空へ
僕は起き上がる。
ユニもそれに気付いて僕の上からよける。
が、しかし、昨日は気にしていなかったが、ここはどこなのだろうか?
王都への道の中に、森を通る道はなかったはずだ。
少し探すと、木の実が見つかる。
いくつかを取って、朝食とすることにした。
食べ物は現地調達が望ましいと姉も言っていたのだ。
とはいえ、一人で食べるのも味気ないので、エルを待つことにした。
しかし、エルは起きない。
一時間程経って、太陽も元気に空を昇って来たが、一向にエルは起きない。
しかし、どうしたものか。
姉さんは女性の寝顔は見てはいけないと再三言っていたのだ。
「エルー?」
声をかけて見るが、動きはない。
更に一時間程経ったが、全く動きがない。
いい加減、お預けをくらっているユニも限界が来たのだろう。
テントを蹴る。
ガスガスと蹴りつけ、いななく。
しかし、起きない。
我慢の限界にきているユニに木の実を投げるとパクリと口に咥えて地面に起き、食べ始める。
いい加減起こさないと、旅が始まらない。
僕は指を鳴らす。
すると、大音量の小さな爆発が起きる。
小さな爆発を起こし、音を増幅させたのだ。
流石に、これには驚いたのか、エルが「キャッ」と可愛らしい声をあげた。
ユニもまた、驚いて僕を見ていた。
僕はもう一つ、木の実をユニに投げる。
エルが出てきたところで、声をかける。
「起きた?」
エルはキョロキョロと周りを見回してから、敵がいないのを確認して溜息をつく。
溜息をつきたいのは、僕なのだけど。
「今のは…、エリュクトがやったの?」
「うん。音を増幅させたんだ。」
僕は木の実をエルへと放る。
僕もまた、木の実を齧る。
口の中に広がる甘みと酸味。
噛んだ瞬間に溢れる果汁。
それは、2時間も待たされた空腹加減によって美味しさが増幅され、この上なく美味しい果実だった。
「あのさ、エル。起きるの遅くない?もう、ガッツリ日が昇ってきてるんだけど?後2時間もしないウチに昼だよ?」
「悪かったわね。朝は苦手なのよ。」
エルも木の実を齧る。
「これ、リンゴ?美味しいわね。」
「リンゴって言うんだ、コレ。そういえば、さっきからずっと気になってるんだけど、ここどこ?」
「さぁ?なんかわからないけど、地図の通りきたら、ここだったわよ?」
地図の通りとな。
「そうなんだ。実はエルって、方向音痴?それとも、地図読めないの?」
「方向音痴なわけないじゃない!少し、苦手なだけよ…。」
必死さから、むしろ伝わってきた。
エルは、方向音痴だ。
「方向音痴なのね…。仕方ない、少し待ってて。」
僕の口は動くが、音を響かせはしない。
代わりに、魔力を響かせる。
魔力言語と呼ばれる術だ。これならば、どんな精霊にもわかる、賢い動物なら会話もできる。
「何してるの?」
「王都の方向を聞いてたんだ。大体の方向はわかった。とりあえず、森を出よう。流石に森を歩くのはエルにとって危険過ぎる。」
森を歩き慣れた僕やユニならいざ知らず、エルでは足手まといにしかならない。
僕はユニに跨り、エルへと手を伸ばす。
すると、おずおずとエルは僕の手を掴む。
エルを引っ張って、ユニの上に乗せる。
丁度、僕がエルを抱きしめるように座った。
そして、ユニが走り始めると、空へと段々上っていく。
空とは意外と、気持ちがいいものだ。
エルは怖いのか必死に目を閉じている。
それを見ていると、いつもとの違いが可愛らしく感じさせる。
やっと、普通に王都へ向かえるようだ。
次に仲間を作るなら、地図が読める、方向音痴でないものがいいと思いながら、僕は風を感じていた。