呪術
ヴィルはユーリアの手を引いて、部屋の外へと出る。
ヴィルが部屋を出てから程なくして、中から妻の声とは思えない声とともに途方もない量の魔力が溢れ出す。
その魔力量に驚くと同時に、それを自分に今まで感じさせもしなかった事にヴィルは驚いた。
「父様!?母様が!叫んでます!早く戻ってやめさせないと!」
ユーリアが必死にウィルリアの下へと走ろうとする。
ユーリアの必死さもわかるが、ヴィルはいつの間にやら、エリュクトを信用していた。
或いは、それがエリュクトという人間なのかもしれない。
だから、ヴィルはユーリアの手を強く握ったまま、部屋から歩みを進める。
「父様!何してるんですか!?早く行かないと、母様が死んでしまいます!」
ヴィル自身、今すぐ走って行きたいのだ。
だが、今は少年を信用するしかない。
それに、エルフの雫を持っているのは少年なのだ。
「ユーリア、ウィルリアは大丈夫だ。あの少年がなんとかしてくれる。」
その言葉を呟いたヴィル自身も心配そうにウィルリアのほうを見つめていた。
しかし、その頃、エリュクト自身も予想外な状況に立っていた。
魔力炉を守る魔力膜が予想以上に硬かったのだ。
それに、魔力膜を切り裂こうとしている時点で、ここまでの痛みが発生することも予想外だった。
「ウィルリアさん、一気に魔力膜を切り裂きます。今まで以上の痛みが発生しますが、なんとか耐えて下さい。」
エリュクトの頭の片隅にはある仮説が立っていた。ウィルリアの身に呪術がかかっている可能性である。
それならば、ウィルリアの体調が悪いのも、魔力膜が硬化し魔力炉の調子が悪いのも納得できる。
エリュクトは、自分の中にある魔力炉を更に稼働させる。魔力に物を言わせて、ウィルリアの魔力膜を切り裂いた。
その瞬間、ウィルリアの声が空気を切り裂いた。余りにも鋭いために聞き取りづらい高音が辺りに響いた。
ドクンと、エリュクトの心臓を揺らした。
この感覚には、覚えがあった。
呪われた、呪われている感覚。
エリュクトの呼吸が不安定になる。
これは、直接魔力炉に張られた呪術に触れてしまったが故の結果。
エリュクトは、自身の身体を巡る魔力の流れが鈍り、魔力炉の稼働が正常でなくなっていく感覚に目を閉じる。
自らの魔力炉を自らの意思で強制的に動かす。そうすることで、呪術に抵抗できるのだ。
少しずつ、エリュクトの魔力炉が正常な状態を取り戻していく。
エリュクトは、更に魔力を込めてウィルリアの魔力炉の中に埋め込まれた呪術の核を包み、引き千切った。
その瞬間、先程の声よりも大きい叫び声が周りに響いた。