エルフの雫
妻の叫び声を聞いたヴィルは走り出していた。これ以上、耐えることなんて出来なかった。
バタンと大きな音がなって、ウィルリアの部屋のドアが開いた。
そこには、床に倒れたエリュクトとベッドの上で壊れたオモチャのように身体を痙攣させたウィルリアがいた。
「ヴィル…さんですか?すいません、残りの治療をお願いします…。後は、この薬を飲ませて下さい。」
エリュクトは、そう言って右手に握った瓶を床に置く。
そう、エルフの雫だった。
「お、おぅ。わかった。」
こんな状況になった理由がわからない以上、ヴィルには何も出来ない。
エリュクトが何かをした事は確定的だが、かと言ってキレて殴りかかっても仕方ないのだ。
エルフの雫をそっと手に取り、口に含む。
そして、ヴィルはウィルリアと口付けを交わした。
ガクガクと痙攣しているウィルリアに通常のやり方で飲ませられるとは思えなかったのだ。
ウィルリアが嚥下したのを確認してから、口を離す。
少しずつ、ウィルリアの身体の痙攣が収まり、そっと目を開ける。
「ウィルリア、何があった?治療をしてたんじゃないのか?」
ウィルリアはそっと首を左右に振った。
「わかりません。ただ、体の中の何かが千切れた感じがしました。」
そう言って、床に倒れたエリュクトに目を向ける。
再度、バタンとドアが開かれた。
そこにはユーリアの姿があった。
「母様!大丈夫ですか!?」
ウィルリアは、駆け寄ってきた娘にそっと手を伸ばす。
「大丈夫ですよ、ユーリア。」
ウィルリアは、いつも以上に軽い体に驚く。
あんなに重かった体が、まるで重りを捨てたかのように軽くなったのだ。
また、ヴィルの体にも変化があった。
エルフの雫を口に含んだ事で、魔力炉に溜まっていた不純物が流され、魔力の動きが格段に良くなったのだ。
「ヴィル。」
ウィルリアの問いにヴィルも答える。
「あぁ、この少年が、助けてくれたんだろう。」
少なくとも、飲んだのはエルフの雫なのだから。