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第一話 出会い 0-1

「失礼いたします…、斑さまはいらっしゃいますでしょうか…」


扉がゆっくりと開かれると同時に、老人のような声が聞こえてきた。どうやら依頼主らしい。


「ああ、入ってくれてかまわない」

「ありがとうございま…、――――ひっっ、に、人間!!?」


 その老人は、求目真を見ると泡を食ったような顔をして後ずさった。また、真も老人の姿を見て腰を抜かしていた。


「ひえっ、だ、だ、ダルマが立って歩いてる~~~~~~っっ!!」


 そう、その老人は形は人間だが見た目が達磨だったのだ。全身が赤く、顔の真ん中だけが白粉を塗ったかのように真っ白で、片目だけ目が描かれていなかった。


「まっ、斑さま!!人間の小娘が、なぜこのようなところに!」

「ああ。どうやら迷い込んできたらしいんだ。現実世界では臨死状態な為、此方では閻魔様のお力が無いと手の施しようが無かったから、仕方なく俺の探偵事務所で暫く置いておくことにしたんだよ」

「なっ…、なんという事だ…っ」


達磨の老人は身体を震わせる。無理もない。このカラクリ町では人間を嫌う妖怪も少ないといわれている。その大半が人間に殺され、怨みや妬み、未練などが理由で魂が妖怪になったものが多い者もいれば、人間に捨てれた付喪神もいるのだ。この達磨の老人も、人間に捨てられた付喪神であることから、斑は申し訳無く思っていた。


 「すまないが、暫く我慢してくれ。人間が苦手なのはお前も――――」

 「なんてお可哀想に!!」

 「……は?」


 人間を嫌うかと思っていた達磨の老人が突然、真の方へ向かい自らの手で、真の両手を包んだ。


「お嬢さん、お名前はなんて言うんだいっ!?」

「えっ、ええ!?も、求目真です…」

「真かぁ、とても良い名だ!さっきは驚かせてすまないね」

「いっ、いえ…、お気になさらず…」

「私は見ての通り、達磨の付喪神だよ。真のように、名は無いが「ダル爺」とでも呼んでおくれ」


 二人の様子を見ていた斑が、コホンと咳払いをする。「そうだったな、ダル爺は根っこからの世話焼きだったな」と苦笑いする。「ああ、まるで孫娘が出来たみたいだよ」と嬉しそうにするダル爺に、斑は本題に入ろうか、と話を始めた。


  ****


「それで、依頼は?」

「ああ、実は探している子がいるんだよ」

「探している子?」

「捜索だな。行方不明者か何かかい」

「ああ、私の友人――――筆の付喪神のヒツ子を探して欲しいんだ」


 ダル爺の話によれば、そのヒツ子さんはダル爺の片目を描いた筆の付喪神。まだ彼が付喪神になって日が浅いとき、ヒツ子さんが付喪神になったとの知らせを受けて向かったところ、その筆は長い黒髪の少女の姿をしていたことから、ダル爺は「ヒツ子」と名前をつけたのだという。そしてヒツ子さんとダル爺はしばらくの間、カラクリ町にある長屋で暮らしていた。


「あの子は白目になった私に再び、目をくれたんだ。『お互い朽ちるときまで共にいよう』…と言ってくれたんだ」

「……なのに居なくなった?」


斑の言葉に、ダル爺はコクリと頷いた。ある日、いくら待ってもヒツ子は寝室から出てこなかった。不振に思ったダル爺は、ヒツ子さんの寝室を覗いてみた。すると、あたり一面に墨汁が飛び散っていたり、壁に筆で走り書きしたような跡があった。


 ――――しかし、寝室にヒツ子さんの姿はなかった。


「あれから、しばし辺りを歩いて探してみました。ヒツ子の行きそうな場所も全て。しかし、この広いカラクリ町ですゆえ、この老いぼれにはとてもとても…」

「そうだったんですか…。ダル爺さん、元気出してください、きっと見つかりますよ」

「ありがとう、真…。お前は優しい人間だね」

「それで捜索の依頼という訳か…」


 うーむ…、と斑は言いながら頭を掻く。それに「どうしたんですか?」と真が尋ねる。


「もしかしたら、そのヒツ子というやつは誰かに襲われた可能性がある」

「襲われた?」

「ヒツ子さんの部屋には墨汁が散らばり、壁にはいくつか走り書きがあったと話していたな?それは読めたのか?」

「いえ、何せ文字が重なって読めなくて」

「ヒツ子さんが、残したメッセージということなんでしょうか…」

「それがあったら犯人の手がかりになるんだが。引っ掛かるのは、何故、彼女が墨汁を持っていたのか。本体である筆で何かしようとしていたのは間違いないが、そこを後ろで襲われたんだろう。これは誘拐事件といってもおかしくはないな」


 そして斑は伸びをしながら立ち上がり、現場に行ってみることを提案した。


「手がかりは現場にあるって言うからな。ダル爺、家の中を拝見しても構わないか?」

「斑さまのお力になれるなら是非とも。家までご案内します」

「いや、道順だけで構わん。ダル爺は危ないから、お六とここで待っていてくれ。もし犯人が居て『本体』を壊されたら、どうしようもないじゃないか」

「ああ、そうですな。お気遣い、感謝します」


『本体』とは、そのままの通り付喪神の命といわれている「本体」で、それが壊れれば、その付喪神はただのガラクタとして存在が消えてしまうのだ。それが今回の依頼の厄介な所だった。


