として弔ってやりたいと。

よく分からんし何でもいいがチャンスが舞い込んだんだ!

それに子供も優秀な方が残っていれば問題ないしな。

だから安心して死んでいいぞ。」


やけにはっきり聞こえるその言葉に俺は

ほんの少しだけ悲しくなったのに驚いた。

まだ自分に家族を思う気持ちがあったのかと。



そして俺は家族にも世界にも完全に未練がなくなった――

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