フィア
宿屋の中に入ると恰幅のいい女性が僕達に声をかけてくる。
「いらっしゃい。何泊、何部屋だい?」
「2部屋、3泊で。いくら?」
「大銅貨4枚。1枚追加で朝夕のご飯をつけるよ。」
「じゃあ、朝夕付きで。」
僕が銀貨を女性に渡すと、大銅貨5枚と鍵を二つ渡してくれる。
「二階の端っこの部屋二つだ。朝は4時から6時まで、夜は6時から12時まで出せる。」
「わかった。ありがとね。」
僕は女の子の手を引き、階段を上がる。
鍵をエルに一つ渡すが、一緒に一つの部屋に入る。
僕は女の子をベッドに座らせ、窓の前に立つ。
「エル、ドアの前に立って、その子が逃げようとしたら、捕まえて。さて、君、キリキリと話そうか。」
「わ、わかった。」
女の子は、ボソリと話し始める。
「あたしは、フィア。さっきの借金の話だけど。パパが、この街に引っ越して来た時に、あそこの商品を壊しちゃって、凄い金額を請求されたの。」
「いくら?後、何を壊したの?」
「金貨80枚。壊したのは、水晶みたい。調べてみても、そんな金額のものなんて、あそこは入荷してない。その水晶だって、一個銀貨2枚で取引したヤツらしいの。」
金額80枚とは、中々の金額だ。
この宿で言えば、一日の生活費が大銅貨1枚と銅貨3枚程度なのだ。
それから計算して、年間、金貨4枚、銀貨7枚、大銅貨4枚、銅貨5枚で生活費できる。
大体、金貨5枚である。
16年間の生活費を要求しているとは、中々セコイ。
「証拠は?その話の根拠は?何を持って、お前の親が騙されて借金を負わされたと証明する?借金の金額が金貨80枚もあると証明する?」
「エリュクト!何を言ってるのよ!?そんな風に言うのは…。」
僕は、下を向いているフィアの顔を無理矢理上げさせる。
目を見つめて、手を離した。
「フィア、目が笑ってる。嘘をつくなら、もう少し上手くついた方がいい。借金は精々金貨1枚程度か?なら、払えない額じゃない。エル、やはり、コイツは、僕の部屋で寝かせるコトにする。エルだと、騙されてフィアを解放しかねない。」
僕は、腕を振る。
「さてと、少しばかり、調べ物をしてくる。エルは自分の部屋に行ってもいいよ。」
「エリュクト、床を同じにしてはならないってヤツはどうするの?エリュクトが何もしないなんて、断言出来ないでしょ?」
「断言できるが…。そうだな。もう一部屋取るか?」
「そこまでは…。」
「エルも騙されないとは断言出来ないだろう?」
エルが止まる。
多分騙されると思っているのだろう。
「それに、今夜は多分宿には戻らないと思う。だから、今夜のところは大丈夫だ。それと、これがフィアの今夜の夕食だ。」
僕はアイテムボックスから取り出したお弁当を手渡す。
フィアの顔が疑問でいっぱいになるが、無視して部屋を出る。
宿屋のおばちゃんに挨拶して、僕は外にでた。