街にて
やっとの思いで、精霊や旅人に聞きながら辿り着いた街は感動も一入だった。
門の前には門番がおり、軽く挨拶して僕たちは街に入った。
宿屋を探して歩き始めたところで、事件に巻き込まれるコトとなった。
走る軽装の女の子。
それを追いかける怖い顔の男達。
「どちらが悪者か、当てよっか。エル。」
僕とエルで同時に指を差した。
「女の子!」「男達!」
それぞれ、僕は女の子、エルは男達を指差した。
「完全に、追いかけられてる女の子が悪者だよ。だって、逃げてるのは何かしたからでしょ?」
「素直過ぎよ。逃げてるのは、女性の尊厳が奪われそうになっているからに決まってるじゃない。」
「けど、考えてみてよ。女性の尊厳が奪われそうになってるなら、なんでこんな大通りまで男達は追いかけてきているの?少なくとも、公に出来ない事情があるなら、彼らは追いかけられないはずだ。」
そんな会話を繰り広げていたが、女の子が僕らの間に割り込んだせいで、中断することになった。
「もう!如何にも女の子が困ってるんだから、少しくらい助けようとしなさいよ!ほら、あの男達を追っ払ってよ!」
「僕はパス。エル、男達が悪いって言ってたんだから、助けてあげたら?」
僕はこの子を助ける気はおきなかった。
「アンタの言ったコトを聞いた後だと、なんだかこの子の方が悪者に見えるわね。だから、私も助けないでおこうかしら。」
「ちょっと!何それ!?」
男達は僕らの前に立ち、深呼吸を繰り返していた。
しばらく深呼吸を続けてから、僕達に声をかけてきた。
「お前、その女をこちらに寄越せ。そいつには借金を払ってもらう必要がある。」
「んー、構わないけど…。ちなみに、どんな借金か聞いてもいい?」
答えは後ろの少女から返ってきた。
「アイツラが私のパパとママを騙して借金を作らせたのよ!そんなの返す必要ないわ!」
「今のは本当?後、この子を引き渡したら、どうやってお金を返して貰う気なの?」
エルを見ると、エルが戦力にならないコトを如実に表していた。
「ちげぇ。アイツの両親がぶち壊したもんの代金をいただいてるだけだ。それに、そのベッピンさんだ。返し方なんて決まってるだろ?」
エルがポケットから金を出そうとしているのを、手を掴むコトで止める。
「エル。彼らが仲間でない証明は出来ていない。詐欺グループの一人だったらどうするの?」
僕はエルへと呟く。
男達には聞こえなかっただろう。
「女性にそういった行動は、少し許せないかな。でも、君達の言い分はわかった。ならば、取引をしないか?銀貨1枚を払おう。僕らがこの街にいる間はこの子に手を出さないでもらえるかな?身柄は、僕達が預かる。」
「銀貨3枚だ。この街から出る時にソイツをこちらに渡せば1枚返す。出る時に逃げられていたら、ソイツの借金を全て負担して貰う。」
「んー、銀貨1枚と大銅貨5枚。」
男が首を振る。
「銀貨2枚と大銅貨5枚。で、一枚返そう。」
「あのさぁ、舐めるなよ?そもそも払わなくたって構わないんだ。そこの女の子に君達は追いつけてなかったし、そもそも体力的に差があり過ぎ。そんなんで捕まえられるわかないでしょ?」
男の顔が強張るが、すぐに切り替わる。
「仲間は待ち伏せしてる。どっちにしろすぐに捕まる。」
僕は銀貨1枚を弾く。
男がキャッチした時点で、僕は女の子を連れて歩き始める。
「おい!」
「ハッタリはバレた時点でダメだよ。嘘の分はマイナス。行こう、エル。」
まさか、街の入り口で事件に巻き込まれるとは思わなかった。
僕は女の子の身体を支点にして、くるりと回し蹴りを放つ。
見事に男の顎に辺り、バタリと倒れる。
ポロリと落ちた銀貨を足で弾いて、キャッチする。
「暴力の分マイナス。この場で、僕らの能力もわからずに仕掛けるべきではないね。」
歩いていた少年が恐怖を顔に浮かべていたので、僕はマジックを披露することにする。
ポケットから銅貨を一枚だす。
ピンッと銅貨を弾き、キャッチをして手を開く。
手の中には、銅貨はもうすでになかった。
僕は少年を指差してから、自分のポケットを指差す。
少年は自分のポケットを探り、中から驚いた顔で銅貨を取り出した。
「あげる。ここら辺でオススメの宿屋はどこ?」
僕が少年に問いかけると、一つの宿屋を指差した。
「ありがと。」
僕は手を振りながら、女の子の手を引いて宿屋へ向かった。