「ヒツ子さんは、ただでさえ一本の筆だ。折れていなければいいのだがな」

「斑さま、どうか…、どうかお願いします。あの子を見つけてやってください。私にはあの子しか居ないのです」

「ああ、わかっている。行くぞ、真」

「…えっ、私も行くんですか!?」

「何を言っているんだ、お前は俺の助手として働くんだよ」

「そ、そうでした…」


 真はがっくりとうな垂れながらも、ダル爺の為だと自分に言い聞かせて外に出かける支度をした。支度といっても彼女の荷物はあまりないので、身だしなみを確認する程度だ。


「真、ちょっといいか?」

「な、何でしょうかコックリさん」

「設定があるんだ、お前の」

「設定?」

「いくら見た目をごまかしても、お前は人間だ。勘違いして襲ってくる輩がいるかもしれない――そこでだ!この俺がお前のためにこのカラクリ町での設定を考えてやった!ありがたく思え」


 自信ありげに斑は両手を腰にあてた。その様子を見て真は「ほ、本当ですか!私、食べられないんですよね!?」と斑に飛びつく。


「一体どんな設定なんですか!?」

「聞いて驚くなよ?お前は―――『座敷わらし』だ!」

「…座敷わらし?」

「ああ、『座敷わらし」は知っているか?」

「ええと、確か…、住み着いた家に幸せをもたらすと言われている、着物をきた女の子の物の怪ですよね?」

「そうだ、その逆もあるがな。とにかく彼女の起こす怪奇現象、姿を見たものは幸せになれるとも言われている。お前はその座敷わらしで、住み着いていた家が潰れてしまい、行く当てもなくカラクリここへやってきた…という事だ」

「なるほど…」


 真は少し考えて「いいかもしれません」と斑に言う。その発言に、斑は輝く笑顔を見せる。


「そうか、そうと決まれば早速行こうじゃないか。カラクリ町の観光も兼ねてな」

「いいですけど、なるべく早めに帰らないとですよ」

「承知の上で言っているんだ!」


 ご機嫌な様子で、真は斑を見つめる。こんな妖怪もいるのだと少し微笑ましくなった。


「……いいかもしれませんね、座敷わらし」


 真の脳裏に、まだ人間界に居た頃のことを思い出す。傷つけられて落書きされた机、和式トイレの中に置かれた自分の体操着、そして人間たちの濁った声。


 それをかき消すかのように、ぶんぶんと頭をふった。


 本当に真にとって、ぴったりの設定だったのだ。





  ――――疫病神だと罵られた真には。



   ****


 「酷い有様だな…」

 「墨汁がいっぱい飛び散ってます…、まるで血しぶきみたいですね」


 斑と真はダル爺とヒツ子の家へとやってきた。いわゆる現場検証というものだ。彼の家は和風といった感じで入り口付近には金魚がいる小さな池、庭には松、桜といった日本らしいものが揃っている。入ったとき、ものすごい墨の匂いに思わず鼻を覆った二人。外見はいたって普通なのだが、ヒツ子の部屋のみ墨汁で真っ黒だったのだ。


「ダル爺さんのいっていた走り書きされていたという文字は一体何処にあるんでしょうか…」

「部屋も荒らされていているし、全部墨汁だらけでわからないな」

「重ねて読めなかったっていうのはこれだったんですね」


 鼻を覆いながら入っていく真と斑。幸い、墨汁は乾いているため服が汚れる心配はなかった。二人は頷いて、部屋を探索しはじめた。


「それにしても、どうしてヒツ子さんは攫われてしまったんでしょう」

「さあな、それを暴くのが俺達の仕事だろ」

「仮!仮の話ですよ、コックリさん。例えば犯人の人質とか、それとも犯人と不倫関係にあって誘拐と見せかけて駆け落ちするために、わざと部屋を汚したとか…」

「まだ犯人がどんな奴なのかわかっていないだろ、そんな仮の話をしても―――…」


すると、斑の手がピタリと止まった。手には何やら本のようなものがあった。


「…真」

「はいっ?」

「お前、これ読めるか?」


 調べている最中、斑はその本をペラペラとめくっていた。すると、そこには斑が読めない字が書かれていたのだった。


「どれですか?」

「これなんだが、読めるか?随分汚い字だな」

「っ…コックリさん、これダル爺の言っていた走り書きですよ!」

「何だと!?」

「襲われる寸前に書いていたんじゃないかと。でも、どうして…」

「何かわかったのか?」

「他のページにある字は私にとって読めない字なんです。それはコックリさんもわかりますよね」

「ああ、簡単にいえば妖怪の字だな」

「でもこのページだけ、人間の字で書かれている…、こんなのおかしいですよ」


 その走り書きされていたページにはこう書かれていた。


『 ナリスマシ ウソツキ コイビト タスケテ 』


「成りすまし、嘘つき、恋人、助けて…」

「成る程な。その『テ』という字を書いていたときに攫われたということか。そして抵抗するために力を使って部屋を真っ黒にした。机のテーブルの墨汁は、この日記を書くためのものだったんだな」

「コックリさん、日記にはなんて書いてあったんですか?」


 真が聞くと斑は「ちょっと待ってくれ」と日記を開く。斑は読めても、真は読めなかったので読み上げることにした。


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