べこべあ
【第37回フリーワンライ】
お題:
魚と星空
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
鏡を見ると、そこには現実世界と左右逆になったもう一つの世界があるようにも見える。
勿論、鏡の中に世界などはない。瓜二つの鏡像世界は鏡の中ではなく、我々の関知出来ない別の宇宙に存在する。
鏡像世界は現実世界が単純に左右反転した宇宙ではない。
その世界では海は頭上にあった。逆に、大地の下には空がある。魚は頭上で泳ぎ、鳥は足下で飛んだ。
朝は夜で、夜は朝だ。人々は「おはよう」と言って眠り、「こんにちは」と挨拶して別れる。
鏡像世界では、上下左右だけでなく概念すらも反転していた。
時間は逆行するため、誕生日を迎えれば若返る。人々は起こっていないことを事前に知っているが、時間が戻るのでそれを忘れて行き、起こるべき物事は不可避で起こる。
鏡像世界でも今日は二月十四日、バレンタイン。
夜――鏡像世界における朝、星空の海を魚が群れをなして幻想的に泳いでいる。街角で男女が「さようなら」と言って出会った。
これ以上ないほどロマンチックな雰囲気だった。
女は熱っぽく頬を染めて、恋人に囁くように言った。
「あなたのことが好きです」
『べこべあ』了
「魚と星空」というお題を見て、頭上の夜空を過ぎる魚影を想像した。実に幻想的である。
……それの何がどうなったらこんなことになるのか。どうしてこうなった。